じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa


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[今日の写真] リコリス。昨日の日記でクレオメは英語で「spider flower」と呼ばれることを書いたが、リコリスのほうは「spider lily」と呼ばれるらしい。lilyとは言っても、見て分かるようにユリ科ではなくヒガンバナ科。



9月25日(月)

【思ったこと】
_00925(月)[心理]「禁欲」か、「ごまかし」食品か

 妻に車に乗せてもらって退院後の初の授業のため、非常勤講師先の某大学へ。この大学は今週が後期の一回目にあたるため、そう簡単には休講にできない。松葉杖を頼りに教室に向かった。

 この大学で私が担当しているのは「食心理学」という、全国でも滅多に開かれることのない講義である。昨年は内容が「条件づけ」に片寄りすぎたことを反省し、今年は一般向けの本からのネタもいろいろと取り入れることにした。その一環として、専門書に加えて『<食>の記号学──ヒトは「言葉」で食べる──』(五明紀春、1996、大修館書店)を推薦させていただいた。

 この本の著者の五明氏は女子栄養大学教授で、食物栄養学が御専攻。長年の御経験を活かしつつ、軽妙なタッチで栄養学の諸問題を分かりやすく論じておられ、たいへん参考になる。本の構成が「オードブル」、「メインディッシュ」、「デザート」の三部構成になっているばかりでなく、各章のタイトルも「ただそれだけの理由」、「内部調整と外部調整」など、「おや? 何の話だろうか?」と興味を引かせるネイミングが多い。

 このうち「内部調整と外部調整」は、心理学の立場から見ても特に示唆に富む内容であると思う。五明氏によれば、内部調整とはシステムの要素自体の自己変革、外部調整とは要素どうしの関係の変更。会社の立て直しを例にとれば、社員教育に力を注ぐのが内部調整、無用の社員を切り捨て人事刷新をはかるのが外部調整ということになる。

 この2つの方法は、食の分野にも当てはめることができる。例えば、明治時代には、日本食を追放して洋食化した海軍と、胚芽米の導入など日本食の改善に固執した陸軍の間で「兵食論争」というのがあったという。すなわち、海軍は外部調整、陸軍は内部調整により脚気予防などの対策をはかった。

 現代社会における食習慣の改善にも2つの道が考えられる。例えば糖分の取りすぎを指摘された時に、甘い物を我慢する形で改善を進めるのは外部調整、いっぽう、砂糖をノンカロリーの甘味料に取り替えるのは内部組成の変更になるので内部調整ということになる。外部調整では禁欲を強いられることになるが、内部調整ならば食べたいものが好きなだけ食べられる。その代わりに口にするのは、人工甘味料、動物性脂肪の含まれないバター(マーガリン?)、腹一杯感を作り出す膨張剤、植物繊維で作った人造肉など。禁欲を強いられない代わりに、いわば「ごまかし食品」ばかり。旬の野菜、魚、ステーキ、最高級のチーズ、生クリームなどを口にすることができない。どっちが健全な食生活と言えるのかは大いに考えさせられるところだ。

 もっとも、人間行動自体を1つのシステムと考えると、五明氏の定義はじつは逆ではないかという気もしてくる。なぜなら、我慢により食生活を改善するというのは、すでに生じている行動の内部調整とも言えるし、今まで好んで食べていた食品を別の組成のものに置き換えてしまうというのは、食行動の外の要素を置き換えてしまうので外部調整と言えないこともない。要するに、食品に目を向けるのか、食行動に目を向けるのかによって、外部と内部の意味合いが変わってくる可能性があるということだ。

 いずれにせよ、さまざまな改善案が出されたとき、それが内部調整にあたるのか、それとも外部調整にあたるのかを考えることは大いに意義深い。いろいろな場面で活用できるように思える。
【ちょっと思ったこと】

動物を使った除草

 9/24の朝日新聞家庭欄に「動物たち除草に活躍」という記事があった。4種類の動物には
  • カメ:田んぼの草を食べる。水面を濁らして雑草の成長を抑える。アイガモ農法と違って、キツネやイタチに襲われず柵もいらない。
  • アイガモ:すでに知られている農法
  • ヒツジ:ブドウ園の下草刈り。一日に5キロ食べるが、草の好みに差あり。
  • ヤギ:一日に10キロぐらいの草を食べる。繁殖が難しいこと、果物や果樹の葉、樹皮も食べるので果樹園では注意を要する。
といった特徴があるという。

 パミール横断旅行の時にも感じたが、ヤギやロバを放し飼いにしている地域では除草剤など不要。大学構内の除草も動物に任せたほうがよいということは、99年5月27日の日記や、本年7月5日の日記で提案したことがある。ヤギの件はアニマルセラピーの効用を含めて本気で実現を目指しているところだ。