じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



10月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る
クリックで全体表示。




 10月29日の朝5時半頃、西の空を眺めたところ、丸い月と木星が接近して輝いているのが見えた。しかし、月の左側が僅かに欠けており、また、通常の満ち欠けや雲によるものではないことが確認できた。さっそく天文年鑑を参照したところ、この日の4時34分から5時53分に部分月食となることが分かった(最大は5時14分、食分0.128)。
 皆既月食・部分月食を合わせてこれまで何度も月食を見たことはあるが、すべて、事前に情報を得た上で眺めたものばかりであった。今回のように、月食が起こることをしらずにたまたま空を眺めた時に目撃したのは人生70+α年で初めてであった。なお、月と木星の接近、月の入りと日の出の写真は、まとめて楽天版に掲載する予定。




2023年10月29日(日)




【連載】チコちゃんに叱られる! コーヒーの目覚まし効果/布団を体にかけて寝るのは「巣穴に入ると安心するから」という胡散臭い説明

 昨日に続いて、10月27日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は、
  1. なぜ漢字に書き順がある?
  2. なぜコーヒーを飲むと目が覚める?
  3. なぜ眠るときに布団をかける?
という3つの話題が取り上げられた。本日は残りの2.と3.について考察する。

 まず、2.のコーヒーの「目覚め効果」については、放送では「カフェインが偽物の鍵になって眠気の鍵穴を埋めてしまうから」が正解であると説明された。福島洋一さん(大東文化大学)&ナレーションによると
  1. コーヒーを飲むと目が覚めるのはカフェインが原因。カフェインは、コーヒーのほかお茶やエナジードリンクに含まれている。
  2. そもそも、なぜ眠くなるかと言えば、アデノシンという物質が関係しているから。脳が疲れを感じるとアデノシンが生まれアデノシン受容体とくっつくことで眠くなる。
  3. カフェインはアデノシンと形がよく似ていてアデノシン受容体とくっついてしまう。するとアデノシンが入らなくなり眠気スイッチが入らなくなりその結果眠気が起きにくくなる。
  4. カフェインは眠気や疲れを一時的に感じにくくさせるが回復はしないためカフェインをとっても疲れはたまるので昼間は効果的だが夜にはおすすめできない。
  5. カフェインはとりすぎるとめまい・吐き気など引き起こす恐れがあるため1日の摂取量は成人400mgまで。18歳未満は体重1kgあたり3mgまで。

 放送ではこのあと、コーヒー摂取の歴史や、世界各地の変わりダネコーヒーが紹介された。

 ここからは私の感想・考察になるが、この日記に何度か書いているように、私は以前はカフェイン中毒とも言えるほどコーヒーに依存しており、特に昼食後は必ずコーヒーを飲まないと眠気が出て仕事ができなかった。現役時代は、昼食後は必ずコーヒーを飲んでいたが、そのうち、実はコーヒーを飲んでも飲まなくても、午後に眠気が生じる程度に変わりが無いことに気づいた。ということもあって、定年退職後は、それまで朝1回だけ飲んでいた自家製「飲むヨーグルト(自家製ヨーグルト+豆乳、砂糖無し)」を朝と昼の2回に増やし、また夕食後は万能茶を飲んでいるため、結果的にコーヒーを飲む機会が無くなった。コーヒーを飲まなくなったあとはカフェインに敏感になったのか、たまに外食時にコーヒーを飲むと、夜中に目が覚めて寝付けなくなることがあり、それを恐れてますます飲む機会が減ってしまった。




 最後の3.の布団を体にかけて寝る理由については、放送では「巣穴に入ると安心するから」が正解であると説明された。
 眠りのメカニズムについて長年研究しておられる白川修一郎さん(日本睡眠改善協議会理事長)は以下のように解説された【一部要約・改変あり】
  1. 布団をかける理由の1つは睡眠中の体の周りの温度を保つこと。人は起きている時は体温を36.5℃前後に保つことができるが、寝ている時は体温がだんだん下がってしまう。布団をかけずに寝ると体温を上げるためにエネルギーを使ってしまうため眠りが浅くなる。布団をかけていれば体温を保つことができ、余計なエネルギーを使わずに済むので快適に眠れる。
  2. しかし上記の理由だけでは、暑いときでも体に何かかかっていないと眠りにくいという現象を説明できない。
  3. ということで2つ目の理由は「人間も動物として巣穴に入ると安心するから」。巣穴に入るのは外敵から身を守る目的もある。寝ているときは動けず無防備になる。布団をかけることによって無意識のうちに身を守られている安心感がある。人間にも野生動物としての感覚が残っている。

