じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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[今日の写真] ピラカンサの生け垣。15日、大阪府大構内で撮影。こちらこちらの写真にあるように、春には白い花が咲く。



1月16日(月)

【ちょっと思ったこと】

震災の日の月齢

 17日の朝5時半すぎに散歩に出かけたところ、満月が少し過ぎた月が西の空に輝いていた。 そういえば11年前の阪神淡路大震災の時も西の空に丸い月が見えたはずだと思って検索してみたところ、その時の月齢は15.4であったことが分かった。

 ちなみに、同じ月日の月齢は、閏年挿入により多少の誤差があるものの、毎年11ずつ増えることが知られている。但し、その数値が30を超えた時は30を引く。つまり、30進法の下二桁の値であると言ってもよい。このあたりの話は198年9月7日の日記に書いたことがあった。

 大震災の日以降の1月17日の月齢を、上記の簡便法で推定すると

15(震災の時、正確には月齢15.4)、26、7、18、29、10、21、2、13、24、5、16(=今年、正確には月齢16.7)。

つまり、今年2006年は、震災後の11年の中では最も当時に近い月齢であることが分かる。

【思ったこと】
_60116(月)[心理]医療・看護と福祉のための質的研究セミナー(2)研究とは何か

 1月15日午後に大阪府立大中百舌鳥キャンパスで行われた

医療・看護と福祉のための質的研究セミナー「あなたにもできる質的研究:着想から投稿までのノウハウを教えます」

の参加感想の2回目。

 セミナーではまず、大阪府立大の田垣氏が

●初学者はどこで苦労するのか:障害者分野における質的研究の指導経験から

という基調講演をされた。

 講演の最初のほうで田垣氏は
  • 基礎研究:当該テーマの枠組みを作る研究。「実践」の通底になるような思考を人々に提供することを目的にする。
  • 「実践」研究:当該「実践」だけの改善をめざすのか、加えて、何らかの転用可能な知見をうみだすことをめざすのか。
という形で、基礎研究と実践研究、さらに実践研究の中にもいくつかのスタイルがあることを指摘された。また、「理論」とは何かについて、
  • 理論とは「法則」のこと。「AならばBである」という命題の集合。
  • すべての人間にぴったりあう理論はありえない。むしろ、ある領域内での理論を考えるべき。
  • 広い範囲を扱えば扱うほど、「理論」は抽象的になる。
というような位置づけをされた【以上、配布資料からの抜粋引用】。

 これらの定義と位置づけにはほぼ同意できる。私自身の紀要論文: をご高覧いただければ分かるように、かなり似通った視点がそこに記されているはずだ。




 この視点は、「基礎と応用」、「基礎と実践」の関係を考える上で重要である。いわゆる「基礎心理学」を専門とする研究者の中には、基礎心理学とは、誰にでもあてはまる普遍的法則を発見する学問である、発見された法則はいずれ応用に役立てることができるというように考えている方がおられる。しかし、これまでの基礎心理学の研究の流れを調べてみれば分かるように、過去数十年の研究の中で、何か重大な「普遍的法則」が「発見」され、それが応用されて、人類の福祉に貢献したなどという話は、はっきり言ってあまり聞かない。基礎研究が貢献したのは、あくまで、テーマの枠組み作りを洗練させたという点である。

 裏を返せば、長大な時間をかけて基礎研究に取り組んでも、応用に役立つような法則が次々と発見されていくというような可能性は殆ど期待できない。「実験」というのは、何かを「実証」するのではなく、「こういうことをすれば、こういう結果が起こりますよ」という事例を示し、未開拓な領域でも同じ分析の枠組みや原理が適用できるかもしれないという可能性を実践者に期待させ、確信を与える働きをするものだと考えたほうが生産的である。

 それと「法則」というのはかならずしも適用範囲が広い(=より「普遍的」)ほうがよいというものではない。万能薬よりも特効薬のほうが重んじられるように、あと特定の条件のもとでしかあてはまらなくても、より強力であるならそのほうがよい。肝心なことは、どういう条件、どういう範囲で効き目があるのかを確定するための「生起条件探索型」の研究である。

 例えば、ハトを被験体とした強化の実験は、さまざまな法則を発見した。しかし、そこで大切なことは、量的な予測を可能にするような関数関係を精緻化することでは必ずしもない。仮説検証型の研究も殆ど意味がない。むしろ、そういう実験を通じて、「強化の原理の枠組みで人間行動を分析すれば同じように行動を変えることができる」という可能性を示した点が重要なのであって、そこから先は、「強化の原理をどのように働かせていくか」という実践的な課題に進むことのほうが生産的である。

 以前にも指摘したことがあるが、もともとスキナーの著作というのは、大部分が、「当該テーマの枠組みを作り、実践の通底になるような思考を人々に提供することを目的に」執筆されたものであると言ってもよい。「実験的根拠」の積み重ねで展開されたものでは無いという点に留意すべきだろう。マロットの入門書も同様である。実験研究を引用してはいるものの、それらはどちらかと言えば「実際にこういうことが確認されている」という一例としてエピソード化されており、大部分は、テーマの枠組み作りに重点が置かれているように思う。

 次回に続く。