じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

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[今日の写真] アネモネの二番花が咲き始めた。今年は1月29日に季節はずれの一番花が咲いたが、さすがにこれは一輪のみ。3月に入って花芽が次々と出てきた。


3月2日(火)

【ちょっと思ったこと】

裁判員法案、閣議決定

 各種報道によれば、裁判員法案が2日、閣議決定されたという。重大な刑事裁判の一審に市民が参加する制度であり、司法制度改革の目玉だというが、2月20日の日記に書いたように私にはどうにも納得できない。国民の権利を拡大するものではなく、新たな義務を課すものであるという。ある世論調査によれば、この法案が検討されていることについては40%が知らないと答え、また60%はそのような裁判員にはなりたくないと考えているとか。閣議決定どおりであるとすると、116人に1人が生涯に一度、裁判員の義務を課せられることになるというが、反発は起こらないのだろうか。

 裁判員制度でこの制度で審理されるのは、死刑または無期の法定刑があるか、短期1年以上の犯罪のうち故意に被害者を死なせた事件などであるというが、そういう重大な刑となればなおさら、法律のどの部分に該当するのか、過去の判例と矛盾しないのか、法の下の平等が守られているのかといった専門的知識が要求されるはずだ。一般市民が審理に参加することで判決の公正さが高められるとは到底思えない。単に、国民に開かれた裁判をめざすのであれば傍聴の機会を増やせば済むことではないだろうか。

 報道によれば、裁判員制度が導入されるのは一審のみ。合議体は、裁判官3人、裁判員6人の計9人が原則。多数意見で評決するが、裁判官・員の少なくとも各1人が賛成しないと成立しないという。ここで「成立しない」というのは、有罪にも無罪にもならないという意味なのか、成立するまで延々と議論をするのか分からないが、これまでと異なり、裁判官3人のうち1人が意見を異にし、その1人に一般市民の4人が同調すれば多数派を形成できるという特徴があるようだ。しかし、このことによって感情的な判断や、雰囲気だけに流され厳密さを欠いた判断がなされることは無いのだろうか。

 裁判員の職務のため仕事を休んだことで雇用主が不利益な取り扱いをすることは許されないというが、たとえば、大学院生やオーバードクターが裁判員に選ばれたことで論文執筆が遅れたとしても誰も補償してくれないだろう。修論や博論のように提出期限が定まっていれば別だろうが。

 思想・信条の理由からも辞退できるというが、
  • 私は死刑には絶対反対だ。どのように残虐な事件であっても、死刑判決には反対する
  • 私は裁判員制度自体に反対だ。ゆえにどのような事件であっても、審理では意見を表明しない
というのも辞退の理由になるのだろうか。けっきょく、「他人を裁くことを拒否する」という信条で辞退する人が大多数を占めれば、裁判員になるのは結果的にごく一部の人たちだけに限られてしまうだろう。

【思ったこと】
_40302(火)[心理]批判的思考の認知的基盤と実践ワークショップ(9)小中高生に役立つクリシン

 またまたあいだが空いてしまったが、2月8日(日)に京大で行われた表記ワークショップの感想の続き。

 10番目は、吉田氏の「クリティカル・シンキングをキーワードとした『心のしくみについての教育』の実践」という話題提供であった。吉田氏は『心理学のためのデータ解析テクニカルブック』の共著者であるほか、わかりやすい心理統計学の解説書も執筆されておられるが、教育実践場面でこのような活動をされているとは存じ上げなかった。ここでは、児童、中学生、高校生それぞれにおいて、クリシンを取り入れることが、ステレオタイプ的認知の改善や柔軟な対人情報処理に役立つという事例が紹介された。

 配布された資料には、批判と非難は異なること、「あの人は、○○な人だと思う」という意見表明に対して、「でも、だけど、....」など、「何か事情があったんじゃないのかな?」とか「いつもそうなのかな?」などと考えてみることの大切さを教える工夫、「必ず」、「絶対」、「きっと」といった決めつけ的な言い方への注意などが、イラストつきでわかりやすく解説されていた。

 このほか、いやなことが起きた時に自分を傷つけてしまう暗い考え方に対して、「そうとはかぎらないよ」という発想で決めつけを解消する方法も紹介されていた。このあたりは、論理療法の発想とちょっと似ていると思った。

 もちろんクリシンが常に有用というわけでもない。過度のクリシンは「いじけ」につながるともいうし、自尊心を維持するにはノン・クリティカルな思考も大切だ。前回も述べたが、「私の恋人は結婚相手として最適か?」をクリティカルに考えてしまうと、否定的な結論が出るのは必至である。

 吉田氏は、「心理学の成果をもっとダイレクトに伝えたい」という強い意欲をお持ちで、実際、心理学ジュニアライブラリの執筆活動に取り組んでおられるという。週刊誌、テレビ、ネット上でニセモノの心理テストや心理ゲームが横行しやすいなか、学問としての心理学をわかりやすく伝える努力をされていることには敬意を表したい。

 次回に続く。