【連載】チコちゃんに叱られる! ストローの由来
11月21日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。この日は、
- なぜストローで飲むようになった?
- なぜフクロウの首はあんなに回る?
- なぜ日本の天気予報の雨は傘マーク?
- 【ひだまりの縁側で…】難しい漢字歌『林檎』
という4つの話題が取り上げられた。本日はこのうちの1.について考察する。
放送ではストローで飲むようになったのは「ビールを美味しく飲むため」が正解であると説明された。メソポタミア考古学教育研究所の小泉龍人(たつんど)さん&ナレーションによる解説は以下の通り【要約・改変あり】。
- ストローが使われ始めたのは今から5000年以上前の古代メソポタミア文明を築いたシュメール人であると考えられている。
- 古代メソポタミア文明は現在のイラク南部。チグリス・ユーフラテス川流域に栄えた人類最初の高度な都市文明。
- シュメール人がストローを生み出したのはビールをおいしく飲むため。
- 当時のメソポタミアのビールは今とは造り方が全然違っていた。
- この文明では古くからワインを御神酒にして飲んでいたが、原料となるブドウは高温・乾燥のため栽培が難しかった。
- そこでワインの代わりに大麦を原料としたビールを造った。
- しかしできあがったビールをコップにつぐと、バッピルやマッシュに含まれていた大麦の殻が表面に浮かんでいたと推測される。
- バッピルとは大麦の麦芽で作ったパン。マッシュは大麦の麦芽を水と一緒に加熱しておかゆのようにしてどろどろにしてから乾燥させたもの。これらを水に溶かして麦汁(ばくじゅう)を作り、そこに少量の蜂蜜やワインを加えて発酵させたものが当時のビールだった。
- しかし、当時はフィルターでこす技術が未熟だったため、大麦の殻などの不純物が表面に浮いた状態でそのままでは飲みにくかった。
- さらに乾燥した地域で飲まれていたため、ビールの水分や甘い匂いに誘われていろいろな虫たちがビールの壺に入り込んでいた可能性がある。
- またコップに口をつけて飲むと口の周りに虫たちが寄ってきた可能性もある。
- そこでビールの原料となった麦の藁、あるいは葦のような中が空洞になった植物が使われるようになった。大麦の茎の直径は約4mmと細かったため、ストローを挿して吸えば、表面に浮いたクズや虫が入りにくかった。
- 実際、シュメール人の古代都市遺跡のウルからは、ビール入りの壺から長いストローでビールを吸っている様子を描いた絵が見つかっている。
- ウルの遺跡の女王の墓からは長さ約95cm、直径約1cmで銅製の管に金箔と青色のラピスラズリで装飾されたストローが見つかっている(紀元前2600年頃)
- その後一般庶民もビールを飲めるような居酒屋も誕生した。
- つまり、ストローで飲むようになったのは古代メソポタミアのシュメール人がビールを飲むときにゴミや虫を口に入らないように編み出したから。
ビールを濾す技術が発達すると、上掲のような目的ではストローは使われなくなった。その後長らくストローが使われた記録は残っていないが、現在に至るまでは次のような経緯がある。
- 12世紀頃のヨーロッパでカトリック教会の儀式の際にワインをこぼさないようストローが使用されていたという記録が残っている。
- 1920年代に入るとアメリカでは赤い口紅が流行。瓶やコップに口紅のあとがつくのを嫌って女性たちがストローを使用。
- 20世紀中頃になると氷入りの飲物が普及すると氷が口に入らないように多くの人がストローを使用。
- タピオカのように、(口に入らない目的ではなく)口に入りやすいようにするという新たな目的のストローも登場。
なお塚原アナから以下のような説明があった。
- ストローは「麦のワラ」という意味の英語。「麦のワラ」で飲物を飲んだから名づけられた。
- 古代メソポタミアのビールの味は現在のビールより甘くアルコール度数が低かった。
ここからは私の感想・考察を述べる。
一般論として何かの「由来」や「起源」とはどういうものかを復習しておこう。『新明解』によれば、
- 由来;(一)どのようにして、それが現在まで伝えられて来たかの歴史。来歴(ライレキ)
- 起源:物事の起こり。
こうした語釈から言えば、古代メソポタミア文明で使われていた「ストロー」と現在使われている「ストロー」は別物であり、現在のストローの起源はどうやら1920年代ということになりそうだ。
今回の事例に限らないが、「由来」とか「起源」であるためには単に大昔によく似たモノがあったという証拠を示すだけでなく、それが少しずつ形を変えながらも現代にどう伝えられてきたのかという道筋をたどる必要があると思う。
これは例えば『オセロゲーム』の由来を考えてみればよい。大昔に類似のルールのゲームがあると分かったとしても、それが現在まで受け継がれていなければルーツであるとは必ずしも言えない。
いずれにせよ、由来とか起源と言う時には対象となるものを1つのカテゴリーに含めるか、それとも全く別のカテゴリーに分けて考えるかという基準の問題がつきまとう。1つにするか別々に分けるかは絶対的なものではなく、おそらく有用性によって決まる。
次回に続く。
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