じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

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サーバーの容量事情により、写真ファイルはこちらに移しました。 オポッサム。タスマニアで見た野生動物は、数種のワラビーとこのオポッサムだけだった。山歩き最終日に泊まったロッジではオージービーフがふるまわれたが、その時に使った焼肉用鉄板の上の僅かな肉片や油を舐めに来たようだ。


1月19日(日)

【ちょっと思ったこと】

センター試験の実施ミス

 全国593会場、60万2887人が受験した大学入試センター試験は、おおむね無事に終了したようだ。そんななか、
  1. 大分大では、外国語の試験を監督者が勘違いして約10分早く始めたため、終了時間を繰り上げて対応。
  2. 新潟大と山口大の一部では、監督者による試験前の説明が長引くなどしたため、開始が5〜7分遅れた。
という実施上のミスがあったという。受験生に実害が無かったとはいえ、こういうことは、事前の説明会で周知徹底していれば防げたはず。「説明が長引く」というが、監督者はマニュアルに記された「説明事項」以外に余計なことをしゃべってはイケナイきまりになっているはずだ。特定の会場で長引くなどということはありえない。

 この種のミスは、「試験監督は何年もやっている」という「ベテラン教員」の気のゆるみからおこりやすい。来年度は5教科7科目実施で時間割も変わるものと思われるが、重大ミスを起こさないためにも、些細な出来事を含めて防止策を講じてもらいたいものだ。

【思ったこと】
_30119(日)[教育]センター試験問題に今年もツッコミを入れる(1)ストレス症状や解消法は職種により異なるか?

 毎年この時期に、センター試験問題についていろんなツッコミを入れることを楽しみにしている。もともとは英語問題のみであったが、最近では、総合理科や現代社会にも興味深い問題が出題されており見逃せない。ちなみに、これまでの記事は、 となっている。なお念のためお断りしておくが、ツッコミを入れるのは出題の妥当性を批判する目的ではない。問題に使われた文章の内容自体を吟味し、クリティカルな視点から、別の見方があることを示すのがこの連載の真の狙いである。

 さて、例によって、まずは英語問題から。センター試験の英語では、ほぼ毎年、行動科学系の実験・調査を紹介する記事が出題されている。河合塾の速報サイトにアクセスしたところ、今回も予想どおり、第4問がストレスに関するものであった。

 まず問題文の概略を箇条書きにすると
  • 産業(職業)心理学会(OPA)は、4つの異なる職種を対象に、ストレス症状のタイプ、及び、ストレス解消法の違いについて調査を行った。
  • 職種は、看護婦(師)、航空管制官(ATC)、コンピュータ・プログラマー、高校教員の4種。
  • ストレス症状のタイプとして最も多く挙げられたのは、高血圧、過食、抑うつ、不眠の4種。それぞれの比率は職種により異なっていた。
    • 看護師はストレス時に過食になりやすい。
    • 管制官は他の症状に比べると高血圧がいちばん多い。
    • プログラマーの多くはイライラや不安を感じやすい。
    • 高校教員は不眠を訴えた。
  • ストレス解消法の主なものは5つ。これらも職種により違いがあった。
    • 看護師は、他者とのおしゃべりやショッピングが普通。時々は音楽鑑賞も。
    • 管制官は、ショッピングや睡眠、時間があればスポーツ。
    • プログラマーは、睡眠あるいはスポーツ。買い物や他者とのおしゃべりをストレス解消に用いる人は相対的に少ない。
    • 教員は、他者との会話と音楽鑑賞(特にクラシック音楽)を好む。
  • OPAは、職種の違いによりストレス症状が異なり、かつ、ストレス解消法としても異なる方法が用いられていると結論した。


 以上の記事で疑問に思ったのは、まず、職種が異なると、本当にストレス症状に違いがあるのかという点だ。数値が示されていないので統計的な有意差があるかどうかは定かではないが、いずれの職種でも、さまざまなタイプのストレス症状が出ており、「この職業ならこういう症状」と一概に決めつけることはできない。

 次に、もし職種によるストレス症状の違いが有意であったとしても、仕事内容がそれらの違いの原因になっているかどうかは定かではないという点だ。まず、男女の比率が異なるだろう。男女の雇用機会が均等になりつつあるとはいえ、看護師は依然として女性が多いだろうし、管制官やプログラマーは男性のほうが多いかもしれない。もし過食が女性にありがちな症状であるとすると、「看護師だから過食」ではなくて、「女性だから過食」というように原因を帰属させるべきであろう。

 ストレス解消法についても同じことが言える。職種が異なれば、肉体的な疲労の度合いや、休み時間の取り方も変わってくるだろう。例えば看護師や教員は、肉体的にもくたびれるし、なかなか自由な時間がとれない。スポーツをするほどの元気が無くなっているかもしれない。それに対して、管制官やプログラマーは、どちらかというと座りっぱなしの仕事が多い。それゆえ、体を動かすスポーツを好むかもしれない。

 このほか職業の性質上、看護師や教員のほうがいろいろな人(同僚や患者や生徒など)と接触する機会が多いし、適性上、社交的な人が多いかもしれない。ならば、他者とのおしゃべりを好むことは当然である。

 本文のあとの設問の中にもあったが、OPAの調査の主たる目的は、職業の種類とストレス症状の関係を調べるという点にあったようだ。記述的なレベルなら、ある程度の比率の差は見い出せるだろうが、職種が異なるからストレス症状が異なるとか、ストレス症状が異なるから解消法も異なっているかのような因果的な推測は、このデータだけからは難しい。

 実際にグラフに示された比率の差は、そんなに顕著ではない。「あなたは○○の仕事をしているから、△△というストレス症状が起こりやすく、××で解消する傾向が大きい」などとは到底言えないのである。

 ここに示された記事から言える真の結論は、

●ストレス症状や解消法には個体差がある。職種が異なっていても、画一的に論じることはできない。

と訂正すべきであると思う。




 このほか、英語の第3問では、コンピュータへの興味の男女差の話題が取り上げられていた。
コンピュータを教える時には、男の子と女の子で学習態度が異なる。男の子は、コンピュータの操作自体を面白がる。いっぽう女の子は、コンピュータを使ってどういうことができるのかに価値を見出した。つまり、コンピュータは、男の子にとっては目的、女の子にとっては手段というわけだ。
本文最後ではいちおう「これを確証するにはさらに研究が必要だ」と断り書きがしてあるが、うーむ、どうかなあ。ジェンダーとかセクハラとかの議論が活発な現代、「男の子は○○、女の子は△△..」という固定観念を植えつけるのはどうかなあと思う。

 上記のストレスの問題もそうだが、職業とか男女差というような集団でくくって平均値的に人間をとらえても真の因果関係は出てこない。例えば、それぞれの看護師はどういう状況でストレスを受けやすいのか、それはどこまで多様な症状をもたらすのかを個体本位で分析しなければならない。コンピュータの場合も、男女で分ける前に、子どもたちの行動がどういうところで強化されやすいのかを詳細に検討すべきである。男女を比較軸にすること自体が誤っており、そんなことを調べても何一つ生産的な結論は出てこない。

 次回は、現代社会の問題を取り上げる予定。