じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

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[今日の写真] 赤い孔雀サボテンの一番花。昨年は6月7日の日記に開花の記録があるから随分と早い。今年はこのサボテンの鉢をすべて室内に取り込んでいたため、霜で葉を傷めることがなかった。


5月12日(月)

【ちょっと思ったこと】

8000人の命の重み

 5/11昼のNHKニュースを見ていたら、小泉首相が「春の交通安全運動中央大会」(都内・御成小学校)のあいさつでイラク戦争の死者の数を引き合いに出していた。この発言、ちょっと気になったので、翌日の朝日新聞記事を見たところ、
昨年は1年間で8千人の人が(交通事故で)亡くなっている。イラク戦争で亡くなった方は8千人もいません。米軍の兵士で亡くなった方は百数十人。平和な日本で、戦争の起こっていない日本で、毎年8千人の人が亡くなっている。いかに交通事故が深刻か、わかると思います。
というのが正確な内容であったようだ。

 交通事故の深刻さを強調するために平和な日本と戦争の犠牲者を比較することは、子どもには分かりやすい例えであるとは思う。しかし、どこか違うんじゃないかなあ。

 交通事故死というのは、交通安全のためにみんなが協力し、最大限の努力を重ねたにもかかわらずやむを得ずに起こった結果である。いっぽうイラク戦争はどうであったか。あの戦争は、避けようと思えばいくらでも手だてがあったにもかかわらず、米英が勝手にしかけた戦争であった。フセイン政権が崩壊していくら自由が取り戻されたとしても、復興支援が進んだとしても、失われた命は決して戻らない。それらの命は、ブッシュ大統領が攻撃をしかけなければ奪われずに済むはずの命であった。

 それともう1つ。「イラク戦争で亡くなった方は8千人いません。」というのは、対比の見方を変えれば、「イラク戦争では多くの犠牲者が出たというが、平和な日本の交通事故死者の数ほどは多くない。」という意味にもとれる。もし同じロジックで
アメリカの同時多発テロで亡くなった方は8千人もいません。
と対比したらどうか。テロの犠牲者を冒涜するものだとして猛反発を浴びることだろう。

 あるいは
阪神淡路大震災で亡くなった方は8千人もいません。
と対比したらどうか。犠牲者の家族の気持ちを踏みにじるものとしてこれも猛反発を浴びることだろう。
イラク戦争で亡くなった方は8千人もいません。
という対比に何のひっかかりも感じないとしたら、それは、イラクの人々の死を、よそ事として軽んじている表れではないかと思ってみたりする。

【思ったこと】
_30512(月)[教育]円の面積と福沢諭吉

 5/13の朝日新聞(大阪本社版)の一面トップに、小中45万人全国テストの分析報告書(文科省が5月12日に公表)の紹介があった。記事の見出しは
  • 実感する力足りない
  • 円の面積正答53%「公式暗記頼らずに」
  • 諭吉の理解不十分「肖像画・伝記活用を」
となっていた。正答率を比較するばかりでなく、このような形で詳細な分析を行っていることは結構だと思うが、記事で紹介された内容に関しては多少ツッコミを入れたくなるところがあった。

 まず、半径10cmの円の面積を求める小5の問題について。正答率が53.7%で、事前に期待された正答率(75%)を大きく下回り、前回テストより16%近く低下(但し公立校のみの比較)した点は、集計結果公表時から話題になっていた。これについて、報告書は
公式をただ暗記するだけではなく、方眼紙を使って円に含まれる正方形の個数を数えるなどして円の面積の大きさを実感的にとらえられるようにするとよい
などと提案したという。

 この問題に関しては2002年12月13日の日記でも意見を述べたことがあるが、重要なポイントは、円の面積の公式を覚えるかどうかではない。円周を求める公式と、三角形の面積を求める公式(もしくは平行四辺形の面積を求める公式)の2つを知っていれば、「半径×半径×円周率」などという公式を覚えていなくても円の面積はちゃんと求められるという関連づけを理解することが大切ではないかと思う。

 方眼紙を使って正方形の個数を数えるというやり方では、円周と円の面積の関係が全く理解されない。そのことで正答率を上げられるかどうか大いに疑問が残る。

 『21授業のネタ 坪田算数・高学年』(日本書籍)という本がたまたま書棚にあったので開けてみると、円の面積は
  1. 円周×半径÷2
  2. 直径×直径×0.785
でもよいと書かれてあった。1.の教え方は大いに賛成だが、2.のほうはどうだろうか。暗記の負担を増やすだけのように思えるのだが。

 要するに私が言いたいのは、円の面積は、暗記でも実感でもなく、円周の長さからの推論によって理解すべきであるという点だ。それが身につけば、円錐や球の体積、表面積の理解にも発展する。




 記事ではもうひとつ、「天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらずといへり」と最も関係の深い人は誰かという小6社会の問題が取り上げられていた。こちらの正答率は56.8%でありまあまあではないかと思うのだが、設定通過率70%を下回ったことと、前回より20%近く低下したことなどから、報告書では
肖像画や伝記、エピソードなどを活用して、人物に対するイメージを豊かに持たせるなどの指導を充実させることが大切
と指摘されているという。

 しかし、もし「諭吉の理解不十分」を問題視するならば、誰の文章かということよりも、『学問ノススメ』がその時代にどういう影響を与えたのかという歴史的意義を知り、かつ、「天は人の上に...」は
  • 結果の平等主義なのか、機会の平等主義なのか
  • 受験戦争は肯定されるのか
  • 競争社会を肯定しているのか、平等棲み分けの社会をめざしているのか
  • 弱者に対する配慮はなされているのか
などについて、しっかりとした考えを述べられるかどうかを重視すべきではないかと思う。ちなみに、「肖像画や伝記、エピソードなどを活用して...」とあるが、福沢諭吉の肖像画だったらすでに十分に活用されているはず。いくら小学校6年生だからといって、1万円札ぐらいは見たことがあるはずじゃないか。