じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

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[今日の写真] 岡山の最高気温は7月20日が35.8度、梅雨明け宣言が出された21日は35.5度と連日35度を超えているが、その暑さを物ともせずに毎日花をつけているのがこの日日草だ。





7月21日(日)

【ちょっと思ったこと】

岡山が最悪

 7/22の朝日新聞に全国の自治体の財政悪化の状況を示す資料があった。それによれば、借金で首が回らなくなっている度合いを示す「起債制限比率」(自由に使える財源に占める地方債の償還・利払いの実質的割合)は、岡山県が最悪で19.2%、次いで長野県16.4%、秋田県15.7%となっていた(いずれも2000年度)。

 記事そのものは、長野県の財政悪化の責任が田中知事にあるのか、それ以前からワースト2であったのかということが話題の中心であったが、最悪の岡山県をどうしてくれるのかについては、特別の記載はなかった。

 このことが県民の生活にどういう影響を及ぼすのか、個人的には今ひとつピンとこない。住民サービスの大部分は(岡山県ではなく)岡山市から受けているようにも思えるのだが、娘が進学するはずの県立高校はどうなるのか、岡大が独立行政法人化した時に県との関係はどうなるのか、などなど、全く無関心ではいられない部分もある。

【思ったこと】
_20721(日)[心理]仮説検証型ではなく「ツール」づくりの卒論のほうがオススメ(2)

 7/18の続き。前回の日記で、心理学の卒論研究では、仮説検証型、相関分析、仮説生成型ではなく、むしろ、ツールづくりという視点から研究に取り組んだほうが生産的ではないか、ということを提案した。ここでいうツールとは、文字通り目に見える道具の場合もあるが、そればかりではない。何かの改善法のセットを意味する場合もあるし、複雑多岐な現象を簡潔に分類整理して記述するツールの場合もある。では、理論やモデルや法則と呼ばれているものを検討することと、どこが違うのか。

 まず、ツールというからには、現実に具体的な対象や出来事があって、そこで使うということが大前提となる。「初めに理論ありき」ではなく、「初めに対象ありき」なのである。そのためには、学術雑誌の掲載論文ばかり読んでいても問題は見えてこない。そういう論文は往々にしてモデルの改廃など、閉じた体系の中での再生産に終始しているからである。問題を見つけるには、新聞、テレビ、ネットなどで広く情報を集め、また、場合によっては、自らが現場に飛び込んで実践活動に加わるということが必要になる。

 次に、どいういうツールが考えられるか。ここでは代表例として3つのタイプを挙げておこう(他にもいろいろ考えられる)
  1. 【問題整理型】そのツールを使うことによって、複雑な現象が簡潔に記述され、時として、いくつかのパターンや対立軸が見えてくる
  2. 【予測制御型】天気予報のように今後の変化を予測するツール。あるいは、どういう条件が揃ったらどういう変化が起こるのか、どういう条件さえ一定以下に抑えれば変化をおこさずに済むのかを、より正確に把握するツール。
  3. 【問題改善型】現実に起こっている行動現象を減らすツール。あるいは、起こることが望ましいが、なかなか軌道に乗らない行動現象を増加・維持するためのツール。
 以上をふまえると、ツールづくり型の研究というのは具体的には次のように進められることになる。
  1. 研究対象の確定
    何が問題なのか(何に困っているのか、何が求められているのか、何があったら便利なのか、等々)、何に対してツールを使うのかを明確にする。
  2. ツールのタイプを確認
    上記の3つのタイプのどれを作るのか、あるいはそれ以外のタイプを作るのかを明確にする
  3. ツールづくりに役立つ基本原理や技法を収集
    何のスキルもなしに行き当たりばったり、試行錯誤でツールを使ってもうまくいくはずがない。どういう原理や技法を活用できるのか、情報を収集する。例えば、「行動随伴性」の概念が活用できるとするならば、それは「行動分析学的視点を活用したツール」と呼ぶことができる。
  4. ツールに含まれるコンポーネントを同定し、再製(反復利用)可能性を保障する
    コンポーネントとして何が含まれているのかを確定しておかないと、他の人が再製したり反復利用することができない。「こうやったらうまくいった」という実践報告だけでは、偶然にうまくいったのかもしれないし、報告者が見落としている別の要因が効果をもたらした可能性もあるからだ。
  5. ツールが有効であったという事例を示す
    現場に導入し、そのツールが役立つことを事例として示す
  6. ツールの有効範囲を示す
    どんなツールでも万能ということはない。薬で言えば、適応症、用法、使用上注意にあたる部分を確定する
以上はあくまで理想を述べたものであり、日数が限られた研究では、6.はまず困難。4.についても厳密な同定は難しいかもしれない。また、卒論研究のように、現実的成果よりむしろ教育的成果を狙ったものでは、3.の部分が主たる評価対象になるだろう。修論研究あるいはそれ以上のレベルでは、1.〜6.までを完備させることがぜひとも必要だ。

 以上述べた研究のステップは、こちらの論文の中で意義を強調した「ある法則の及ぶ範囲を広げ、その生起条件を確定するための実験(「生起条件探求型」実験)」に近い。しかし、一番の違いは、単一の法則の生起条件ではなく、具体的なツールの有用性をターゲットにしている点だ。

 「法則」ではなく「ツール」として検討すべきだと主張するに至った、行動現象があまりにも複雑であるためだ。たいがいの行動法則は相互に連関し全体として効果を及ぼすものであって、その一部だけを切り出して要素的に分析しても生産性は期待しがたい。しかも、要素の組合せは無限に近く、全体の連関に還元することはほとんど不可能である。そういう細分化の罠に陥って研究者人生を棒に振らないためにも、常に、現場に目を向けていくべきというのが、今回の主張である。

 なお、ここでいう「現場」や「現実」は、辞書的な意味とはやや異なっている。詳しくは、こちらの論文を参照されたい。