じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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2010年版・岡山大学構内の紅葉(7)時計台近くのナンキンハゼ

 期間は短いが真っ赤に紅葉する。なお、ナンキンハゼは大学構内各所にあるが、葉っぱの大きさや紅葉の様態にはかなりの違いがある。ここにある樹は葉っぱが小さめで最も鮮やかに紅葉するタイプ。

11月6日(土)

【思ったこと】
_a1106(土)日本心理学会第74回大会(42)ことばと社会:心理学的アプローチの可能性と問題点(11)心の理解とコミュニケーション 認知語用論と発達心理学(3)

 昨日の日記で、子どもに対して、言葉で質問し言葉で答えてもらうという方法の問題点について言及した。少々脱線するが、このことは、言葉を使った種々の検査・調査、具体的には、発達検査一般、質問紙調査、さらには日米文化差を日本人には日本語でアメリカ人には英語で尋ねた場合など、広範囲にあてはまる問題である。

 例えば、発達検査の中で、円と三角形の図形(←ここでは円のほうが面積が広いものとする)を見せて「どっちが大きい?」と尋ねたとする。しかしこの場合、子どもにとって「大きい」が「面積が広い」と同じ意味で定義されていたかどうかは定かではない。面積は円のほうが広くても、三角形のほうがとがっていて端から端までの長さが長いため大きいと判断するかもしれないし、外周(円周)の長さで判断するかもしれないのである。「どっちが大きい?」の質問に対しては三角形のほうを指さしたとしても、「どっちが広い?」とか「どっちが、たくさん?(←これがチョコレートだったら、どっちがたくさんある?という意味)」というように質問した時には円のほうを選ぶかもしれない。

 さらに言えば、人間以外の動物に対しては「どっちが大きい」と尋ねるわけにはいかないが、だからと言って大きさが区別できないわけではない。この種の実験では通常、さまざまな図形について、大きいほうを選べば正解(または、小さいほうを選べば正解)という弁別訓練を行い、その結果高比率で正解できるようになり、かつ新奇な図形(訓練中には使用されず、テスト段階で初めて提示される)に対しても正解が出せるようになれば、その動物は大きさの区別ができていると結論づけることができる。人間の子どもが実験参加者となる場合でも、同じような形で検証することはできるであろう。




 元の話題に戻るが、心の理解の発達を年齢段階で整理すると、思考と信念に関しては、
  • 9〜12ヶ月:目的・意図・注意の理解
  • 1〜2歳:信念と行動の一貫性の理解
  • 2歳:ふり遊び・欲求の理解
  • 3歳:見ることは知ることの理解
  • 5歳:信念の概念的・言語的理解
ということになるという(話題提供者のスライドによる)。なお人間以外の霊長類では目的の理解にとどまる。いずれにせよ、思考と信念の理解に関しては、言語的理解が可能となる5歳以前からすでにさまざまなことができるようになっている。ただしその理解度は、言葉による質問では検証することができない。

 次に、共感に関しては
  • 0〜6ヶ月:新生児模倣、社会的随伴性、相互模倣
  • 9〜12ヶ月:視線追従、指差し
  • 1〜2歳:模倣学習、共同注意
  • 2〜3歳:単純な援助・教示行為
  • 3歳:隠蔽行為
  • 4〜5歳:より洗練された援助・教示行為、欺き行為
というように年齢段階に応じた行為が出現する。ちなみに、人間以外の霊長類では、単純な援助行為や隠蔽行為が報告されているということであった(話題提供者のスライドによる)。

 ここでまた脱線するが、ウィキペディアの関連項目では、
...心の理論は進化の過程でヒトにおいて突然発生したものではなく、他の生物でもその原型となる能力があるのではないかと考えられている。それらの能力としてC.D.フリスらは、
  1. 生物と非生物を区別する能力
  2. 他者の視線を追うことによって注意を共有する能力
  3. ゴール志向性の行動を再現する能力
  4. 自己と他者の行動を区別する能力
の4つを挙げている。
と解説されている。上掲の心の理解の発達と同様、これらの能力を検証するためには、言葉に頼らない方法を用いる必要がある。


次回に続く。