じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

9月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る

[今日の写真] (借りている畑の)隣の家で飼っている「わん子」の様子が変なので見に行ったら、なっなんと、野良犬が迷い込んでいた。よく見るとオス犬である。「わん子」はメス犬なのだ。かなり心配。もっともこの野良犬、毛並みが悪い上に後ろ足がヨタヨタしており、目は殆ど見えていないようだった。気の毒ではあったが、敷地の外に追い出した。

※わん子の写真は6/18の日記8/12の日記にも掲載されています。犬好きな方はどうぞ。


9月23日(火)

【ちょっと思ったこと】

「正しい」と「正当」のちがい

 9月24日朝5時半すぎのNHKニュースで、英紙ガーディアンがイラク戦争に関して行った世論調査の結果が紹介されていた。「イラク戦争は正しくなかった」と答えた人が国内で初めて過半数に達した」という。攻撃の大義名分であった大量破壊兵器の存在が確認できず、虚偽または誇大な情報に惑わされたことに対する英国民の反発を反映したものと言えるだろう。

 そのことはさておき、テレビのグラフを見ていると、この世論調査の元の質問は「justifiedか、unjustifiedか」であることが分かった。これを「正しかったか、正しくなかったか」と訳すことは果たして「justified」なのだろうか?

 英語については全くの素人であるので正確なことは言えないが、辞書で調べる限りでは、

●justified:【研究社新英和中辞典】〔…するのは〕もっともなことで、【ランダムハウス英語辞典のjustifyの意味】〈事情が〉〈主張・言動などを〉正当化する,正当であることを証明する;…に満足[納得]のいく説明をする、〈人が〉…を正しいとする,正当だと認める,弁護[弁明]する,支持[是認]する,容認する{doing};…の疑いを晴らす

となっており、「正しい」よりは「正当である」もしくは「支持できる」がjustifiedな訳語であるように思う。

 ちなみに、過半数を超えたという「unjustified」は、

●unjustified:【研究社新英和中辞典】不当な,根拠のない

だそうだ。もっとも、「不当」の強い意味としては「injustice」がある。「不当であった」ということと、「正当ではなかった」、「正当とは言えなかった」ではかなりの意味の開きがある。

 なお、9/24の朝日新聞では、同じニュースについて、質問項目が「イラク戦争を正当化できるか、否か」であったことを明記していた。しかし見出しでは“「イラク戦争は過ち」過半数”となっており、記事の中では

「イラク戦争は正しくなかった」と答える人が国内で初めて過半数に達したとする最新の世論調査を掲載した。

というよう記述もあった。「正当でなかった」が「過ち」や「正しくなかった」に置き換えられていたのである。




 「正当」という言葉からすぐ思い浮かぶのは「正当防衛」であるが、これは、「やむを得ず」に行われるというニュアンスが強い。それゆえ、

●人を殺すことは正しくないが、正当防衛はやむを得ない。

と主張することもできる。「正しくないけれど正当である」という判断はありうるのだ。




 ここで少々脱線するが、欧米文化における個人は「神が作った絶対的存在」、日本の伝統文化における個人は「周囲との関係性の中に成り立つ相対的存在」である、などと言われることがあるが、この考えを個人の行動に当てはめるならば、欧米文化では「正しい」、「正しくない」という絶対的な行動基準があり、日本文化では、それらは、相対的であり状況や文脈によって変わると言えないこともない。確かに、自殺あるいは自殺を前提とした攻撃についての考え方の違いはこれで説明できる。

 しかし、刑事裁判のやり方などを見ていると、少なくとも米国では、殺人が事実として認定されても陪審員が正当であると判断してしまえば無罪になることがある。どちらかというと、文脈・状況に依存して、正当かどうかが決められていくようにも思える。これが極端になると、目的が正当ならば手段を選ばないという論理にもつながる。




 もとの話に戻るが、質問紙アンケートというのは、ちょっとした語感の差で著しく回答結果が変わるものである。仮に
  • イラク戦争を正当化できるか、否か。
  • イラク戦争は正しかったか、正しくなかったか。
  • イラク戦争は過ちであったか、なかったか。(←但し、集計時に反転させる)
という3種類の質問をランダムに3つに分けた回答者に別々に行ったとすると、その比率は著しく異なるであろう(同じ回答者に3つとも質問すれば、その人は、一貫した態度をとろうとして回答を揃えるかもしれないが)。また、どの質問も、英語の「justifiedか、unjustifiedか」と同一ではない。

 しばしば伝えられる国際比較なども、客観的事実についての問いならば信頼できるが、異なる言語を使って態度や好みを聞くような質問については、比率の差の解釈をするにあたって慎重な分析が求められる。

9/24追記]NHKのWebサイトの表現(09/24 01:17
  • 見出し:戦争は正しくなかった 過半数
  • 記事:
    イギリスでは、23日付の有力紙「ガーディアン」が掲載した最新の世論調査で、イラク戦争は「正しくなかった」と答えた人が、53%とイラク戦争に関する世論調査で初めて過半数に達しました。「正しかった」は38%でした。