じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 楽天版にカザフスタン・マンギスタウのアルバムを連載しているところであるが、8月13日付けに掲載したボスジラに向かう途中の高台で、写真のような奇怪な生命体?を目撃した。
 ハリネズミが丸まっているのかと思ったが全く動かないのでひっくり返したところ、なっなんと正体はたわしであった。同じものがキッチンにあれば疑いなくタワシとして認識するが、このような人気の無い場所に人工物が転がっているとは思ってもみなかった。物の見え方が文脈に依存するという例と言えよう。
 なぜこの場所にタワシがあるのかは不明だが、近くに焚き火のあとがあったことから、この場所で野営をした人が食器を洗ったあとに置き忘れたものではないかと推測される。

2023年8月13日(日)




【連載】チコちゃんに叱られる! 「正座の由来」「うれしいとジャンプするのは、目指すものが見つからなくて上へ跳ぶしかないから」という胡散臭い「説明」

 昨日に続いて、8月11日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は、
  1. 花火が打ち上がるのはなぜ?
  2. 「水切り」を何回もできる方法を教えて!
  3. なぜ正座をするようになった?
  4. なぜうれしいとジャンプする?
という4つの話題のうち残りの3.と4.について考察する。

 まず3.の『正座』の由来であるが、放送では「徳川家光が心配性だったから」が正解であると説明された。
 斗鬼正一さん(江戸川大学名誉教授)によれば、正座は日本古来の独自な座り方という印象が強いが、奈良時代に中国から伝わった座り方であると言われている。もっとも当時の日本では『あぐら』や『立てひざ』が一般的であり、座っていてもきつくてしんどい『正座』は広まらなかった。千利休も『正座』ではなく『あぐら』でお茶を点てていた。
 徳川家光は幕府を安定させるために、参勤交代、キリスト教禁止、鎖国などさまざまな制度を作ったが、大名たちと対面する際に裏切りで斬りかかられるのをふせぐため、すぐには攻撃体勢をとれないように、正座(跪座)を命じたという。但し表向きには「姿勢がきれいな座り方」であるという理由がつけられた。
 跪座が正式に『正座』と呼ばれるようになったのは明治時代に入ってからであり、学校教育でも取り入れられ、日本人にふさわしい座り方として一般的になったという。

 ここからは私の感想になるが、ウィキペディアには『正座』の歴史がもう少し詳しく説明されている。江戸自体初期に正座が広まった要因については、
  • 江戸時代初期、正座の広まった要因としては、江戸幕府が小笠原流礼法を採用した際に参勤交代の制定より、全国から集められた大名達が全員将軍に向かって正座をする事が決められ、それが各大名の領土へと広まった事が一つ。
  • また、別の要因として、この時代、庶民に畳が普及し始めた頃であったことも要因であるという。
と記されている。放送で「斬りかかられるのを防ぐため」とされていた点には特に言及されていなかった。それだけが目的なら、大名たちが将軍にお目にかかる前には、厳重なセキュリティチェックを行い、刃物等はすべて預けて丸腰で面会するという方法もとれたのではないかと思う。

 なお、座禅の座り方と正座の違いについてBingに尋ねたところ、
座禅の座り方は、**坐蒲**というクッションの上に足を組んで、両膝とお尻の三点で上体を支える姿勢です2。足の組み方には**結跏趺坐**と**半跏趺坐**があります23。正座は、足の裏の上にお尻が位置する姿勢です1。両足部をお尻の外に出して、お尻は座面に接触する座り方は「**おねえさん座り**」と言われます1。座禅と正座の違いは、足の組み方や坐蒲の使用などにあります。どちらも背筋を伸ばして頭を上に置くことが大切です。

1: [座位姿勢 5種類の座り方の専門用語をイラスト・動画で解説](https://carenote.jp/zaisisei/)
2: [坐禅の作法 | 曹洞宗 曹洞禅ネット SOTOZEN-NET 公式ページ](https://www.sotozen-net.or.jp/propagation/zazentop/saho)
3: [坐禅 - Wikipedia](https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9D%90%E7%A6%85)

(1) 坐禅の作法 | 曹洞宗 曹洞禅ネット SOTOZEN-NET 公式ページ. https://www.sotozen-net.or.jp/propagation/zazentop/saho.
(2) 坐禅 - Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9D%90%E7%A6%85.
(3) 座位姿勢 5種類の座り方の専門用語をイラスト・動画で解説. https://carenote.jp/zaisisei/.
(4) 座法 - Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BA%A7%E6%B3%95.
 私自身は座禅の座り方を全く教わったことがなく、正座に近い形で座ってしまうためすぐに足がしびれて起き上がれなくなってしまう。




