【連載】チコちゃんに叱られる! 「電話のもしもしの由来」
8月22日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は、
- なぜ人は手をつなぐ?
- 電話で「もしもし」と言うのはなぜ?
- 「素足」と「裸足」なにが違う?
という3つの話題のうちの2.について考察する。
2.の電話の「もしもし」の由来について、放送では「『おいおい』が不快だったから」が正解であると説明された。今回で7回目の出演となる国語辞書編纂者で日本語の語源に詳しい飯間浩明さん&ナレーションによる解説は以下の通り【要約・改変あり】。なお、飯間さんはご自身のXでも追加説明をしておられた【後述】。
- 「もしもし」は相手に呼びかける言葉だが、実400年以上前からある言葉。
- 「申し上げます」という意味の「もうし」を重ねた「もうしもうし」が縮まったもの。「もしもし! 旅のお方!」というように人に呼びかける時に使われていた。
- 昔は、電話の第一声は「もしもし」ではなく「おいおい」が使われていた。
- 1890年、東京・横浜間で電話が開通。当時は電話交換手により手動でつないでいた。この時、利用者や交換手は互いに「おいおい」と呼びかけていた。
- しかし当時から「おいおい」は少し乱暴に聞こえる言葉だった。
- 当初の交換手はガラの悪い男子学生がアルバイトをつとめていることもあり、また当時は主として地位の高い人だけが電話を利用していたため、目下のガラの悪い男性交換手の「おいおい」は不快な印象を与え、評判が悪かった。
- 当時、電話は聞こえづらく、遠くの人を呼ぶような感じで「おーい!おーい!」と語気を強めて話していたため、より乱暴に聞こえた可能性がある。
- 当時電話サービスの創設に尽くした大井才太郎(東京電話交換事務所主管)は、毎日「大井、大井」というように自分の名前を呼び捨てにされているようで不快だった、という話もある【1969年12月22日の毎日新聞記事に「...毎日、自分の名を呼び捨てにされるのが、不愉快でたまらなかった大井課長は、とうとう「モシモシ」の用語を、自ら開発して普及させたというのだ。もし、時の課長が「大井さん」でなかったら「いまだに電話では、オイオイとやっているぜ」」というように電話開通当時のエピソードが語られていた。
- 放送では、「大井」姓の8人を会議室に集めてアンケート回答作業をしてもらい、その最中に同じ室内にいたディレクターがスマホの通話で「オーイ、オーイ」と叫んだらどういう反応をするかという実験が行われた【←制作会議では反対されたらしい】。結果は8人中5人が反応した。参加者は自分の名前を呼ばれているようで気になったといった感想を述べていた。
[※]この実験は対照群が設定されていないので、本当に「自分の名前を呼ばれたことに反応した」という証拠にはならない。スマホで「オーイ、オーイ」と叫ぶのはそれ自体奇異な行動なので、大井姓以外の人を集めても同程度の比率で反応した可能性がある。
- 電話開通当初は男性交換手もいたが、女性の声のほうが優しいという理由で女性交換手が増え、また1892年の読売新聞広告欄に「女子交換手募集 横浜電話交換局」とあるように
女性のみを募集するようになってきた。
- そこで女性交換手に「おいおい!」を使わせるのは乱暴だということで「もしもし」という言葉に統一することになったと考えられる。
- 1903年に発表された尾崎紅葉『令夫人』の中に「電話の口切りじゃないが、もしもしと言いたいね。【現代仮名遣い】」という部分があり、この頃にはすでに「もしもし」に切り替わっていたと考えられる。
なおこちらに記されているように、一部では「ビジネスシーンにおいて、「もしもし」の使用はNGです。」という見解がある。理由や言い換え例は以下の通り。
「もしもし」はもともと「申す申す」の略語であり、目上の人に対して略語を使うのは失礼だという考えから、ビジネスの電話では使いません。
