じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 新型コロナはまだ収束していないが、岡大では、一昨年来のオンライン授業中心から対面型授業への復帰が進んでいるようである。写真は、文法経講義棟前の駐輪状況。また建物の中からは講義の音声が聞こえていた。

2022年4月22日(金)



【連載】abc予想証明をめぐる数奇な物語(6)オイラー予想、abc予想の反例探し

 昨日に続いて、

NHKスペシャル「数学者は宇宙をつなげるか?abc予想証明をめぐる数奇な物語【ブログ後編はこちら

についての感想と考察。59分バージョンをベースにして、4月15日の23時から放送された89分「完全版」を参照しながら感想を述べることにしたい。

 まず、昨日の日記で、ノーム・エルキース博士が放送に登場しておられたことについての余談だが、エルキース博士と言えば、オイラー予想の反例を発見した一人として知られている。オイラー予想というのは、

●n > 3 とすると、n- 1個のn乗数の和を1個のn乗数で表すことはできない。

というものであったが、リンク先にあるように、
  • 1966年にレオン・J・ランダーとトーマス・R・パーキンによって n = 5 の場合の反例として
    275 + 845 + 1105 + 1335 = 1445 が成り立つことが確認された。
  • 1986年にハーバード大学のノーム・エルキーズ(Noam Elkies)が、楕円曲線論とコンピュータを用いて発見した。その反例は
    26824404 + 153656394 + 187967604 = 206156734 という複雑なものだった。この発見と同時に解は無限に存在することも確認され、約200年間未解決となっていたオイラー予想は、否定的に解決された。
  • 2004年にはジム・フライによってn=5の場合の反例
    852825 + 289695 + 31835 + 555 = 853595
    が発見された。
このオイラー予想の反例は比較的最近になって発見されたものであるが、私がイマイチ分からないのは、レオン・J・ランダーとトーマス・R・パーキンによって発見された「n = 5 の場合の反例」というレベルの数の大きさであれば、手元のパソコンの電卓機能を使っても、
275 + 845 + 1105 + 1335 = 1445=61,917,364,224
という計算は1分もあればできる。もちろん1966年当時には電卓は無かったが、当時の大型計算機を使って場合を尽くせば簡単に反例が見つかったのではないかと思うのだが、コンピュータのメモリーというのはその程度の容量しか無いのだろうか。

 ちなみに、コンピュータを使ってしらみつぶしに反例を探す取組は、abc予想のほか【後述】、ゴールドバッハ予想についても行われているという。ゴールドバッハ予想の場合は、4×1018まで成立することが証明されているというが、量子コンピュータを使えば遙かに大きな数までチェックできるのではないだろうか。

 ここからは元の放送内容に戻るが、ファルティングス博士は望月青年の博士論文のテーマを与える際に、失敗のリスクに配慮して、abc予想ではなく、別のテーマを与えたという。

 そのあと、abc予想に取り組んだ何人かの数学者のエピソードが紹介された。
  • ルシアン・シュピロ博士(ニューヨーク市立大学、1941-2020)は、abc予想をある種の曲線の問題に焼き直すという戦略で取り組んだ。aやbといった数を曲線に置き換え、それらが交わるかどうかを検討した。「2本の曲線がいつも必ず交差することを示せれば「abc予想が正しい」と証明したことになる」というものであった。70歳を目前にしたシュピロ博士は、ある日、2つの曲線は必ず交わることを確信し、数学者たちが集まる国際会議のパーティの席上でその内容を発表したが、発表の途中で根本的な欠陥が指摘され、その出来事以来、シュピロ博士は数学の表舞台には立たなくなり、abc予想についても語らなくなった。
  • アブデラハマン・ニタジ博士(フランス・カン・ノルマンディー大学)は、コンピュータを使ってabc予想の反例を見つけようとした。その中で、abc予想の不等号が成り立たない可能性のある値として、
    • a=611596453
    • b=5368709120
    • c=5980305573
    というトリプルを見つけたが、この組合せでもabc予想はかろうじて成り立つことが判明したという。ニタジ博士は32年、100桁にも及ぶ数の組合せを検討したが反例を見つけ出すことはできていない。


 次回に続く。