じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa


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[今日の写真] パンヤソウに作られたトックリバチの巣。




7月11日(火)

【思ったこと】
_00711(火)[教育] 最近の大学教育論議でおもふこと(25)目標見えぬ大学教育?(その3):Fランク大学の増加/MIT

 昨日の日記の続き。懇談会では、有馬先生の基調講演に引き続いて、4人の講師から次のような話題が提供された。
  1. 学力低下と総合的な学習[黒木哲徳先生]
  2. 自己表現力を育てる[吉岡元子先生]
  3. 大学をめぐる新政策[潮木守一先生]
  4. 職業教育・教養教育・専門教育(産業界の視点に立って)[覧具博義先生]
なお、私は夕食後に2番目の吉岡先生の分科会に参加したのでその話題は次回以降にまわすこととし、今回は、それ以外の3つについて、簡単にふりかえってみたいと思う。



 1番目の黒木先生の講演では、まず今日の学生の特徴について、
  • アンケート調査に見られた学習態度等についての諸特徴。正解待ち症候群とか、発表方法・質問方法の訓練欠如など。
  • Trow氏が指摘した「the first real "video" generation」という指摘
  • 大学生の学力低下
という3つの指摘が紹介され、ついで、それらをふまえ、「総合的学習の視点」、「教えから学び」、「予科的な制度を各大学に設けること(エクステンション)」、「高校の教育を十全に保障すること」などが提案された。総合的な学習の中には、現実の総合的な課題も含まれている。ここ数年、私がゼミの学生に指導してきた「現実を対象とした研究」にかなり近い内容が含まれているように感じた。



 3番目の潮木先生の話題は、かなり現実的な内容を含んでいた。出生数のピークは1973年生まれの209万人、これが1980人には158万人に、そしてあと9年後には120万人に減少し、以後も増加の兆候は認められなくなることはもはや自明の理となっている。そういうなか、すでに、Fランク大学が出現するようになってきた。

 Fランク大学のFの元の意味はA、B、C、Dというランクの最下位を意味するものと思うが、同時に入試から「Free」という意味を含むものでもある。大手予備校の調査によれば、私立大3807区分のうちFランクは17.7%。学部や地域によってもかなりのバラツキがあるようだ。

 Fランクとの関係で興味深いのは、偏差値の低い大学で入試倍率の落ち込みが激しいことだ。偏差値40未満の大学では2000年度は前年の53.8%しか受験者が居ない。いっぽう、偏差値75以上の大学では前年より増加、それ以外でも偏差値の高い大学では受験者はそれほど減っていない。結果的に、Fランクではもはや落とすための入試は実施不可能となり、代わって「入ってもらうための選抜」や「自信を持たせる入試」が必要になってくる。

 潮木先生のお話ではこのほか、独立行政法人化の特徴、それによる影響などが取り上げられた。中規模の地方国立大が独立行政法人化に合わせて真剣に改革の取り組めば、周辺地域の私学や小規模国立大は、よほどの特色を出さない限りはFランク化必至ではないかと思われる。



 最後に登場された覧具(Roy Lang)先生は、産業界から大学に転じた御経験に基づいて、「外から見た大学」として様々な問題点を指摘された。そして後半では、御自身が卒業されたMITの概要を紹介された。

 Web日記でも米国の大学事情がしばしば伝えられているが、今回のように講演の形で伺ってみると改めて日本の大学との違いの大きさに気づかされる。特に強く感じたのは
  • MITは工科の単科大学のように思われるが、実際は、建築計画学部、工学部、理学部、人文社会学部、経営学部、健康科学部の5学部26学科。
  • 物理学科では一学年約50名に対して教員は80名。
  • 入学時に学部学科の指定無し(これは米国の全大学に共通)。1年次終了時点で学科を選択する。
  • 学科に学生定員が無い。これにより、学科間に競争原理が働く。
  • 大学院への学内進学は抑制・禁止されている。4+5年間同一籍は健全でないという発想。
  • 全学共通必修科目として、コア科学必修科目が計72単位、人文・芸術・社会科学が5科目で72〜96単位、その他Science、体育、Writingがある。これらの単位数は130単位程度を卒業要件とする日本の大学に比べて多すぎると思ったので、講演後に個人的にお尋ねしてみたところ、自習も単位の中に組み込まれているとのことだった。
  • 研究業績、教育業績ともにきめ細かい評価システムが定着している。
  • 教員の標準負担は週あたり3時間分の講義、または2時間分×3クラス分の演習。
  • 休講した場合は補講や代講が必須。2回以上の補講には学部長の許可が必要。
といった点だった。特に、学科に定員枠を設けず学科間に競争原理を導入するというのはなかなかよいシステムであるように思った。日本の大学でも、いずれこういう体制に移行するのではないだろうか。

 特に文学部の場合など、文学部の枠内だけで学生を養成したり、全学向けの教養科目の出講を増やすだけでは生き残れない。例えば、哲学・倫理学のコースは、それを主専攻とする学生ばかりでなく、例えば工学部や医学部などからも、関心をもち余力のある学生を副専攻生として受け入れるというように、総合大学としての利点を活かし、バリアフリーの教育体制を整えることが求められていくのではないかと思った。
【ちょっと思ったこと】

【今日の畑仕事】

多忙のため立ち寄れず。
【スクラップブック】