じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 農学部農場の田んぼが刈り入れ間近となり黄金色に輝いていた。右遠方に見える集団は、稲刈り作業の打ち合わせをしているのだろうか。

10月11日(火)

【思ったこと】
_b1011(火)人間・植物関係学会2011年臨時大会(3)二次元気分尺度による農業体験前後の気分変化(1)

 昨日の続き。

 3番目の発表は、実際に田植えを行った小学生の、体験前と体験後の気分変化を「二次元気分尺度」で測定し、かつ、種々の感想を質的に把握するというような内容であった。

 この発表で興味深かったのは、坂入洋右氏が2003年に発表した、「二次元気分尺度」が用いられていることであった。口頭発表の抄録では出典は『体育の科学』誌53巻11号となっていたが、ネットで検索したところ、同じ年に、

心理的覚醒度・快適度を測定する二次元気分尺度の開発【筑波大学体育科学系紀要 Bull.Inst.Health&SportSci.,Univ.ofTsukuba26:27−36,2003.】

が刊行されており、全文を閲覧できることが分かった。但し、上掲の文献に含まれていた質問項目8個(論文の末尾にある)は、
  1. エネルギッシュな
  2. (気分が)のっている
  3. 無気力な
  4. 気が重い
  5. リラックスした
  6. 落ち着いた
  7. イライラした
  8. ピリピリした
の8項目となっており、「全く違う」、「少しそう」、「ややそう」、「ある程度そう」、「かなりそう」、「非常にそう」の6件法評定となっていたが、今回の発表で紹介された項目は、
  1. 落ち着いた
  2. イライラした
  3. 無気力な
  4. 活気にあふれた
  5. リラックスした
  6. ピリピリした
  7. だらけた
  8. イキイキした
の8項目となっていて、「エネルギッシュな」、「(気分が)のっている」、「気が重い」が、「活気にあふれた」、「イキイキした」、「だらけた」に入れ替わっていた。また、6件法評定の「全く違う」は「全くそうでない」に変更されていた。

 このほか、ネットで検索したところ、乗馬療法の効果を検証する内容の口頭発表スライドがヒットしたが、その中では、子どもたちに理解されにくいという理由で質問内容が次のように修正され、
  1. おちついた
  2. イライラした
  3. きがおもい
  4. きぶんがのっている
  5. リラックスした
  6. ピリピリした
  7. だらけた
  8. いきいきした
しかもその際の評定は「ちがう」、「すこし」、「あるていど」、「かなり」、「ひじょうに」の6件法となっていることが分かった(出典はこちら)。

 元の論文によれば、もともとこれらの質問項目は多数の気分表現語候補の中から選択され、さらに予備調査で評価得点の絶対値が高い14項目の中から選ばれた8語であったようである。心理学の立場から言えば、心理尺度で採用される項目や、6件法の程度表現などは、そう簡単には修正や取り替えができるものではないと思うのだが、ネットで閲覧した限りでは、このあたりはかなり大ざっぱに利用されているように見受けられた。

 ここで利用された「二次元気分尺度」は、わずか8項目の質問に回答するだけで済むという簡便さに特長があり、農作業やスポーツなど、ちょっとした体験の気分変化を簡単に知るというツールとしてはきわめて便利であるが、心理尺度一般について言えることと同様、尺度構成の手順を十分に理解したうえで利用し、解釈だけが一人歩きしないように留意することが必要ではないかと思われた。

 ちなみに、元の論文の中でも、
  • 従来の心理検査の多くは、回答者のモチベーションなどの検査実施時の妥当性よりも、検査の信頼性の向上を重視して作成されてきたため、項目数が多くなる傾向があった。今回開発した尺度の最大の特徴は、項月数が少なく(8項目)、項目内容も日本語として自然で運動場面に適する言葉を用いたため、応用研究における活用が容易で検査実施時の妥当性が高いことである。
  • 心理学の専門概念ではなく、より一般的な「興奮一沈静」「快一不快」を軸にした理論モデルに基づいて作成されたため、得られたデータを生理的指標や行動的指標と比較することが容易である。
  • 心理学的研究で見いだされた「エネルギー覚醒因子」「緊張覚醒因子」の得点も算出されるので、他の尺度を用いた先行研究と比較検討することも可能である。
といったメリットが強調されている反面、
  • 活用上の限界として、本検査が被験者の自己評価に基づくものであるため、被験者が自己の心理状態を正確にモニターできないか、正直に報告しない場合は、結果が不適切なものになってしまう。
  • 本検査によって測定できるのは、「気分」という心理状態の一側面であり、注意や知覚や思考などの心理的要素は測定していないことにも注意が必要である。
  • 本検査によって覚醒度と快適度を基礎とした心理状態の変化が即時的に測定できるので、先行研究(Thayer,1986)で確認されている心拍数や皮膚電気伝導度以外にも、多くの生理的・生化学的指標との間で相関関係の存在を確認することが可能であるが、あらゆる要素が複合的に影響を及ぼすパフォーマンスの予測は、本指標単独では困難である。
  • 心理面、身体面、環境面などにおける様々な要素の影響を考慮して、複数の指標を併用すべきである。二次元気分尺度を用いる際には、以上の制限を踏まえて結果を解釈する必要がある。
といった限界や留意点も明記されていた。

 次回に続く。