挨拶をする際は「もしもし」を使わずに、社外の人には「お世話になっております」、上司に対しては「お疲れさまです」を使うのが基本です。
このことについて飯間さんは、
●「もしもし」の「もし」は「申し上げます」が語源になっている。自分のほうがへりくだって相手を高める表現なので失礼ではない。むしろ、「もしもし」は古きよき日本語として大切にしていきたい。
と語っておられた【要約・改変あり】。
飯間さんはXのほうでも補足をしておられたので以下に抜粋させていただく。
- 8/22のNHK「チコちゃんに叱られる!」で、電話の「もしもし」について解説しました。明治時代、電話では「おいおい」と呼びかけたことが知られていますが、「おいおい、だめだよ」と咎める感じではなく、今の「おーいおーい」の感じに近い呼びかけと考えられます。遠くの人と話す感覚ですね。(続く)
- 昔の電話で、掛け手・交換手・受け手のうち、誰が「おいおい」を使ったかは少々難しいです。1890(明治23)年の電話機の試験では、まず掛け手が交換手に「おいおい」と声をかけたといいます(東京電気通信局編『東京の電話・その五十万加入まで 上』に引用の当時の新聞)。これは掛け手の使用例です。
- 交換手も「おいおい」を使いました。東京・横浜での創業当時、夜間は男性の交換手で、〈加入者が呼んでくると「オイオイ何番じゃ!!」〔略〕といった調子だった〉(信越電気通信局編『信越の電信電話史』)。今より電話の音質も悪かっただろうし、加入者も交換手も「おいおい」と呼び合ったのでしょう。
- 男性交換手のことば遣いは評判が悪く、1901(明治34)年には昼夜とも女性が交換手を務めるようになりました。発案者は大井才太郎博士。以来「もしもし」が定着したようです。〈この語は大井博士の考へたもの〉(『電気学会五十年史』1938年)といわれますが、「もしもし」はそれ以前にもありました。
- たとえば、『団団珍聞』1898年5月21日号には〈誰も電話はモシモシ言へど、オイオイ言ふのは主(ぬし)ばかり〉という都々逸が載っています(表記改める)。つまり、「もしもし」が正式採用される以前から、「おいおい」「もしもし」が混在していた。それが後に「もしもし」に統一されたのでしょう。
- 分かりやすさを重視して「『申す申す』が『もしもし』になった」と捉えても、大きく外れてはいません。ただ、より正確には、「申し上げます」の意味の「申し」(感動詞)を2つ重ねた形から来た、と捉えるのがいいでしょう。
ここからは私の感想・考察を述べる。まず過去のチコちゃんの番組で電話ネタが取り上げられたのは、
の3件であった。
次に、海外では「もしもし」に相当するどのような言葉が使われているか、英語、中国語、ロシア語ついて尋ねたところ以下のような回答をいただいた【韓国語についても尋ねたが旧式のエディタのためハングルがうまく表示できないのでここではカットさせていただく。】。
いい質問です!??
電話の冒頭で「もしもし」にあたる表現は、各言語でちょっとずつニュアンスが違います。
- **英語**
- **Hello?**
→ もっとも一般的。電話を取る時にも、かける時にも使える。
- (かける時)**Hi, this is \[名前].**
→ 自分からかける時は「もしもし」単独ではなく、名乗るのが自然。
- **中国語(普通話 / 北京語)**
- **◆ (wei / wei)**
→ 電話のときだけ使う「もしもし」。語気は軽く「ウェイ↑」。
- 出るとき:**◆,■好!**(もしもし、こんにちは)
- かけるときも冒頭に **◆** を置くことが多い。
※◆は「くちへん」に「畏」。■はニーハオの「ニー」。
- **ロシア語**
- * **Алло? (allo)**
→ 完全に「もしもし」に対応する言葉。電話専用。
- 出るとき:**Алло, я слушаю.**(もしもし、聞いています)
- かけるときも冒頭は **Алло!**
次回に続く。
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