じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 7月31日の18時40分頃、西の空にたくさんの飛行機雲が見えた。岡山上空は、九州方面に向かう航空機の通過地点となっているため、飛行機雲自体はよく見られるが、コロナ禍で便数が削減されているなかで、この時間帯に何本も見られるのは珍しいことだ。

2021年8月1日(日)



【連載】ヒューマニエンス「“腸内細菌” 見えない支配者たち」 その4 腸内細菌がヒトの免疫をあやつる?

 昨日に続いて、NHK-BSPで放送された、

ヒューマニエンス 「“腸内細菌” 見えない支配者たち」【初回放送2021年7月15日】

についての備忘録と感想。

 番組では続いて、「腸内細菌がヒトの免疫をあやつる?」という話題が取り上げられた。

 後藤義幸先生(千葉大学)によれば、腸内細菌は免疫細胞を誘導することが明らかになっているという。病原性大腸菌が侵入した場合、その大腸菌は腸の表面に入り込んで毒素を出して炎症を起こす。これに対して腸は下痢という反応で腸の内容物を排出しようとするが、この仕組では下痢の時に腸内細菌も追い出されてしまうが、実際には、セグメント細菌と呼ばれる腸内細菌が腸の上皮細胞に定着して宿主の免疫を誘導しているという。
  1. セグメント細菌からの刺激を受け取った免疫細胞は活性化し増殖し、サイトカインを生産する。
  2. サイトカインを受け取った上皮細胞は抗菌物質をさかんに生産するが、この抗菌物質はもともと定住している腸内細菌には反応せず、病原菌大腸菌などの新参者だけを攻撃する。
  3. 腸内細菌に鍛えられた免疫細胞はその後血液に乗って全身を回り、結果的にウイルスや病原菌から体を守る。
  4. 腸内細菌は、侵入者を攻撃するだけでなく、免疫細胞の暴走を抑える働きもしている。


 ゲストの内藤先生によれば、免疫というのは攻撃と抑制のバランスが重要であり、バランスが崩れると攻撃側が暴走して自己免疫疾患や関節炎を起こす。腸内細菌の働きが分かってきたのはここ10年以内のことであり、慶應義塾大のグループがヒトの便を持ったマウスを作る研究をしていたところ、その実験に使われた日本人の便の中に炎症を抑制する腸内細菌が見つかったことがきっかけであった。
 新型コロナの重症化は免疫系の暴走によって引き起こされることがあるが、ここにも腸内細菌がどれだけ働くかが関係しているらしい。
 ちなみに、この日記の執筆時点の最新情報によれば、7月31日の新型コロナ新規感染確認者数は、東京都が4058人、神奈川県が1580人、大阪府が1040人、埼玉県が1036人、全国で1万2341人というように爆発的な増加を示しているが、それでもなお、死者数は全国で9人にとどまっており、G7では最少レベルにあるという。ワクチン接種の効果もあるが、日本人が重症化しにくいと言われている背景には、上記の「炎症を抑制する腸内細菌」の働きがあるのかもしれない。【もっとも、これだけ感染確認者が増えているのを見ると、「日本人はコロナに感染しにくい」という「ファクターX」は、どうやらデルタ株には当てはまらないようである。】

 番組の終わりのところでは、腸内細菌保有状況をカルテに記録することの有用性(元村有希子さん)、大腸がんを引き起こす腸内細菌について研究が盛んに行われていること(内藤先生)、抗生物質で悪玉菌を殺すというやり方では限界があり菌の潜在力を健康や暮らしや環境のために前向きに考える時代になってきた(元村さん)、といった展望が語られた。

 ここからは私の感想になるが、チコちゃんに叱られる!(2020年4月11日放送でも取り上げられたように、草食動物の多くは胃腸内の微生物を利用して、大量の草をアミノ酸に変えて摂取しているという【なので、ウシは草食ではなく、微生物を食べる肉食動物という可能性がある】。人間の場合も消化吸収から免疫系のコントロールに至るまで腸内細菌のお世話になっており、安易に抗生物質に頼らない重要性がよく理解できた。

 なお今回話題となった病原菌だが、ウィキペディアなどでは、病気を引き起こす細菌のほか、原生動物やウイルスを含み、「病原体」という呼称で扱われていることが分かった。ウィキペディアの定義は以下の通り。
病原体(びょうげんたい、英: pathogen)とは、生体(生物)に寄生して病気を起こさせる原生動物・細菌・ウイルスなどの生物。寄生する生物類のなかでも特に病原性を持つもの。
しかし、
病原体という概念を理解し何が病原体で何は病原体でないかを判別するには、寄生という現象と、病原性という複雑な概念を理解する必要がある。寄生は、一方の生物(この場合は微生物)が、他方の生物の身体のしくみなどを利用して生活するという関係になる現象である。このような寄生現象を宿主側(寄生される側)から見ると、身体に入りこんでくる寄生生物の多くはいわゆる「有害生物」であり病原性をもつ微生物である場合が多く、その場合に「病原体」と呼ばれている。ところが、寄生生物が病原性を持たない場合もあり、その場合はその寄生生物は「病原体」ではなく、つまり、ある寄生生物が「病原体」なのかそうでないかは、それが病原性を持つかどうかの判定に依っている[2]。 病原性とは病気をおこさせる能力を意味するが、この語には複雑な内容が含まれており、ある微生物が病原性を持つか持たないかの判定は必ずしも容易なものではない。
というように、判定はなかなか難しいようだ。これはおそらく、風邪をひいた時の炎症についても言える。咳、鼻水、発熱といった炎症は病気の現れと見なされるが、見方によっては、適切な防御反応とも言える。精神疾患でさえ、患者さんの適応的な反応の現れであるという見方がある。

 それはそれとして、私がよく分からないのは、細菌とウイルスで免疫系の働きがどう異なるのかという点である。新型コロナの影響で、ウイルスに対する免疫のしくみについてはずいぶんと学ばせてもらったが【こちらの連載参照】、細菌の場合はどうなっているのだろうか。
 あと、今回の番組で腸内「細菌」のことはある程度理解できたが、腸内ウイルスについては全く言及されなかった。ネットで検索すると、腸の中には細菌にとりつく「バクテリオファージ」と呼ばれるウイルスも多いが、詳細はよく分かっていないらしい。

 次回に続く。