【連載】チコちゃんに叱られる! 「プラスチック消しゴムの紙ケース」/ジョゼフ・プリーストリー
昨日に続いて、4月25日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。
本日は、
- 首をかしげるとかわいく見えるのはなぜ?
- 暗証番号が4桁なのはなぜ?
- 消しゴムが紙のケースに入っているのはなぜ?
という話題のうち最後の3.について考察する。
消しゴムが紙のケースに入っている理由について、放送では「周りのプラスチックとくっついちゃうから」が正解であると説明された。文房具メーカーで消しゴムの商品開発を担当している花岡貴文さん【映像からトンボ鉛筆ご所属であると推測可能】&ナレーションによる解説は以下の通り【要約・改変あり】。
- 消しゴムは1770年、イギリスで誕生した。それまで鉛筆の文字は、固くなったパンで消していたが、化学者ジョゼフ・プリーストリーが天然ゴムに鉛筆の文字を消す効果があることを発見し消しゴムが誕生した。
- 消しゴムはその後鉛筆文化のヨーロッパやアメリカへ広まった。
- 日本に消しゴムが伝わったのは明治時代初期。それまでの日本は墨と筆で書く毛筆文化だった。その後ヨーロッパやアメリカの教育を取り入れる中で鉛筆や消しゴムを使うようになった。当初は消しゴムには紙ケースは無かった。
- 日本では消しゴムは当初は輸入に頼っていたが、国内で製造するようになっていろんな問題が起きてきた。
- 明治末期頃には『三田土(つち)ゴム』という天然ゴムの消しゴムが作られたが、島国の日本では輸入が不安定で天然ゴムの価格や品質が安定しなかった。
- 天然ゴムの消しゴムは消えが悪く、紙を破ってしまうことがよくあった。
- 低価格で安定したものを供給するため、試行錯誤の末、1950年中頃、代わりの原材料を使った消しゴムとして、世界初のプラスチック消しゴムが日本で誕生した。
- 塩化ビニルに鉛筆の文字を消す性質があることを利用したもの。
- 塩化ビニルは合成樹脂の一種であり、加工しやすく耐久性が高いため、水道管、長靴、バッグなど様々な用途がある。
- 塩化ビニルの原材料は石油と塩であり、天然ゴムより値段が安かった。
- 天然ゴムでは加工に1週間かかるが、塩化ビニルの加工は2〜3日で済んだ。
- プラスチック消しゴムで文字が消える理由は3つの原材料にある。
- 塩化ビニル:鉛筆の黒鉛を吸う性質がある合成樹脂
- 軟化剤:塩化ビニルを軟らかくして吸着力をアップさせる
- 充填剤:くっつけた黒鉛を消しカスとして排出する
これら3つの原材料で紙の上の文字をこすると、文字の成分である黒鉛を吸収し、消しカスとして排出し、文字を消すことができる。
- しかし、プラスチック消しゴムを長期間放置すると、プラスチック製の引き出しなどにくっついてしまう欠点があった。これは同じ石油以来のモノに触れ続けると軟化剤が移動するという『軟化剤の移行性』による。
- 消しゴムの中の軟化剤は塩化ビニルとは完全には混ざっておらず、時間が経つと浸みだして、軟化剤の粒子が少ない周りのプラスチックのほうに移動し、相手のプラスチックを軟らかくして絡みついてくっついてしまう。放送では『恒温槽』を使って「軟化剤の移行」を再現する実験が行われた。プラスチック消しゴムをプラスチック下敷きの上に置いて70℃で24時間放置すると(20℃で約30日放置したのと同じ状態)、消しゴムと下敷きがくっついてしまうことが確認された。
- 紙のケース入りのプラスチック消しゴムで上記と同じ実験を行ったところ、下敷きにはくっつかないことが確認された。
- 詳しい年代は分かっていないが、1960年代後半にはプラスチック消しゴムに紙のケースがつくようになった。
- このほか、紙のケースには消しゴムを折れにくくする効果もあるので外すことなくつけたまま使用してください、という補足説明があった。
ここからは私の感想・考察を述べる。
