じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa

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[今日の写真] 農学部農場のケヤキの新緑。



4月29日(日)

【思ったこと】
_10429(日)[教育]21世紀の大学教育(6)ネットを利用した大学教育(3)ネット利用を前提とした演習/通信制大学院

 昨日の日記の続き。ネット利用を前提として演習を行う場合について考えてみることにしたい。

 4/27の日記で予告したように、この場合の利用形態としては
  1. 指定された課題についてのリポートをEメイルで提出。
  2. 提出されたリポートや文献リビューなどをネット上で公開。
  3. 卒論や修論の原稿を非公開サイトにアップして、メイリングリストやネット掲示板上で相互リビューや教員による執筆指導を行う。
  4. このほか、ゼミ形式の演習では、ゼミ構成員が自学自習や体験型学習の成果をポートフォリオとして公開したり、自主的なホームページ作りを通して相互の向上をはかる場合もある。
といったものが考えられる。このうちの2.と3.に関して、私のところでは、今年度の大学院の授業ゼミ指導ですでに実施している。また、昨年度は、学部3年次生向けにミニマムサイコロジーという入門サイトを学生と一緒に作る授業も行った。



 この種の授業で問題点となるのは、学生どうしの相互のリビューや意見交換をどう活発化するかということにある。単に教員と各学生の一対一の指導であるならば、昔ながらの通信添削でも変わりがない。ネットで公開するからには、それを閲覧した人との双方向のコミュニケーションが無ければ意味がない。それらをどう強化するかが課題となる。

 昨年度の私のゼミでは、各卒論生別に専用のネット掲示板(非公開)を開設し、他のゼミ生が建設的なコメントを書き込んだ場合には1ポイント贈呈、さらにそれらの合計のポイントを折れ線グラフにして一括表示するという試みを行ったことがあった。その結果、2〜3名のゼミ生の間では非常に活発な意見が寄せられるようになったが、一方で、それらに一度も参加しない学生も出てきた。

 ゼミ生の相互のコミュニケーションをポイント提示によって強化する場合、次の2つの問題点があるように思う。
  • 書き込みの数や量ばかりを強化の対象とすると、内容の質的低下を招く恐れが出てくる。勉強行動で言えば、勉強の内容ではなく机に向かっている時間に応じて強化するようなもの。あるいは、執筆した論文の本数やページ数だけで研究業績を評価するようなものになる恐れがある。かといって、いちいち内容に立ち入ってポイントの大きさを決めるのは非現実的。
  • ポイントの裏付け好子(習得性好子を好子として機能させているもともとの好子)として何を設定するかという問題。授業におけるポイントである以上、物や金品と交換可能にするわけにはいくまい。考えられる方策としては、
    1. ポイントを成績に反映させる。
    2. 獲得した累積ポイントを折れ線グラフにして個人別にネット上で公表する。
    3. 獲得した累積ポイントを個人別の棒グラフにしてネット上で公表し、競争させる。
    4. エコマネーと同じ発想で、ゼミマネー化し、ゼミ内の相互援助活性化のために「流通」させる。
    いずれの場合も、コミュニケーションを交わすこと自体による行動内在的な好子をどう引き出すかという課題が残る。


 以上、もっぱら学部演習レベルでのネット利用について考えを述べてきたが、最近ではネットを利用した通信制大学院の設置が認められるようになった。これは、1997年12月18日の大学審議会答申「通信制の大学院について」(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/12/daigaku/toushin/971203.htm)に基づくものである。 通信制大学院のは、自宅や職場から通える範囲に希望する大学院が無くても指導を受けられるメリットがあるほか、将来的には、全国あるいは全世界どこで生活していても、自分の研究分野に最も近い指導教員から指導を受けられるという可能性をもたらすものである。こうした「遠隔教育」について、答申では、
...従来,「遠隔教育」というのは,印刷教材を用いた通信添削型の授業あるいは放送大学による放送授業といった形で,通信制の高等教育機関によって行われるものだと考えられてきたが,技術の発達により,上記のように,遠隔地間を結ぶテレビ会議式の授業という形で,通学制の大学院においても「遠隔教育」を行うことが可能となっている。また,更なる技術の進展により,現在通学制の大学院で行われている教員の授業や研究指導を学生が自宅で受けることができるようになる可能性もある。このように,将来的には,あらゆる学生が,地理的,時間的制約を超えて,通学制の大学院で行われる教育研究に参加でき,分野によっては,通学制と通信制の境界がなくなるような状況が現出することも考えられる。
 こうした情報通信技術を活用して,大学院が,国内外の他の大学院との間で,合同授業やカリキュラムの相互利用を行うといった試みも始まっており,今後,高等教育機関がネットワークを形成することにより,より多彩な教育研究が実施されるものと予想さ れる。
 と述べられており、個別の授業ばかりでなく、今後は、教育組織としての大学院の機構そのものが、ネット利用を軸として、大きく再編される可能性のあることを示している。8月のシンポでは、実際に新設された通信制大学院の教員からも実践体験に基づく話題提供をいただく予定である。
【ちょっと思ったこと】

チェスと将棋

 4/30の朝日新聞記事によれば、将棋の羽生五冠(30)が、フランスのサンカンタン市で行われたチェスの第4回インターナショナルオープン戦で7位に入ったという。この記事は、

羽生五冠は、将棋以外でもすぐれた才能を発揮した

というようにも読めるし、

羽生五冠でさえ7位にしかなれなかったことは、将棋の強さとチェスの強さには同一とは言えない証拠である。

というようにも読める。私の記憶では、故・大山康晴氏もチェスが強かったと聞く。本業が忙しくて「チェスまでやっていられない」という人も居るだろうから一概には言えないが、かなりの相関はあるように思う。

 囲碁、オセロ、連珠あるいは麻雀、コントラクトブリッジなどの強さは相互にどの程度の相関があるのだろうか。学校の教科と違って、必ずしも覚える必要のないものばかりなので、「知らないから弱い」や「興味はあるが学ぶための時間的余裕がない」といった副次的な要因をどう排除するかが難しいかもしれない。