じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 昨日の日記に美しい夕焼けの写真を掲載したが、岡山ではその後、8月9日未明から大雨が降り続き、8月10日午前7時現在の72時間積算雨量は108.0ミリとなった。岡山県・岡山地域では8月9日07時現在で大雨・洪水警報と雷注意報が発表されている。

 写真は、早朝の散歩時に見た座主川。


8月9日(日)

【思ったこと】
_90809(日)[一般]裁判員制度について考える(9)裁判員制度論議と死刑廃止論議は分けて考えるべき

 8月9日05時27分発信のNHKオンライニュースに、「死刑反対 元裁判官の約半数という記事があったが、これは読者に誤解を与える見出しであると思う。正確を期するために全文を引用すると、
死刑制度について市民グループが行ったアンケートの結果、元裁判官およそ100人の半数近くが死刑制度に反対と答えたことがわかりました。

弁護士などで作る市民グループ「死刑廃止フォーラム90」は、裁判官の経験がある全国の研究者や弁護士など900人を対象に先月アンケートを行い、106人から回答を得ました。それによりますと、死刑制度に賛成と答えた元裁判官が53人だったのに対し、反対と答えた元裁判官は48人で半数近くに上りました。106人のうち、実際に死刑判決を出したことがあると答えたのは21人で、このうち3人に1人に当たる7人が死刑制度に反対でした。一方、裁判で判断がまちがうことは避けられないと答えたのは87人で82%に上りました。死刑制度に反対の元裁判官からは「被害者のことを思うと死をもって償わざるをえないこともあると考えていたが、判断がまちがうことが避けられないことから考えを変えた」といった意見や、「えん罪の人を死刑にしてしまう危険がある」といった指摘もありました。市民グループは「裁判官が死刑制度に疑問を感じながら判決を出している様子がうかがえる。裁判員制度が始まり、一般の人が死刑にかかわるようになるので、死刑制度が必要か議論を始めるべきだ」と話しています。
という本文になっている。このうち、冒頭のリード文(トピックセンテンス)では、「元裁判官およそ100人の半数近くが死刑制度に反対と答えた」とされているが、そのあとの詳細記事では「裁判官の経験がある全国の研究者や弁護士など900人を対象に先月アンケートを行い、106人から回答を得ました。」となっており、回答率は約11.8%にすぎないことが分かる。このように回答率が低いアンケートは、標本調査としては失格であり、少なくともなぜ回答率が低かったのかという理由を付して報道するべきであろう。アンケート実施者が「死刑廃止フォーラム90」という団体であったため、自分の回答が死刑廃止運動に利用されるのではないかと心配して回答を拒否した人も多かったのではないかと推測される。またそういう中でも、死刑制度に賛成した元裁判官が53人にのぼっていたということは、どうとらえるべきなのか。「約半数が反対」という前に「死刑制度賛成者のほうが反対者を上回った」という結果のほうに先に目を向け、見出しに反映させるべきである。




 上記の「アンケート結果報道」の不備はさておき、死刑廃止論者のロジックには納得できないと部分がある。このうち、「えん罪の人を死刑にしてしまう危険がある」といった指摘は、死刑廃止主張の本質的な理由とは異なる問題である。えん罪を避けなければならないというのは、死刑はもとより、懲役刑、さらには、ごく軽微は交通違反においても同じレベルで主張されなければならない。確かに死刑にしてしまったあとでえん罪であることが判明したら取り返しがつかないという理屈はあるが、それじゃあ、懲役刑ならいいのか、何年も服役させた後で、えん罪であったことの名誉を挽回させたところで元被告の人生が戻ってくるわけではあるまい。

 4月22日の日記(連載のインデックスはこちら)でも述べたように、現行犯と状況証拠認定では「人の裁き方」は大きく異なってくる。現行犯逮捕のように犯罪の事実が明確であるならば、一般市民が裁判員になって量刑判断を行うことはある程度可能かもしれないが、被告が有罪か無罪かというような事実認定に関わる決定を「素人の常識」や多数決などにゆだねてしまうことには断固反対である。

 4月20日の日記に述べたように、私は、
  • 第一段階の理由は、制度そのものが間違っていると思うから
  • 第二段階の理由は、「仮に裁判員制度を認めるとしても、裁判員の選び方には問題がある」と思うから
という2段階の理由で裁判員制度には断固反対しているが、えん罪の問題はこのうちの第一段階の理由の根幹をなすものである。




 ま、それはそれとして、裁判員制度は「憲法違反のデパート」と称されるほどの大きな問題をかかえている。この問題を議論するにあたって、死刑廃止論者と、存続論者(あるいは、死刑制度という現状を変える段階に至っていないとする時期尚早派)が対立をすることは好ましくない。いずれの立場でも、
  • 裁判員になることを嫌がっている人を強制的に駆り出し、異常で残虐な出来事にむりやり関わらせる。自身のプライバシーや思想をさらけ出して辞退のお許しを乞わない限りは、裁判員になることから逃れられない。
  • 素人の多数決で判決を出してしまうということの不公正さ。
という2点においては、共通の認識があるはずなので、このさい、手をとりあって、裁判員制度廃止のための運動に取り組むべきであると思う。

 不定期連載ながら次回に続く。