じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 クサギカメムシ。カメムシの中では大型で、「最も臭気の強い種の一つ」として嫌われているようだが、なかなか美しい形をしている。

2021年9月18日(土)



【連載】新型コロナとABO血液型(2)

 昨日に続いて、9月11日の東洋経済記事、

新型コロナ感染率「血液型で異なる」科学的根拠 なぜ「O型は重症化しづらい」と言われるのか

についての考察。

 昨日も述べたように、藤田先生は、2頁目で、
なぜ、血液型によって違いが見られるのでしょうか。理由については、まだ明らかになっておらず、さらなる調査が待たれるところです。
と述べておられるにもかかわらず、それ以降の部分は、もっぱら持論に基づく「可能性」を展開しておられた。その論点は、私が理解した限りでは
  1. O型は他の血液型より血栓(血の塊)ができにくい。O型の人は「フォン・ヴィレブランド因子」が他の血液型より3割ほど少ないと知られており、血栓ができにくい。
  2. 免疫は、「自分の血液型物質とは反対の抗体」をつくり出す。
    • A型は抗B抗体を持つ
    • B型は抗A抗体を持つ
    • AB型はどちらも持たない
    • O型はどちらも持っている
    よって、抗A抗体も抗B抗体も持つO型は免疫力がもっとも強く、どちらも持たないAB型は免疫力が弱くなりやすい。
という2点にまとめられるように思う。

 このうち1.の「フォン・ヴィレブランド因子」の量と血栓との関係については、別段、ABO血液型の違いに注目しなくても、単に

●「フォン・ヴィレブランド因子」が少ない人は血栓ができにくい。

と記述すれば済むことである。要するに、O型だから血栓ができにくいのではなく、O型者の中で「フォン・ヴィレブランド因子」が少ない人は血栓ができにくいというだけである。A型者やAB型者でも「フォン・ヴィレブランド因子」が少なければ同じように血栓はできにくいし、O型者であっても「フォン・ヴィレブランド因子」が多ければ血栓ができやすいということになる。血液型に基づいて血栓を予測するよりも、「フォン・ヴィレブランド因子」の量を測定した上で対処したほうが、重症化のリスクを回避できる可能性が高い。(でないと、「あなたはO型だから血栓はできにくいので重症化しません。安心してください。」と画一的に判定されてしまい、「フォン・ヴィレブランド因子」の多いO型者のリスクを見逃してしまうという誤診につながる)。

 もう1つの2.の抗体の話だが、抗A抗体が新型コロナとACE2の結合をどうやって邪魔するのか、あるいは抗B抗体にもわずかながら新型コロナとACE2の結合を邪魔する働きがあるのか、が解明されれば、

O型>B型>A型>AB型

という免疫力の差が新型コロナの感染リスクにも当てはまることになる。もっとも、藤田先生御自身も認めておられるように、実際のデータは、「O型は新型コロナに感染せず、A型やAB型は感染する」と言えるほど顕著な差は示していない。また、以前にも述べたが、こちらの資料と上記の「免疫力」の差を対応させると、
  • O型の多いネイティブアメリカン、ヨーロッパ系アメリカンなどはコロナに感染しにくい。
  • B型の多いインド人もその次に感染しにくい。
  • A型の多いアフリカ系アメリカ人、フランス人、ドイツ人、日本人、ロシア人などは相対的に感染しやすい。
と予想されるが、これまでの世界の感染状況をみると、必ずしもそういう傾向は見られず、東アジア人が感染・重症化しにくいという「ファクターX」をも説明できていないように思われる[]。
すでに指摘したように、感染や重症化の比率は、その国・地域の医療体制の違いや、民族的な慣習の違い(ハグをするとか、マスクをするとか)も大きく反映するので、純粋に血液型による違いを分析するためには、同じ人種・民族、同じ国・地域、同じ所得層、同じ年齢層、同じ職種、などのバランスを考慮した上で比較する必要がありそうだ。

 なお、藤田先生が指摘しておられる、抗A抗体と抗B抗体の免疫力の差違は、
微生物はA型のほうがB型より数が多いため、抗A抗体を持たないA型の人はB型よりも感染症に罹患する可能性が高くなります。
ということであり、今回の新型コロナウイルスがA型細菌と同じような性質を持つかどうかは全く分かっていないように思われる。さらに、デルタ株を初めとするいろいろな変異株との関係も未解明と思われる。

 藤田先生のロジックの一番の問題点は、

●X型者にはQという傾向を持つ人が多い。

というデータを、

●あなたはX型者だからQという傾向を持つ

という予測にすり替えてしまう点にあるように思う。この場合、あなたがX型者であるかどうかという情報を得ることは、X型者であるかどうか分からない時点に比べて、「あなたはQという傾向を持つ」という蓋然性をある程度は高めることができる。そういう場合には、血液型は、予測ツールとしてある程度の有用性を持つかもしれないが、「X型の血液はQという傾向をもたらす」という本質的なメカニズムを証拠づけるものとは言えない。また単に蓋然性を高めるというだけにもかかわらず、X型者はすべてQという傾向を持っているというような決めつけ、偏見をもたらす恐れがある。

 なお、藤田先生がかつて『心理学ワールド46号(2009年7月)』に寄稿された巻頭随筆については、この日記ではどうやら一度も言及したことが無かったようなので、次回で、その内容について私なりのコメントをさせていただくことにしたい。

 次回に続く。