じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa

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[今日の写真] 岡大事務局前のユッカの花。現在、この建物の裏側では建て替えのための発掘調査が行われている。この建物自体が取り壊されるのか保存されるのかは不明。



6月16日(土)

【思ったこと】
_10616(土)[心理]象牙の塔と現場心理学(番外編)「臨床心理士」は学校の救世主か、心理学研究の多様性を排除する官業癒着の産物か(その3)基礎系の学会側にも問題がある

 昨日までの日記では、スクールカウンセラーの採用条件や「臨床心理士養成の大学院指定制」が心理学の教育・研究に及ぼす弊害について、もっぱら批判的に取り上げてきた。しかし、昨日の日記の最後にも述べたように、この問題の背景には、象牙の塔に籠もり学校や社会の現実的な問題に対処してこなかった基礎心理系の研究者の怠慢があることも否定できないように思う。

 私の知る限りでは、いま日本には心理学関係の学会が30〜40ほどある。その大部分は日本心理学諸学会連合に参加し(99年7月27日の日記参照)、資格問題についても各学会の代表が協議を続けていると聞くが、私の印象では、まさに百家争鳴、例えば統一資格の整備についての議論などは遅々として進んでいないように思う。

 もちろん現状でも資格制度が全く無いわけではない。例えば日本心理学会では1990年に「認定心理士」という資格を創設した。しかし、99年7月26日の日記にもあるように、その要件は「日本心理学会員であり、所定の科目38単位を修得した者。学会員になるためには大学の心理学関係の専門課程を卒業している必要がある」という程度のもので、実質的には心理学専攻を卒業していれば誰でも認定される。つまり、卒業証書以上の有難味は無いというわけだ。このほか、最近ではいろいろな学会が、一定の要件を備えた会員に「○○心理士」や「○○カウンセラー」などの資格を与えているが社会的には殆ど認知されていない。要件をあまりにも厳しく設定したために、認定を受けた会員が2ケタにすぎないという資格もあると聞く。

 その一方、日本心理臨床学会は比較的歴史が浅いにもかかわらず、臨床心理士の養成と質的向上、有資格者の待遇改善などに力を入れてきた。心理臨床学会が他学会の意向を汲まずに資格化や大学院指定制を強力に押し進めたのは、「抜け駆け」というよりむしろ、関連学会の遅々として進まない資格論議に対する「見切り発車」であったと言ってもよいかと思う。

 それゆえ、昨今のスクールカウンセラー採用問題で、文部科学省の役人から
  • 「臨床心理士」以外にスクールカウンセラーとしてふさわしい人材が居るとおっしゃるが、じゃあ、そういう人達をどういう基準で選べばよいのですか。
  • あなた方の学会は、スクールカウンセラーにふさわしい人材を養成するためにどのような活動をしていますか。
などと質問されたとしても(←これはあくまで仮想の質問、念のため)、相手を納得させるだけの回答ができるかどうかは甚だ疑わしい。

 昨日の日記では、スクールカウンセラーが、
(スクールカウンセラーの選考)
第3条
要綱第2条及ぴ要綱別表に規定するスクールカウンセラーは,次の各号のいずれかに該当する者から,都道府県又は指定都市が選考し,スクーールカウンセラーとして認めたものとする。

(1)財団法人日本臨床心理士資格認定協会の認定に係る臨床心理士
(2)精神科医
(3)児童生徒の臨床心理に関して高度に専門的な知識及ぴ経験を有し,学校教育法第1条に規定する大学の学長,副学長,教授,助教授又は講師(常時勤務をする者に限る)の職にある者
という基準で選ばれると述べた。確かに形式上、これは官業癒着の構造を産み出しかねない。しかし、じゃあ、それ以外の適任者を誰がどういう基準で選ぶのかと言われても、他に名案は浮かばない。「都道府県又は指定都市が選考し」などと決められても、適任者を選び出せる人材が自治体に揃っているとは到底思えない。ヘタをすれば縁故採用になってしまう。あるいは、万が一、採用された人が派遣先の学校でトラブルを起こしたような場合でも、とりあえず「臨床心理士の中から選んだ」としておけば全くの無資格者の中から選んだ場合よりは、採用者としての責任を問われなくて済むという利点もあるのだろう。

 そういう意味では、日本心理学諸学会連合としても、単に「業務の独占だ」、「臨床心理士以外にも枠を広げろ」と主張するだけでは不十分。やはり、

私の学会(学会連合)では、こういう資格を作り、資格取得の要件としてこれだけのものを定めております。資格取得者が臨床心理士と同等以上の活躍をすることを、学会(学会連合)として自信を持って保証いたします。

というぐらいの提案をしていかなければ、役人はもとより、一般社会を納得させることはできず、単なる「内輪の縄張り争い」ぐらいにしか受けとめられないのではないかと思う。

 この話題、当初は3回で書き終える予定であったが、いろいろと話が膨らみ、書き足りないことがいろいろ出てきた。6/17の夜から海外研修に出発することになっているので一時中断し、(無事帰国できた場合)6/25頃から、海外研修の報告と並行して連載を再開する予定。
【ちょっと思ったこと】

ホンマに地震は起きるのか?

 6/6の日記で、岡山理科大の弘原海(わだつみ)清教授らのグループが、ネット上で地震の予知情報を発信していることを紹介した。6/6の11時時点では
10日以内にM7.0前後のスラブ内地震の可能性あり(場所は周防灘、伊予灘、豊後水道付近の海中か?)
となっていたが、実際にはすでに「10日以内」を過ぎており、予知は外れたことになる。念のため6/17朝にこちらを参照したところ、
6月16日〜18日にM7.0前後のスラブ内地震の可能性あり
となっていた。あくまで可能性を否定せず、強気の「予知」を続けているようだが、18日までの間にホンマに大地震は起きるのだろうか。

 あくまで「可能性」ということだが、社会的には「当たれば神様、外れれば大ペテン師」のレッテルを貼られかねない。大地震など起こらないほうがよいに決まっているが、さて、結果はどう出るのだろう。それにしても、6/17午後は、新幹線で関空に向かわなければならない。ホンマに起こったらエライことになるぞ。