じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 津島東キャンパスの野球場の金網に蔓性の植物が巻き付いていたので近くまで行ってみたところ、ヘクソカズラであることが分かった。昨年9月2日の楽天版にもあるように、ヘクソカズラは何にでも巻き付いてぐんぐん上まで伸びる。宿根性でもあり、しかも種がいっぱいできるのだからそう簡単には駆除できない。

2021年10月9日(土)



【連載】ヒューマニエンス「“快楽” ドーパミンという天使と悪魔」その10 未来予測と我慢の原理/時間価値割引と確率価値割引とドーパミン

昨日に続いて、9月9日に初回放送された表記の話題についての感想と考察。

 まず、昨日も取り上げた「我慢と“快楽”の関係は?」の話題。番組では、
中脳を1階、線条体を2階に喩えてドーパミンが中心になった学習について説明してきたが、さらに今度は3階建ての話になる。3階の前頭葉はより長い未来予測をするようになる。その際に作られるドーパミンと、2階レベルのドーパミンは作り方も結果も違うので我々は常に“二重人格”的な考えを持っている。
というような説明があったが、私にはまだ納得できないところがある。

 まず上記の説明では、目の前のモノを手に入れようとした時のドーパミンと、未来予測によってもたらされるドーパミンの二重人格的な考えを持つとされているが、であるなら、その2者を比較吟味し、どちらかを選択する司令塔のようなものが必要になるはずだ。それと、この2者は必ずしも対立的ではなく、もし2者が足し算的に作用するならそれが最大のドーパミン量をもたらすことになる。遅延価値割引の実験事態で言えば、

●いま目の前のお菓子を食べてしまえばその1個だけだが、食べるのを我慢していれば3個貰える

という設定を変更して、

●いま目の前のお菓子を食べれば、あとで2個のお菓子を食べられる。けれどもいまそれを食べないと、あとから2個を貰うこともできない。

というようにすれば、目の前の1個を食べる時のドーパミンと、未来予測によってもたらされるドーパミンの両方を獲得できるように思えるのだがどうだろうか。

 もう1つ、今回の番組では、我慢することは未来予測のドーパミンによってコントロールされているというように説明されていたが【←あくまで私の理解】、我慢すること自体は必ずしも未来予測や遅延価値割引の原理だけに限られたものではないように思える。
 例えば、犬の前に餌を置いて「待て!」と命令し、「よし!」と合図があった時に食べ始めるようにすることは容易にできる。しかしこの場合の「待つ」という行動は、未来予測やドーパミンとは関係なさそうである。もしその犬が「待て!」という命令を守らずに食べ始めてしまったら、おそらく、ひどく叱られるとか、その餌を取り上げられてしまうであろう。これは、「待て!」という弁別刺激のもとで食べるという行動が、「嫌子出現の随伴性」もしくは「好子出現阻止の随伴性」によって弱化されているからであって、待ったほうがお得になるという未来予測によるものではない。

 昨日取り上げた、子どもの遅延価値割引の実験でも、子どもが「いま目の前のお菓子を食べてしまえばその1個だけだが、食べるのを我慢していれば3個貰える」という言語的教示を正しく理解して未来予測をしたのか、そうではなくて、単に「お姉さんが来るまで待っててね」と誤解して食べなかったのかはもう少し精査する必要があるように思う。3〜5歳児の頃は、家の中でも、待つことや親の言うことを守るように躾けられているし、しばしば行列を守って何かを受け取る場面も体験しており、なんだかよく分からない実験状況でももう少し待っててねと言われればそれに従う可能性はあるだろう。

 何かを待つということ、集団で暮らす動物にとっては大切な行動である。例えば、壺のような容器に餌を入れてサルの群れの中に置いたとすれば、サルたちはボスザルを筆頭に、順位の高いサルからその容器に手を入れて餌をとろうとする。順位の低いサルは、順位の高いサルがその容器から離れるまではずっと待たなければならない。草原で群れをなして狩りをする動物の場合も、獲物にありつける順番が決まっていることがある。こういう状況のもとでは餌を奪い合って闘うよりは、順番を待つほうが余計なエネルギーや争いによる怪我などを避けるという点で効率的である。

 番組の中では、未来予測ができることについて、「保険だとか投資もそういうものですね」(織田氏)、「資本主義はドーパミンそのもの」(いとうせいこう氏)といった発言もあった。確かに宵越しの金は持たぬという人たちばかりの社会では資本主義は育たないかもしれない。但し、これはあくまで長期的な投資に限られたものであろう。株の現物取引の「いま売るか」「もう少し待ってから売るか」という選択場面では、いま売るというのは確実だが比較的小さな利益を確定することであり、「もう少し待ってから売る」というのは値下がりのリスクを加味した上で大きな利益を狙うことであり、これは「確率価値割引」となる【2006年9月16日の日記ほかに関連話題あり。
 今回の番組は遅延価値割引のみの話題であり、確率価値割引については何も言及されていなかった。おそらく、「不確実だがより大きな報酬が得られる」ことのほうが「確実だが小さな報酬が得られる」よりもドーパミン放出は大きいはず。このことは、番組で説明された「狩猟から農業生産」とは逆行し、むしろ、ギャンブル依存の話題に繋がるものと思われる。

 次回に続く。