じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



10月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る

 新型コロナの感染が再拡大している欧米に比べると日本国内はそれほどではないと言われているが、岡山県内では新規感染者数が過去最悪のレベルで増加しているように見える。
 岡山県では3月下旬までは感染確認者数ゼロの状態が続き、その後も、都道府県別の累計感染確認者数は少ないほうから10位以内をキープしていたのだが、このところの大幅な増加により、10月27日23時時点(NHK調べ)で15位に転落している。
 もっとも、岡山県のこれまでの感染者が本当に少なかったのかどうかはイマイチ確信できない。他県と同じレベルで市中感染が広がっているものの、気候その他の条件により、PCR検査を受けるほどの症状が出ない(もしくは無症状)まま治っている人が多いのではないかという気もする。となると、今後、秋が深まるにつれて一気に症状が現れやすくなり、見かけ上の感染者が大幅に増加する可能性もある。

2020年10月27日(火)



【連載】「刺激、操作、機能、条件、要因、文脈」をどう区別するか?(32)1991年のHayes論文(3)内的妥当性と外的妥当性

 昨日に続いて、

Hayes, S. C. (1991). The limits of technological talk. Journal of Applied Behavior Analysis, 24, 417-420.

についての考察。さて、特集号で提示された問い「「私たちの応用行動分析は、欠点と言ってよいほどまで技術にこだわりすぎていないか?(テクニカルな面の開発だけに走りすぎていないか?)」に対して、Hayesは「私の答えはYESだ。応用行動分析の発展は技術と方法の改良だけで達成できると感じている人が多すぎるという意味でYESと言える【長谷川による意訳】(My answer is yes, in the sense that too many have felt that technology and method alone can serve as a basis for the development of the field.)」と答えている。
 続いて、技術という面からみた科学的な成果とは言語的構成物であること、そういう意味では、科学者とは言葉を作る人(word makers)であると論じている。もっとも、ワードメーカーといっても、宗教、法律、文学などと、科学は同じではない。また、科学者が作り出した言語構成物を、聞き手である消費者がどのように利用するのかも、科学以外の言葉とは異なってくる。

 それらを踏まえた上で、例の4つのレベル(正確さ、広がり、構成、深さ)の話に進んでいく。ここで問題となるのが、正確さと広がりの葛藤である。

 Hayes(1991)では「料理人が数年間の試行を経てついに新しいパンのレシピを開発した」という例が挙げられていた。このレシピは再現可能であるが、他の料理には応用できない。いっぽう、酵母が特定の化合物を分解する方法、穀物の化学的性質、二酸化炭素の効果などの観点から記述されたレシピであれば、他のパンづくりのほか、パイやビール造りにも役立つかもしれない。

 以上は、内的妥当性vs外的妥当性の議論と似通っているようにも見える。

 「内的妥当性vs外的妥当性」についてはずいぶん昔にも議論したことがあった。心理学専攻の卒論や修論の評価では、殆どの場合、内的妥当性のみが評価基準になってしまう。それゆえ、心理学講義の受講生だけに実験参加者や調査対象者を依頼したからといって、研究の手順や分析方法、結果に基づいた考察がしっかりできていれば合格水準に達していると判断される。
 では、博論の審査も同じでよいのか、もう少し外的妥当性という面からの評価が行われるべきではないかという気もするが、じっさいには、「本研究は○○分野への応用可能性を示唆した」程度の修辞で済まされてしまうこともある。
 これは博論ばかりではない。『心理学研究』のような学術誌掲載論文でも、たいがいは内的妥当性のみで評価された論文が掲載許可されているようにも思える【もっとも最近の巻号には目を通していないので断言はできないが】。

 なお、「内的妥当性vs外的妥当性」が「正確さvs広がり」と全く同じ概念であるとは言えない面もある。哲学的背景が異なっているためである。また、「内的妥当性」とは別に「信頼性」という概念もあり、「正確さ」に対応している部分がある。こちらに「ダーツのアナロジー」が紹介されていた。
ダーツの的に人が繰り返しダーツを投げて当てる姿を想像してください.ある人が一貫して同じ所に当てる時,その人は信頼性が高い(妥当性はともかく)という状態です.逆にいくらなげても場所が定まらない人は信頼性が低いという状態です.また,一貫して同じ場所に当てたとしてもそれがずっと的の外である場合,信頼性は高いが妥当性が低い状態だと言えます.そして,一貫して的に当てつづける場合を信頼性,妥当性ともに高い状態だということができます.


 不定期ながら次回に続く。