じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 昨日の日記で、日本の南海上の熱帯低気圧と秋雨前線による大雨の心配について書いたが、9月12日朝6時時点では、長崎県野母崎で1時間あたり101ミリの降水量を記録するなど、九州や山口県で大雨被害の心配が出てきた。  台風は雨雲の規模ではなく中心気圧の風の強さで定義されている。秋雨前線を刺激して大雨をもたらす恐れのある熱帯低気圧が接近していても、今後24時間以内に18メートル以上の風が吹かないと予想されていれば進路予想は出されないことになっているようだ。とはいえ大雨の被害に注意を払う必要がありそう。

2020年9月11日(金)



【連載】「刺激、操作、機能、条件、要因、文脈」をどう区別するか?(2)手続段階と理論段階での用語体系の違い

 昨日の日記で、「ハトが10回キーをつつくたびに、強化刺激として餌箱を5秒間提示した」とか、「イヌに、条件刺激としてブザー、無条件刺激として餌を対提示した」といった表現は正確ではないと述べた。要するに、実験的分析を始める時点では、「餌箱提示」、「ブザー」、「餌」がそれぞれ、強化刺激、条件刺激、無条件刺激として機能しているのかどうかはまだ分からない。実際にやってみてから初めてそれらの機能が確認できるのだから、そういう表現は、実験論文の手続のところではなく、結果や考察のところで事後的に記すべきであるという指摘であった。

 では、強化刺激とか条件刺激という表現は間違っているのか? と思われそうだが、もしそうだとしたら、行動分析学の大多数の教科書はみな間違っているということになってしまう。このことは、実験論文における「手続体系」と、それらを帰納的(←「機能的」ではない、念のため)に集約し一般化した「理論体系」では、異なる用語体系にならざるを得ないということを意味している。

 実験論文における「手続体系」というのは、基本的には、再現可能な操作の体系である。それゆえ提示する事物(事象)の物理的特徴をできる限り正確に記述する必要がある。

 しかし、ひと組の実験操作とそれによって生じた結果を記述するだけでは、一般化、法則化することはできない。実験的分析は、単に「こういうことをしたらこうなった」という報告で終わるのではなく、そこから「こういう法則が導ける」、「この法則はこういう条件のもとて適用可能である」といった一般化を念頭において考察されなければならない。なお、操作主義の問題については、はるか昔、矢田部達郎先生の『操作主義批判』という論文(←戦時中に米国の論文を引用しているところがスゴい)ですでに指摘されている。

 ここで、実験的行動分析の知見を帰納的に集約した法則体系のことを「行動理論」と呼ぶことにしよう(←佐藤方哉先生の『行動理論への招待』に由来する)。行動理論の専門書には、強化刺激【あるいは強化子(好子)】とか、条件刺激、無条件刺激という用語が登場するが、これらは決して、固有の刺激そのものをさす言葉ではない。

●あるオペラント行動(反応)の直後に「ある事象」が出現したら、そののち行動の自発頻度が増加した。このとき、この文脈において、「ある事象」は強化機能を有すると見なされる。またその事象のことを強化刺激【あるいは強化子(好子)】と呼ぶ。

というように定義しておく。そうすると、いろいろな事例において、強化に関する共通の特徴が帰納的に集約されてくる。そういう理論化された段階での、一般概念として強化刺激【あるいは強化子(好子)】という言葉が使われているのである【例えば、強化スケジュールの研究で言及されている「強化刺激」】。

 強化に関する法則が体系化されることで応用行動分析にも道が開かれる。例えば、
  • ある問題行動が多発しているのは、その行動が何らかの事象によって強化されているからではないか?
  • ある習慣がうまく継続しないのは、その行動が適切に強化されていないからではないか?
といった問題設定ができる。その上で、該当する強化刺激【あるいは強化子(好子)】が見出せれば、強化理論を活用して、応用の幅を広げることができる。  強化以外の領域でも、同様に、手続段階での用語体系と理論段階での用語体系の違いには注意を払う必要がある。
  • 手続段階:再現可能性を前提とした操作的定義
  • 理論段階:帰納的に集約された概念(←構成概念ではない。念のため)

不定期ながら、次回に続く。