じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

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[今日の写真] [今日の写真] 文学部中庭で、トベラの木のてっぺんにツツジの花が咲くという面白い光景を見つけた(写真左)。成長力の強いツツジがトベラを追い抜いて枝を伸ばしたのかと思ったが、裏側(写真右)を見ると、立場は逆であることが分かった。どうやら、もともとツツジが生えていた所にトベラの種がこぼれ、ツツジに覆い被さるように枝を伸ばしていったようだ。てっぺんの花は、何とか一枝だけでも残しておきたいというツツジの最後の抵抗であったのだ。
このような花壇でも自然のお花畑でもそうだが、植物は常に競争状態にある。仲良く咲いているようで、じつは徹底した競争社会なのだ。


4月29日(木)

【思ったこと】
_40429(木)[一般]オーバードクターと非常勤講師の待遇

 昨日の日記で、私自身のオーバードクター時代に国民年金未納期間があることを告白した。オーバードクターというのは、その名前の通り、大学院博士課程を修了または退学した後、専任職に就くまでの期間を言うが、研究分野の違いや大学の方針により、その長さはまちまちである。

 私が在学していた頃は、文系の博士課程(博士後期課程)を3年終えただけで博士号を取得することはきわめて稀であった。この場合、大学によっては留年により最長6年間まで在籍を認めるところもあると聞くが、私の場合は、3年経過時点で無言の外圧により退学届けを提出させられた。

 就職先が定まらない時点で大学院を退学するということは、いろんな意味で不利になってくる。いちばん困るのは、退学から5年以内に免除職に就職しないと奨学金返済が義務づけられることである。4/20の日記に書いたように、私の場合は6年後の就職となったため、それ以降ずっと返済を続けてきた。このほか、大学院に在籍している限りは国民年金の加入義務も無かったし(あくまで当時の話)、学割も使えたし、また、在学証明書一通だけで被扶養者となることができた。大学院を退学してしまえば、タダの無職者にすぎない。

 オーバードクター時代にも、奨励研究員として新任助手程度の給与を受けられる制度があったがこれは一年限り。その後6年目になって科研費も貰える特別研究員の制度が新設され、私は栄えある一期生に採用されたが、2年目は就職により辞退。もう少し早く制度が始まっていればよかったのだが、今さらそんなことを言っても始まらない。




 私のオーバードクター時代はもっぱら、他大学や専修学校の非常勤講師により収入を得ていた。いちばん多い時は、週に13〜14コマ(1コマは90分もしくは100分)を担当していた。1コマあたりの単価は当時7000円程度だったので、14コマ受け持てば週給10万円、月当たり40万円以上となり、常勤の助手以上の収入となった。しかしこれはあくまで月間の最大値であり、夏休みや冬休みは完全に無収入となる。要するに、通年28回とすると、7000円×28回×14コマ=274万4000円となり、それ以上の年収を得ることは不可能であった。これは、月給20万円の常勤職より高収入であるように見えるが、常勤職ならば別にボーナスがあり、諸手当もつく。非常勤講師職は、それポッキリだ。

 この時代にいちばん気をつけたのが健康管理である。体調を崩して休講を余儀なくさせられれば、直ちに収入カットとなる。補講をさせてもらえるとも限らない。




 たまたま、4月28日付の朝日新聞に「非常勤講師――こんな処遇ではいけない」という社説が掲載されていた。その論旨を長谷川のほうで要約すると、
  1. 非常勤の教員は講義に応じて賃金が支払われるだけで、研究室も研究費もない。
  2. ほかに仕事を持たず、大学で教えることを専業にしている非常勤講師の場合は深刻だ。
  3. 首都圏や関西の非常勤講師組合の調査によると、1コマ、90分の講義を受け持って、平均賃金は年30回で計約30万円。年齢は平均で42歳。
  4. パートタイム教員が科目の3〜4割を担当しているのが日本の大学の現実。
  5. 非常勤講師がこんなに増えたのは、大学が人件費を抑えようとしたから。
  6. 私立大学への助成で、非常勤講師の賃金の補助単価を今年度から5割引き上げた。この際、私立大学は補助金に自主財源をもっと上乗せして、待遇を改善すべきだ。
  7. 国立大学の法人化後、非常勤講師はパートタイム労働法の適用を受けることになる
  8. いまや多彩なカリキュラムを組むには非常勤講師は欠かせない存在となっている。
  9. 非常勤講師の問題をいつまでも大学の恥部にしていてはいけない。
というようになるかと思う。

 平均年齢が42歳ということは、私自身が経験したようなオーバードクターとは異なり、常勤職に就くことはある程度諦め、パート教員として生計を立てている人がおられるということだろう。その辛い生活は十分にお察し申し上げます。

 しかし、私の知っている範囲で言えば、上記の社説の論旨は、少なくとも岡大の方針とは異なる部分があるようにも思える。というのは、もし、大学が人件費抑制のために非常勤講師を雇用するというのであれば、一般企業と同様、今後ますますパート化が進むものと予想されるが、少なくとも岡大では、これとは逆に、非常勤講師の徹底削減を目ざしているのである。要するに、専任教員に他大学に非常勤講師に行く余裕があるくらいなら、本務校で最大限に授業を担当すべきだ、であるなら、そんなに多くの非常勤講師を雇用する必要はなかろう、という方針に基づくものと思われる。

 上記の8.で「いまや多彩なカリキュラムを組むには非常勤講師は欠かせない存在となっている」とあるが、これはむしろ、自校の専任教員では得難いユニークな分野について、その道で秀でた研究業績をあげている他大学教員を集中講義で招請するという場合に当てはまるものと思う。岡大でもそのような枠は確保、拡充されるものと思われるが、そのことが、大学で教えることを専業にしているパートタイム教員の待遇改善に繋がるとは到底思えない。

 もっとも、専任教員たちが他大学への必然性の無い(単なる副収入目的の)出講を取りやめるようになれば、結果的に、それぞれの大学は専任枠を増やさざるを得ない。パートタイム教員の改善は、最終的には専任職への雇用という形で採用されることが望ましいと思う。もしくは、専任職を全廃し、全員に年俸制、任期制を課すべきである。