じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 ↓の記事で、温水洗浄便座の話題を取り上げたが、温水でない洗浄便座であれば、外国でも見かけたことがある。写真はエジプトのトイレで、向かって左下の蛇口を回せばお尻に水が当たるようになっている。暑い国なので温水は不要。但し、この洗浄装置がお尻を洗うためなのか、ビデなのかは確認していない。

2022年5月26日(木)



【連載】プロジェクトX4Kリストア版『革命トイレ 市場を制す』

 NHK-BSPで、4Kリストア版として再放送されているプロジェクトXのうち、興味のあるタイトルを録画再生で視ている。4月以降5月上旬までに視聴したのは、
  1. #54【2001年5月29日初回放送】腕と度胸のトラック便:ヤマト運輸の宅急便
  2. #101【2002年11月5日初回放送】突破せよ 最強特許網 新コピー機誕生:キヤノンの完全国産複写機
  3. #64【2001年9月4日初回放送】逆転 田舎工場 世界を制す〜クオーツ・革命の腕時計〜:諏訪精工舎(現:セイコーエプソン)の クォーツ式腕時計(アストロン)
  4. #97【2002年9月17日初回放送】革命トイレ、市場を制す:東陶機器(現:TOTO)のウォッシュレット
の4回分であったが【それ以前の視聴記録と感想についてはこちらで収集整理中】、上記の中でピカイチだったのは、革命トイレ「ウォッシュレット」の開発秘話であった。

 2021年6月22日にも述べたように、プロジェクトXに登場する「地上の星」たちの活躍ぶりには大きく分けて次の3つのタイプがあるように思われる。
  1. 大プロジェクトの中の「地上の星」
  2. 後の世に大きな影響を及ぼした製品の開発秘話
  3. 成果そのものは地味だが、その中で地道に努力を重ねた人たちの苦労話
私の好みはこのうちの2.の開発秘話であるが、このタイプはさらに
  1. 他の誰もが手がけていない、世界で初めての製品を誕生させた。→ウォッシュレット、カップめん
  2. いろいろな企業が手がけている中で、他者に先んじて製品化や規格の標準化を成功させた。→ビデオのVHSなど
  3. 製品自体の技術的な問題以外の障壁(例えば特許とか既得権を守るための法的規制)を克服した。→キヤノンの国産複写機、宅急便など
という3つに分けられるように思う。純粋な技術開発秘話という点では1.の「世界初」がいちばん感動的であり、ウォッシュレットやカップ麺がこれに該当する。

 ウォッシュレット開発では、
  1. 温水の最適温度の設定→社員の協力者のデータにより38±2℃
  2. 噴射口の位置の調整→自動車のラジオのアンテナが伸びることにヒントを得て、伸縮型を採用。
  3. 噴射口の角度→実験を繰り返し、43℃が最適と決定
  4. 温度が不安定で欠陥商品とされた「バイメタル方式」に代わる温度調整システムの開発→ICの採用
  5. ICを採用したことによる漏電問題の解消→雨が当たっても故障しない交通信号にヒントを得て、特殊な樹脂でコーティングした「ハイブリッドIC」を採用。
  6. 繰り返し試用することによる故障→38℃を維持するた1日1500回のON-OFF信号が電熱線に送られたため、伸縮による機械疲労が発生。アルミ箔の電熱線をステンレスに変え、太くすることで、連続3000時間のお湯を出し続けることに成功。
というように、技術面でのアイデアと努力の積み重ねが結実する過程が分かりやすく紹介されていた。

 放送ではもう1つ、広告宣伝への対応の秘話があった。もともとトイレは、「遠方(遠くにあるべきもの)」、「御不浄」、「憚(人目を憚る)」などと呼ばれているように、ネガティブなイメージがあり、東洋陶器が最新トイレの宣伝のために「誰も覗こうとしない水流を1日中、1年中見つめている人がいます」というフレーズの広告を雑誌に出そうとしたところ、「便器は汚いイメージがあり、雑誌の品位が落ちる」と掲載を拒否された。新聞広告も同様であった。ウォッシュレット発売当時のキャッチコピー「おしりだって洗ってほしい」が食事時間帯に放送開始された時には抗議の電話が殺到したが、丁寧な返答により1ヶ月頃にはかからなくなり、多くの人たちに受け入れられたという。

 放送では、温水洗浄便座は、10万台を超える大ヒット商品となり、「世界20カ国における輸出では、デジカメ、ウォークマンに並ぶ日本が誇る世界商品となった」と紹介されていた。2022年の時点では残念ながら日本製のデジカメやウォークマンはもはやそのような地位には無いが、温水式洗浄便座については、
内閣府の消費動向調査によると日本における温水洗浄便座の世帯普及率は1992年には約14%だったが2000年には約41%、2008年には約68%、2010年には71.3%に達した。温水洗浄便座における世界のシェアは大部分は日本の企業だがアメリカやヨーロッパなどではコンセントが便所に無い場合が多いこともあり、日本以外での普及率は高くない。
と記されており、依然としてトップシェアを誇り、かつ伸びしろがあるように思われる。

 次回に続く。