じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa

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[今日の写真] 座主川沿いで見かけたガクアジサイ。アジサイの色については、2000年6月24日の日記に、
アジサイの色が青く変化するのは、リトマス試験紙の赤が青になるようなものかと思っていたが、酸やアルカリによる色素の変化ではなかったようだ。正解は、酸性土壌のもとではアルカリ土壌に比べてアルミニウムが水に溶け出しやすく、もともと大量の水分を吸い上げる性質のあるアジサイがこれを花(がく)に取り込むことによって青くなる。それゆえアルカリ土壌の多いヨーロッパで露地植えしても赤い花しか咲かない。
と記されている。





5月29日(水)

【思ったこと】
_20529(水)[心理]進化と創造論と競争原理

 「競争原理と行動分析」の話をするために進化論の資料を集めていたところ、進化論と創造論 〜科学と疑似科学の違い〜というすぐれたサイトを発見。さっそく1コマ目の授業で紹介した。

 ダーウィンの進化論の「自然淘汰(選択)」、「生存競争」、「結果(適応)による選択」という基本概念は、しばしば政治・経済における「競争原理」の主張を補強するために利用されている。小泉改革に大きな影響を与えていると思われる『競争の原理』(新装改変版、堺屋太一・渡部昇一著、1996年、致知出版社)でも、巻頭の「新装版刊行にあたって」のところで、渡部氏が『ヴィーグル号航海記』の初版本を手に入れたと記されている。この書物自体は、「自由競争 → 勝利 → 勝者安定のための統制 → 衰退」という変遷についての歴史的考察が主体ではあるが、ところどころに、進化論についての言及がある。その意味でも進化論を正しく理解しておくことは必要である。

 いっぽう米国の宗教団体、あるいは、生協食堂の前などでアンケートやサークル紹介などと偽って勧誘を続けているカルト宗教団体などの中には、ダーウィンの進化論を否定することで、神の存在が証明されたかのように納得させる動きがある。いまの時代、ダーウィンの進化論の一部に欠陥があったからといって、諸々の進化論すべてが否定されたことには決してならないのだが、クリティカルな思考を働かすことができない学生はあっさりとマインドコントロールされることになる。

 上に紹介したサイトによれば、進化は「少数の単純な生物が長時間かけてさまざまな生物に変化すること」と定義されている。そして、「どのようなメカニズムにせよ、進化が起こったと考えている人は進化論者です。」と規定している。それゆえ、ラマルクであれ、今西であれ、先日亡くなったグールドであれ、最新のウィルス進化説であれ、上記の定義に合致すればすべて進化論となる。いっぽう、「地球上の生物はそれぞれ個別に、創造主によって創られた」と考えれば創造論となる。

 このサイトでは
  • ダーウィンの進化論は学会で公式に否定されたのではないのですか?
  • 偶然の積み重ねでは、進化は確率論的に説明困難ではないでしょうか?
  • 進化は熱力学第二法則に反しているので間違いではないでしょうか?
  • 進化は実験で再現できないから科学ではないのでは?
  • 進化論は反証不可能なので科学ではないのでは?
  • 進化が正しいとすると、神さまはいないのでしょうか?
  • 創造論者の子どもには信仰の自由がある。進化論を学校で教えるのは特定の価値観を押し付けることになるので問題なのでは?
といった、進化論をめぐる諸々の議論や疑問に明快に解答がなされている。カルト宗教に染まりがちな学生はぜひ読んでいただきたいと思う。

 ちなみに、スキナーの「結果による選択」、「強化」、「弱化」、「行動随伴性」などの概念は、ダーウィンの進化論の影響を多大に受けていると言われる。現に「The phylogeny and ontogeny of behavior.」「The evolution of behavior.」といった、進化に言及した著作も見られる。とはいえ、系統発生的な選択と、個体発生的な選択に同じ原理が働くはずはない。例えば進化論の「変異」と、行動分析でいう「シェイピング」「分化強化」は本質的に異なる概念である。

 いずれにせよ、生物の進化からのアナロジーは危険。政治・経済における競争原理の妥当性は
  1. 個体内における諸行動の形成(強化と弱化)
  2. 個体間の競争
  3. 集団間の競争(集団内部が競争的状態にあるとは限らない)
に分けて考察する必要があると思う。例えば、集団間で競争原理が働いているからといって、集団内部の構成員の間で競争が行われているとは限らない。軍隊の中で兵士達が競争ばかりしていたら統率がとれなくなってしまうだろう。企業内部でも同様だ。

 それと、「競争原理」を考えるにあたっては、
  • 成功者(勝者)のみを過大評価してはならない
  • 「変化・競争」ばかりを求めるのではなく、持続可能性(sustainable)をも追求
  • 単なる秩序、棲み分けではない、協働の概念
にも目を向ける必要があると思う。