 放送ではさらに、布団の歴史についても説明された。
  • 日本では布団が生まれる遙か昔からわらやイグサで体に巻き付けて寝ていた。
  • 平安時代、「ふすま」と呼ばれる着物を羽織って寝るようになる。但しこれは身分の高い人だけ。
  • 室町時代に外国からわたが伝わり「夜着」という着物の形をした現代の布団に近いものが誕生。
  • 江戸時代までほとんどの庶民はむしろやわらを身にまとって寝ていた。
  • 明治時代に外国の安いわたが流通し庶民にも布団が広まり畳の上に布団を敷く日本人スタイルが誕生。但し戦後になるまでは、農村などではまだまだワラやゴザを敷いて寝る人も多く、現代の布団が広まったのは戦後になってから。
  • 最近は重さで安心感を高めるウエイトブランケットが登場。通常の掛け布団の2〜3倍重い。もともとは寝付けない子どものためにスウェーデンで医療用に開発された。
  • 宇宙服の技術を詰め込んだオールシーズン使える布団も開発された。
  • 宇宙服の断熱素材を使った布団も。1枚あればマイナス70℃でも安心して寝られる。
 なお、白川修一郎さんからは「子どもが布団から出てしまうのは大人よりも基礎代謝・体温が高く暑過ぎている。冬でもおなかを冷やさないようにすれば布団をかけ直す必要はない。」という補足説明があった。

 ここからは私の感想・考察になるが、体に布団をかける理由のうち1番目の「睡眠中の体の周りの温度を保つこと」についてはその通りだと思うが、2番目に挙げられた「人間も動物として巣穴に入ると安心するから」というのは進化生物学的な根拠が何も示されておらず、胡散臭い「説明」であると言わざるを得ない。
 白川さんは「人間にも野生動物としての感覚が残っている」と言っておられたが、野生動物のすべてが巣穴に潜って寝ているわけではない。木の枝の上で寝る動物もいれば、地上で立ったまま寝る動物もいる。人間に近い、ニホンザル、チンパンジー、ゴリラ、オランウータンがどのように寝るのかをBingに尋ねたところ、以下のような回答をいただいた。
それぞれの種類の霊長類は、寝るときに異なる姿勢をとります。以下に、あなたが尋ねた種類の霊長類の寝方をまとめました12:

- **ニホンザル**: 木の枝や葉っぱの上で、四肢を伸ばして寝ます。
- **チンパンジー**: 木の枝や地面で、横向きになって寝ます。
- **ゴリラ**: 地面で、四肢を折りたたんで寝ます。
- **オランウータン**: 木の枝や葉っぱの上で、横向きになって寝ます。

(1) チンパンジー・ゴリラ・猿で違いを比べてみた! | おさる .... https://www.osaruland.jp/tips/1831/.
(2) 類人猿とサルの睡眠スタイルの違い - 動物を知り、動物を愛す. https://animallover.hatenablog.com/entry/2015/04/17/203000.
(3) 類人猿 - Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A1%9E%E4%BA%BA%E7%8C%BF.
(4) 霊長類はどのような社会で暮らしているか??DNA分析が明かす .... https://www.toho-u.ac.jp/sci/bio/column/0806.html.
 いただいた回答の2.の出典にはより詳しい解説があり、抜粋引用させていただくと、
  • 今から1400〜1800年前に、今の類人猿の共通の祖先が、木の枝に座って眠るスタイルから、寝る台を作ってそこに寝るというスタイルに乗り換えた、と考えられています。
  • 中新世(2300年前〜5百年前まで)の間に、類人猿はどんどん体が大きくなってゆきました。そのため、自分の身体の大きさや重さを支えるため、寝る台を作り始めた可能性が高いのです。
  • 寝る台を作ることで、木の中で安全に眠り、また肉食動物や血を吸う虫などを避けることが出来たのです。
というような進化の過程があり、巣穴に潜って安心して眠るというような眠り方はしていなかったことが読み取れる。

 ちなみに、今回解説を担当された白川修一郎さんは、ウィキペディアでは、

東邦大学医学部大学院修了。1990年「睡眠中の体動の動態とその役割」で医学博士。国立精神・神経医療研究センター客員研究員、江戸川大学客員教授などを務めた。

というように略歴紹介されており、また日本睡眠改善協議会の理事長をされておられることから、睡眠研究の第一人者であることは間違いなさそう。しかし、睡眠研究の第一人者だからと言っても、人間以外の動物の行動や進化のプロセスについて専門的・体系的な知見をお持ちであるとは必ずしも言えない。「巣穴に入ると安心できる」というような「説明」は、あるいは「意外性のある正解というウケ」を狙った制作会社の要望を汲んだものかもしれないが、逆に、チコちゃんの番組ではたまに登場するトンデモバージョンの1つとして信頼を損ねる恐れもあるように思う。もしこの指摘が間違いであるというなら、「人間は巣穴に入ると安心して眠れる」ということの進化生物学証拠をハッキリと示してもらいたいものだ。