まず、放送では「日本に消しゴムが伝わったのは明治時代初期。それまでの日本は墨と筆で書く毛筆文化だった。その後ヨーロッパやアメリカの教育を取り入れる中で鉛筆や消しゴムを使うようになった。」と解説されていたが、明治初期はまだ鉛筆や消しゴムは高価であり、学校教育では石盤や石筆が使われていたはずである。上掲のパキスタンの小学校で使われているお絵かきボードも石盤の代替品として重宝されているようだ。
次に、消しゴムの歴史についてはウィキペディアにより詳しい解説がある。放送で紹介されなかったトリビアは以下の通り【要約・改変あり】。
- 一般的には原材料のいかんにかかわらず「消しゴム」という名称が使用されるものの、消しゴムメーカーの業界団体である日本字消工業会をはじめ、メーカー側の表記としては「字消し」が用いられている。これは日本産業規格(JIS)のプラスチック字消しの規格(JIS S 6050)に、名称として「プラスチック字消し」「Plastic eraser」「プラスチック」などと表示しなければならないとされているためである。なお、天然ゴムを使用した消しゴムの規格であったJIS S 6004は1999年、廃止されている。
- プラスチック消しゴムはポリ塩化ビニルを使用しているので、燃やすとダイオキシンが発生するなど環境負荷が大きい(これは学校などで焼却炉が使用された時代で問題とされたが、現代日本の高度なごみ焼却では影響は少ないとされる)。
放送では、「化学者ジョゼフ・プリーストリーが天然ゴムに鉛筆の文字を消す効果があることを発見し消しゴムが誕生した。」というように「化学者ジョゼフ・プリーストリー」として解説されていたが、リンク先にあるように、ジョゼフ・プリーストリーは「18世紀イギリスの自然哲学者、教育者、神学者、非国教徒の聖職者、政治哲学者」というように多才であり、またフロギストン説の固執者としても知られている。念のためCopilotにジョゼフ・プリーストリーの業績を5つに要約してくださいと依頼したところ、以下のような回答をいただいた。
ジョゼフ・プリーストリーの主な業績を5つにまとめると、以下のようになります:
- **酸素の発見** 1774年に酸化水銀を加熱することで、燃焼を促進する気体(後に酸素と判明)を単離しました。
- **炭酸水の発明** ビール醸造所の二酸化炭素を利用し、水に溶かすことで炭酸水を作り出しました。
- **複数の気体の単離** アンモニア、一酸化窒素、二酸化窒素、塩化水素など、さまざまな気体を発見しました。
- **光合成の観察** 植物が酸素を放出することを観察し、光合成の仕組みの理解に貢献しました。
- **宗教・哲学・政治への影響** ユニテリアン主義の確立に関与し、言論の自由や宗教的寛容を主張しました。
彼の業績は科学だけでなく、思想や社会にも大きな影響を与えましたね。どの業績が特に興味深いですか?
なおウィキペディアでは「気相の酸素の単離に成功したことから一般に酸素の発見者とされているが、カール・ヴィルヘルム・シェーレとアントワーヌ・ラヴォアジエも酸素の発見者とされることがある。」と記されていた。
元の話題に戻るが、私自身はかれこれ40年以上、消しゴムや鉛筆を使ったことが殆ど無い。理由は、ワープロの専用機や『一太郎』の登場で手書きで文字を書くことが殆ど無くなったこと。また手書きの場合もほぼ100%、ボールペンを使うようになったためである。
入学試験の監督を命じられた時には当然消しゴムが目に入る。今回の「紙のケース」に関して言えば、紙のケースに英単語が印字されている場合があり、あまりにも多い時はケースを外すように指示したことがあった。もっともこのこともあって、英語の試験で「消しゴム」を意味する「eraser」という単語が問われることはまずないと思われた。
試験が終わると机上に大量の消しカスが残る場合がある。帰り際に受験生が紙に包んで持ち帰る場合もあるが、床に落とす場合もある。その後、消しカスが出にくい消しゴムも開発されたようであるが詳しいことは分からない。
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