じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 4月18日の楽天版に、半田山植物園で見かけた27種の桜のカタログをまとめたところであるが、桜の中には、青空とのコントラストで映える品種と、曇りや雨の日のほうがパステル調で美しく見える品種があるように思う。写真は、「普賢象」(左)と「鬱金」(右)の、晴れの日と雨の日の見え方の比較。

2022年4月19日(火)



【連載】abc予想証明をめぐる数奇な物語(3)

 4月16日に続いて、

NHKスペシャル「数学者は宇宙をつなげるか?abc予想証明をめぐる数奇な物語【ブログ後編はこちら

についての感想と考察。59分バージョンをベースにして、4月15日の23時から放送された89分「完全版」を参照しながら感想を述べることにしたい。今回は、前回までの部分についての補足。

 まず、4月15日の日記で、「a×bという掛け算では、その結果cは、aとbの「遺伝子」(=素因数)を引き継いでいるが、a+bの結果cがどのような「遺伝子」を持つのかは、aやbの遺伝子からは全く予想がつかない(とされてきた)。」について、「a+bの結果cがどのような「遺伝子」を持つのか、aやbの遺伝子から予測できる」という事例がないかどうか、考えてみた。
 真っ先に浮かんだのは、aとbがそれぞれ奇数か偶数かによって、a+bが奇数になるか偶数になるかという事例である。すぐに分かるように、a+bが奇数になるのはaとbのうち一方が奇数で他方が偶数の場合。a+bが偶数になるのは、aとbが両方とも奇数の場合、もしくは両方とも偶数の場合である。但しこの事例は、a+bは、aとbそれぞれの固有の「遺伝子(ここでは奇数か偶数か)」を引き継いだものとは言えない。「aとbとの関係」自体がa+bの遺伝子を形作っていると言うべきであろう。

 次に、「c/rad(c)<rad(ab)という不等式は、abc予想の“簡易版”であり、ε→0、K(ε)=1として単純化したもの」という点であるが、放送ではεやK(ε)についての解説が全く無かったため、何のことやら分からなかった。ウィキペディアから抜粋すると、
  1. 自然数の組 (a, b, c) で、a + b = c, a < b で、a と b は互いに素であるものを abc-triple と呼ぶ。
  2. 大抵の場合は c < rad(abc) が成り立つが、ABC予想が主張するのはこれが成り立たない例(例えば、a = 1, b = 8 のとき c = 9 であり、rad(abc) = 6 である)の方である。
  3. ただし、c > rad(abc) が成り立つ例も無限に存在するため、rad(abc) を少しだけ大きくすることで例を有限個にできないかどうかを考える。
  4. すなわち、ABC予想は任意のε>0 に対して、次を満たすような自然数の組 (a, b, c) は高々有限個しか存在しないであろうと述べている:
    c<rad(abc)1+ε
  5. これと同値な他の定式化(Oesterle-Masser の ABC予想)として次のものがある。すなわち、任意のε>0に対してある K(ε)>0が存在し、全ての abc-triple (a, b, c) について次が成り立つという:
    c >K(ε)・rad(abc)1+ε
    (K(ε) を ε に依らずに取ることはできない。)
  6. 三つ目の定式化は「質」(quality) と呼ばれる概念を導入して表現する。abc-triple (a, b, c) に対して、質 q(a, b, c) を次のように定義する:
    q(a,b,c):=logc/log(rad(abc))・
    このときABC予想は、任意の ε>0 に対して、abc-triple (a, b, c) であって q(a, b, c)>1 + εを満たすものは高々有限個しか存在しないということを主張している。
  7. 現在、q(a, b, c) > 1.6 を満たす abc-triple は後述の通り3組しか知られていない。q(a, b, c) を 2 まで大きくすれば、そうした abc-triple は存在しないという予想もある。すなわち「全ての abc-triple (a, b, c) に対して、c <rad(abc)2を満たすであろう」という主張だが、こちらも肯定も否定もされていない。
  8. ABC予想を真だと仮定すると、多数の系が得られる。その中には既に知られている結果もあれば、予想の提出後に予想とは独立に証明されたものもあり、部分的証明となるものもある。ABC予想がもし早期に証明されていたなら、得られる系という意味での影響はもっと大きかったが、ABC予想が成立した場合に解決される予想はまだ残っており、また数論の深い問題と数多くの結び付きがあるので、ABC予想は依然として「重要な問題」であり続けている。「有限個に限定される」ことが結論である命題(予想)の証明に役に立つ。
となる。放送の「ε→0、K(ε)=1として単純化し」という未定義の記述のうち、εは単に「任意のε>0」という意味であろうと思われる。Kは集合のことかと思ったが、こちらの記事では、
任意のε>0に対して、次の条件を満たすある正の定数K>0が存在する。
a,b,cを互いに素な整数で、a+b=cを満たすものとするならば、

max{|a|,|b|,|c|}<K(rad(abc))1+ε が成立。
と記されていた。このリンク先の説明は、ウィキペディアよりは幾分分かりやすいので、次回、もう少し読み進めていくことにしたい。

 次回に続く。