じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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[今日の写真] 今年もまた「長寿チューリップ」が咲いた。昨年4月14日の日記に「球根を植えて7年目以上」と書いてあったので、今年は「8年目以上」。今回は昨年とほぼ同じアングルで比較した写真を掲載してみた。昨年(写真右側)より数が増えているようだが、少なくとも私自身が新しい球根を植えたことは無い。球根が分かれて増えているのだろうか。



4月16日(日)

【思ったこと】
_60416(日)[心理]脱アイデンティティ、モード性格、シゾフレ人間(10)主体性を求めるというが

 4月16日朝のNHKニュース(4月17日朝の時点ではこちらに記録あり)によれば、社会人の基礎的な力として多くの企業が主体性を重視しているのに対し、就職活動中の学生で主体性に自信があると答えたのは3割程度にとどまるなど、企業が求める人物像と学生の実態に差があることが、経済産業省のアンケート調査でわかった。NHKニュース記事は長期間保存されず記録性が無いので、以下、その内容をやや詳しく引用しておく(文体など一部改変)。

 ニュースによれば、経済産業省は、主体性や責任感など12の能力を「社会人基礎力」と位置づけ、これについて就職情報会社と共同で、全国の300余りの企業と就職活動中のおよそ3000人の学生を対象に、ことし2月から先月にかけてアンケート調査を実施。その結果、8割の企業が、「社会人基礎力」のうち重視する能力として「主体性、目標を設定し実行する力」を挙げたのに対して、「主体性に自信がある」と答えた学生は29%にとどまり、「目標設定と実行に自信がある」としたのも35%でした。

 一方、学生のおよそ半数が「自信がある」と回答した能力は「柔軟性」や「他人の話を聴く力」で、企業が求める人物像と、学生の実態に差があることがわかった。

 経済産業省では、今回の調査結果は、いったん就職しても長続きせずに転職する傾向が目だっている原因の一端を示すものと見ており、企業側と大学側が社会人基礎力について意見や情報を交換する場を設けることにしているという。




 このニュースを聞いて疑問に思った点は以下の通り。
  1. そもそも、企業や学生は「主体性」をどういう能力として定義しているのか。
  2. 「主体性に自信がある」と答えた学生は、主体的な学生なのか。
  3. 今回の調査結果は、ニート、フリーター、転職などの傾向を反映したものなのか。





 まず1.だが、三省堂『新明解』(第六版)によれば、主体性とは

主体性:主体的に行動しようとする態度。

 この定義では、同語反復で何のこっちゃワカラン。では「主体的」とは何かと言えば、

主体的:自分自身の意志や判断に基づいて行動を決定する様子だ。

となっていた。ネットで検索したところでは、

ものごとに関わる際の姿勢と考える力、意思の力

自身の価値観に基づき行動し、自分を取り巻く状況そのものを自分で創り出そうとする率先力

という定義もあったが、とにかく、こうした定義は、人間は自分の「意志」に基づいて行動するという、「心理主義」を前提としたものである。最近出版された河野 (2006)にも指摘されているように、行動の原因をからだの中の<意志>に求めるデカルト的発想や「心理主義」は、さまざまな面で批判にさらされる。「主体性」という言葉を使う前に、行動の原因をどこに求めるのかというあたりから議論をしたほうがいいのではないかなあ。




 百歩譲って「社会人基礎力」の1つとして「主体性」を認めたとしても、それが、あらゆる場面に適用可能な一般的基礎的能力であるかどうかは甚だ疑問である。そもそも

【質問者】あなたは、主体性に自信がありますか?
【回答者】えっ、それってどういうことですか?
【質問者】自分自身の意志や判断に基づいて行動を決定することに自信がありますか?

などという形で回答を求められたとしても、それは行動の種類と時と場合による、としか答えようが無いのではないか。

 例えば私自身の場合、職業柄、講義計画を主体的に立案せよと言われればたぶん自信があるけれど、突然、学長から「今日から食品スーパーの店長をやれ」とか「航空機の操縦をやれ」などと命令されても、自信などあるわけがない。要するに、得意分野なら自信があるが、苦手分野や未経験の分野では自信が無い、それだけのことだ。




 いま述べたことは、当初挙げた疑問2.にも関係してくる。

2.「主体性に自信がある」と答えた学生は、主体的な学生なのか。

 もちろん「何1つ得意分野が無く、何事につけても自信が無い」という学生は「No」と答えるだろうが、それがどの程度の比率かどうかは分からない。逆に「どんなことを任されても主体性に自信がある」などと答えた学生は、かえって危なっかしい。積極的なのは良いが、自信過剰かもしれないし、突っ走って取り返しのつかない失敗をやらかすかもしれない。

 それと、おそらくこういう質問項目への回答は、無記名回答か入社試験なのかによって全く変わってくるだろう。入社試験時の質問ならば、出来る限り自分をよく見せかけようとするはずだ。




 最後の

3.今回の調査結果は、ニート、フリーター、転職などの傾向を反映したものなのか。

という疑問であるが、かつて和田(1994, 1996)が指摘した「シゾフレ人間化」は進んでいるようにも思う。

 また、最近、浅野(2005)は、青少年研究会(代表・高橋勇悦大妻女子大学教授)が都市部の若者を対象に1992年と2002年に行った調査結果、あるいは辻大介氏の1999年公表の調査結果などに基づき、
  • (a)自己を一貫させるべきであるとする規範意識(「どんな場面でも自分らしさを貫くことが大切」に対する肯定的回答)は目だって低下している。
  • (b)この一〇年間で何らかの変化が若者の対人関係・自己意識に起こったとすればそれは希薄化や引きこもりではなく、状況志向化・フリッパー志向化であり、多元化であるといえそうだ。
  • (c)「どんな場面でも自分らしさを貫くことが大切」という質問に対する肯定的回答は目だって低下している。これは多元化への規範的な敷居が大きく下がったことを意味しており、多元化へ向かう一つの傾向性と見なしてよいだろう。
といった点を指摘をしているが、これらの特徴と、今回の調査結果に共通性があるようにも感じられる。




 ま、そうは言っても、「主体性」や「柔軟性」は、具体的にどういう行動傾向として特徴づけられるのか、(当人が必要とした時)どうやってそれを改善するのか、といった議論とセットにして論じないと先に進まない。




文献
  • 浅野智彦 (2005).第二章 物語アイデンティティを越えて?[上野千鶴子 [編]. 脱アイデンティティ. 勁草書房. pp.77-101].
  • 河野哲也 (2006). 〈心〉はからだの外にある 「エコロジカルな私」の哲学. 日本放送出版協会.
  • 和田秀樹 (1994). シゾフレ日本人. KKロングセラーズ.
  • 和田秀樹 (1996). 受験勉強は子どもを救う:最新の医学が解き明かす「勉強」の効用. 河出書房新社.




4/17追記]

khoriさんより中間とりまとめ段階での「主体性の定義」について情報をいただいた。

こちら参照。発表日は2月8日。さっそくダウンロードし、次回の参考にさせていただきます。ありがとうございました。