じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa

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[今日の写真] サルスベリ。10年近く前に種から育てた品種の二代目。「百日紅」と書くが、ピンクや白に近い花もある。



7月27日(金)

【思ったこと】
_10727(金)[心理]_10727(木)[心理]オーストラリア研修(その16)報告会(1)「Diversional therapy」のセミナーで「Web日記セラピー」の宣伝をする/アセスメントはやはり必要

 この連載の元となった「オーストラリア高齢者福祉研修旅行」の報告会、およびジョン・バーキル氏の講演会が大阪のホテルで開催された。会には50名を超える介護施設関係者や大学教員が集まり、それぞれの立場からの意見交換が行われた。
やはり、この種の交流は、何が現場に活かせるかという視点が大切である。心理学の理論と言えども現場ではしょせん1つのツールに過ぎない。アデレードの州立高等教育機関「Douglas Mawson Institute of TAFE」を訪れた時に「心理学の教員がおられたら紹介してください」と聞いたら、「私たちの学校は非常にpracticalな教育を行っているので、そのようなスタッフはおりません」と言われたことがあった。心理学者たちが大学の中だけであぐらをかいていて抽象論や一般論に終始していると、そのうち、介護現場から全くお呼びがかからなくなってしまうぞ、何が活かせるのかを積極的にアピールしていく必要があると強く感じた。
 今回は持ち時間が短かったため、私のスピーチでは7/26の日記の本文部分をコピーしたものをそのまま配布してもらった。スピーチの冒頭では、私自身がこのようなWeb日記を4年以上続けていること、今回のテーマは「Diversional therapy」であるが、「Diary therapy」というのもひょっとしてあるかもという話をした。
「Diary therapy」にはさまざまな利点が考えられるが、問題点として、継続には非常に根気がいること、7g月中旬にYESさんが行った調査を引用しながら「ほぼ4年以上前から執筆を続けているWeb日記はほぼ1割にすぎない」という事例を紹介した。もっとも、短期間でWeb日記を止めてしまった人でも、その期間に心情を吐露したり、読者から励ましを受けたり、配偶者や姑への愚痴を垂れ流してストレスを発散するなど、何かしら役に立った場合もあるにちがいない。執筆の継続性だけで判断されるべきものではないかもしれぬ。
 私のスピーチでは、次に、セラピーあるいは療法に対して「どういう効果があるの?」という方向に関心が向かいがちであることの問題点を指摘した。神社参拝もそうだが、何でもかんでも御利益を求めて詣でるのはどうかと思う、もっと別の視点が必要なのではないかという問題提起であった。その後の話は、7/26の日記に記した通りである。高齢者福祉においては、「治療手段としてのセラピー」とは別に「ポジティブな変化を実現するセラピー」が大切であること、後者は「手段としての有効性」という観点から評価されるべきものではない点を強調した。




 以上の私のスピーチは、少々誤解を生む内容を含んでいたかもしれない。「ポジティブな変化を実現するセラピー」は評価不能であると思われた方がおられたらそれは違う。私が言いたかったのは、「治療手段としてのセラピー」の有効性を検証する方法は必ずしも役に立たないという点であって、それに代わる評価方法の可能性までを否定したわけではなかった。

 じっさい、「Diversional therapy(DTと略す)」の資料の中には、
It is extremely important to assess each individual person, in order to determine individual needs. By doing this, a program that includes a variety of activities may be created. Re-assessments may also help to determine when a person's needs have changed, or whether the Diversional Therapy program is effective.
として、アセスメントおよびリ・アセスメントが「extremely」に重要である点が強調されており、評価項目の事例も紹介されていた。ここで特に留意しなければならないのは、アセスメントが個人単位で行われる点だ。ある実験で「万能な有効性」が「検証された」から導入するというのではなく、いろいろな介入を個人単位で配合し、定期的にチェックを行っていくのである。

 アセスメントの重要性は、後半のバーキル氏の講演の中でも強調された。7/3の日記で少しふれたように、オーストラリアでは高齢者福祉関係の施設に対して定期的に、適格認定(accreditation)が実施されている。もし「不適格」と判定されるとその施設は公的補助を受けられなくなり、たちまち閉鎖に追い込まれることになる。そして、その監査の項目の中には、施設が、入所者個々人の状態について定期的なアセスメントを行っているのかどうか、アセスメントに基づいてどういうプログラムを実施しているのかが含まれており、介護の質が一定水準以上に保たれることが保証されているのである。そういう意味では、アセスメントは、クライアント自身のためばかりでなく、施設の運営を維持するためにも必要な作業になっていると言えよう。

 いずれにせよ日本国内でDTを普及させるためには、定期的なアセスメントをどう実施するかがぜひとも必要である。またそういうスタッフを揃えるためには、やはり全国規模の適格認定が公正かつ厳格に定期的に実施される必要がある。でないと、効率化優先の流れの中で、経営上の余計な部分として切り捨てられる恐れがあるからだ。

 もっともそうした制度化を待っていたのでは、現利用者に対するセラピーの質は向上しない。次善の策としては、可能な施設からそれらを導入し、「当施設では、設備面の充実に加えて、つぎのような定期アセスメントとDTプログラムをご用意しております」という形で多くの希望者を集め、競争原理の中で向上をはかっていくことが考えられる。もっとも、公的補助の問題もあり、行政に疎い私にはこれ以上のことは分からない。 次回に続く。