じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa

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[今日の写真] 昨日の冷たい雨で落葉が進み、南北通りの歩道に本格的な銀杏の絨毯が現れた。



11月16日(木)

【思ったこと】
_01116(木)[心理]エコマネーとボランティア通貨(3)導入するメリットについて考える

 11/12の日記の続き。今回は、エコマネーやボランティア通貨を導入することのメリットについて考えてみたいと思う。なお、念のためお断りしておくが、前回掲げた
  • 『エコマネー』(加藤敏春、ISBN4818809993)
  • 『だれでもわかる地域通貨入門』(あべ よしひろ、ISBN4894740117)
はまだ手元に届いていない。あくまで、現時点での勝手な想像にすぎないことをお断りしておく。

 さて前回の日記の中で、
昔ながらの山村であれば、エコマネーでやりとりしなくても、盆踊りや秋祭りの準備はできるだろう。みな得意な技を活かして村のイベントの成功のために尽力する。これは娯楽ばかりでなく、森林管理、田んぼの共同作業、家の屋根の葺き替えなど、生活の基本にも及ぶものであり、そういう社会ではエコマネーは必要ない。つまり、地域社会でエコマネーが必要になるということは、それだけ個人主義的傾向が強まり、個々人の関係がそれだけ疎遠になったことの表れであるとも言えよう。
と述べた。しかしこのことは、エコマネーを導入することのデメリットではない。こういう個人手主義的な傾向を悲観、否定せず、現実的に交流を活発にしていくためには、むしろエコマネーを活用すべきであるという意味にもとれる。

 エコマネーはまた、ムラ社会の中でしばしば感じられる社交儀礼や通過儀礼を合理化する可能性がある。「菓子折文化」という言葉があるかどうか知らないが、我々は、ご近所や職場の同僚から特別にお世話になった時に、菓子折をもってお礼に行く習慣を持っている。これはコストがかかる上に、ダイエットをしている人にとっては迷惑にもなりかねない。といって、お金を払うのは失礼であるし、相手を怒らせることさえある。エコマネーを支払うということであればそういった遠慮は不要、受け取る側もそれを有効に活用することができるだろう。

 エコマネーやボランティア通貨が一般のお金と異なる最大の点は、交換価値に制限を与えている点にあると思う。10月8日の日記で指摘したように、
もともと、通貨というのは、自らの労働によって手に入れたり作り出したりしたものを交換する際の利便性を増すために発明されたものである。貨幣が物々交換の代替機能を果たしているだけであれば、人々は今ほどお金に執着することは無かったであろう。その交換可能範囲が、マネーゲーム、不労所得、賄賂、罰金など、労働の価値と対応しないところまで拡大されてしまった.....
つまり、一般のお金の場合、ギャンブル、時には不正に儲けたお金であっても、サービスと交換できる。いっぽう、エコマネーやボランティア通貨の場合は、どんなお金持ちでも自分で体を動かさない限りそれを手に入れることができない。10月8日の日記に記したように、
ボランティア活動の成果をタンジブル(tangible)なものに置き換えた上で、個々の行動に伴う内在的な結果に助け合いや交流といった「交換可能」な価値を与え.....
ることに最大の意義があるように思う。

 このほか、11月12日の日記で挙げたメリットについて、もう少し詳しく考えを述べておきたい。
  1. 「ちりもつもれば山となる」型の行動を直後強化
    環境を守るための行動というのは、1回1回の行動に伴う結果があまりにも小さく、強化されにくい。例えば、道路のゴミを1つ拾っても町全体の環境が直ちによくなるわけではない。そのように、結果が累積しないと意味をなさない行動の場合に、個々の行動を直後に強化する方法としてエコマネーは非常に有用であろう。
  2. 努力の量を数量化
    どのような行動も努力に応じた結果を与えない限り強化されない。相手に対して何らかのサービスを行う行動は、ふつう、「ありがとう」という感謝の言葉や笑顔といった社会的好子で強化される。しかし感謝や笑顔は相手方の気分や性格によって大きく異なるし、儀礼だけに終わってしまうことさえある。エコマネーを導入すれば、努力に応じて結果を与えることができる。
  3. 般性好子の導入による飽和化の解消
    「菓子折」の事例でも明らかなように、贈答品は必ずしも受け取る側にとって好子になるとは限らない。いくら甘党でも毎日のように羊羹のお礼ばかり貰えば飽きてしまう。エコマネーのような般性好子は、いろいろなものと交換できるので、飽和化(satiation)によって強化力が低下する恐れが無い。
  4. 行動自体に価値を与えること。これにより、生産活動以外の行動を強化できる。
    生産活動は「完成」や「収穫」によって行動内在的に強化されるが、人と人の間の交流では必ずしも到達点が定まらないために、これに代わるものが見えにくい。エコマネーを導入すればその弱さを補い、完成や収穫に結びつかない行動に価値を与えることができる。
  5. 多様な交流を強化できる。
    AさんとBさんの間の助け合いはお互いの感謝だけで成り立つが、AさんがBさんを助け、Bさん→Cさん、Cさん→Aさん、というように援助の方向が一方通行で循環するようなケースでは、相手の感謝の顔が見えにくくなる。これらは、従来「人に親切をすることは良いことだ」という道徳(倫理)に一致する行動として社会的に強化されてきたが、道徳による行動制御に限界があることは9月7日の日記でも指摘した通りだ。エコマネーのようにタンジブル(tangible)なものに置き換えれば、先に行動を変えることで、結果的に道徳観、倫理観を変えていくことができるだろう。
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