 最後の4.のうれしいとジャンプする理由については、放送では「目指すものが見つからなくて上へ跳ぶしかないから」というかなり胡散臭い「説明」が行われた。

 脳と体の関係を研究している篠原菊紀さん(公立諏訪東京理科大学)によれば、うれしくてジャンプするのは、脳内にある快感や行動に深く関わる「線条体」(別名『やる気スイッチ』)が刺激されることで起きると考えらる。
  1. 『やる気スイッチ』は、過去にうれしいことがあった経験を蓄積しているため、何かうれしいことが起きそうとなると、その方向へ体を動かす。
  2. じっさい、保育園でお迎えのお母さんが現れたときに子どもが駆け寄るは、お母さんを見た瞬間に「お母さんと一緒におうちに帰れる(=うれしいことが起きるという予感)」を瞬時に察知して『やる気スイッチ』が入り、うれしい方向に体が動き始める。
  3. この行動は人だけではなく、多くの生き物が行っている。例えば動物園のエサやりでは、エサを運んでいる飼育員の周りにサルが集まったりする。また、養殖場の金魚はエサに群がるなど、人・動物・鳥・魚などの多くの生き物は、うれしいことが起こりそうな方向へ動く習性がある。
  4. 多くの生き物は獲物を捕まえるため移動する。これは、過去に獲物を捕まえたうれしい経験が脳に蓄積しているため、そちら(=うれしい経験の方向)へ向かうと獲物が取れる、つまり、またうれしい体験ができると脳が判断し、目の前の獲物に向かっていく。
  5. 【ナレーション】目の前にうれしいことが起こりそうと思うモノがあると、過去の経験からその方向へ体が向かう。
  6. このような動きは、理性が成長しきれていない2〜6歳の子どもに多く見られる。例えば子どもたちの目の前にうれしいことがあると駆け寄っていく。これは素直に喜ぶことが恥ずかしいとか、いま大喜びするのは変なんじゃないかと考えないため。
  7. ただ、うれしいことが目の前にある場合とない場合で、体を動かす方向が変わる。喜び方の違いを、担当ディレクターの子どもたちで見てみると、
    • うれしいことが目の前にある場合:子どもたちはお菓子に向かって一直線に駆け寄る。これはお菓子を見た瞬間、また食べられるという『やる気スイッチ』が入った結果。
    • うれしいことが目の前にない場合:平井大の大ファンの子どもたちに、ライブのチケットがとれたと報告すると、喜ぶ対象が目の前にないためその場で飛び跳ね、喜びを表現している。好きな人に会えると脳のやる気スイッチが刺激されたが、対象がなくどこへ向かったらいいかわからず、移動する代わりにジャンプした。
  8. 別の家族でも、魚取りが大好きな子どもに「公園に虫取りや魚取りに行く」というとジャンプする行動が生じた。
  9. うれしい方向へ向かう時、多くの生き物は足を使う。やる気スイッチは足を動かすことに結びつきやすい。どこへ向かっていいかわからないのに足を使う場合、上へ行くしかないということだと考えられる。





 ここからは私の考察・感想になるが、ウィキペディアによれば、篠原菊紀さんは東京大学教育学部のご卒業であり、
  • 多チャンネルNIRSと視線追尾システムを使って、「学習しているとき」「運動しているとき」「遊んでいるとき」「CMを見ている時」など日常的な場面での脳活動を調べている。
  • 新学社と幼児教材開発。ユーキャンと高齢者脳トレーニング研究。社会安全研究財団、日遊協と遊技障害(ぱちんこのギャンブル等依存症)研究。豊丸と遊びを介護予防に生かす研究。プレイケアと高齢者の遊び、保険外サービス事業関連あれこれ。エポック社と「ジグソーパズル達人検定、ジグソーパズル脳力診断」、アポロ社とピクチャーパズルステップ脳シリーズ開発。SCRAPと謎検。PSK総研などとドーパミン増幅比研究、健康ぱちんこの展開。
といったように民間との共同研究も多く、またテレビ番組に出演したり、一般向けの著書を多数刊行するなどのご活躍をされているようである。チコちゃんの番組では以前「エイエイオー」の回に登場されたことがあった。

 しかし、今回の「目指すものが見つからなくて上へ跳ぶしかないから」という「説明」については、過去のどのような研究によって実証されているのか、何の出典も明らかにされておらず、ひょっとして単なるご自身の持論の紹介に過ぎないのではないかという印象を受けた。

 人がうれしいことがあった時に飛び跳ねて喜ぶのは、チームの優勝シーンなどでもたまに目にすることがあったが、このことを、具体的な事物が目の前にない場合の代償行動のように解釈できるかどうかははなはだ疑問である。
 上掲の4.では

多くの生き物は獲物を捕まえるため移動する。これは、過去に獲物を捕まえたうれしい経験が脳に蓄積しているため、そちら(=うれしい経験の方向)へ向かうと獲物が取れる、つまり、またうれしい体験ができると脳が判断し、目の前の獲物に向かっていく。

と論じられていたが、動物の食行動はそんなに単純なものではない。草食動物、肉食動物、雑食動物によって、エサ探しや摂食行動の仕組みは多種多様であるが、いずれにせよ、摂食行動は生命維持に欠かせない基本的な行動であって、移動だけで成り立つとは限らない。
 篠原菊紀さんは脳科学を専門としておられるようなので、行動分析学の強化理論についてはご存じないか、もしくはご存じであっても無視しておられるのかと思われるが、動物が食べ物のありそうな場所に接近するには、
  • 食べ物の匂いなどに対するレスポンデント行動
  • 食べ物に関連した手がかりを利用した弁別行動(オペラント行動)
といった行動が関連していると思われる。「うれしいという体験の蓄積」というのはオペラント行動が強化されることを意味するが、それはむやみやたらに目標物に向かって突進するという行動が強化されるという意味ではない。いずれにせよ、強化理論で説明するぶんには『やる気スイッチ』とか「脳が判断する」といったような比喩表現は冗長であって、現象を予測する上では何の役にも立たない。うれしいという状態がドーパミン放出と関係していることは確かではあるが。

 そういえば、同じチコちゃんの番組の中には

拍手をするのは体に触りたいけど手が届かないから

という胡散臭い「説明」もあった。

ま、バラエティ番組ということなので、意外性のあるトンデモ理論がもてはやされる傾向があるのは致し方ないところもあるが、青少年から高齢者まで影響を与えやすい人気番組でもあるので、疑問解決にあたっては研究者一人だけの持論を紹介するのではなく、常にセカンドオピニオンを取り、信頼性の高い放送になるように努めて貰いたいものだ。