じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 台風10号が去ってホッとしたのも束の間、今度は日本の南海上から熱帯低気圧が接近している。勢力は弱く、進路予想も出されていないが、台風10号の時と異なって今回は日本列島に秋雨前線がかかっており、前線が刺激されて大雨になる恐れもあり注意が必要。

2020年9月10日(木)



【連載】「刺激、操作、機能、条件、要因、文脈」をどう区別するか?(1)刺激の定義

 2週間前のことになるが、今年の日本行動分析学会の年次大会がオンラインで開催された【2020年8月28日(金)〜8月30日(日)、大会準備委員会:愛知大学心理学研究室内】。

 私自身は、定年退職と同時に、この行動分析学会を含めて、すべての学会を退会しており、いまや隠居の身であるが、SNSを通じて、学会開催中の様子や感想などの一部を伝え聞くことができた。

 あくまでその範囲であるが、年次大会では、どうやら、刺激、操作、機能といった概念をめぐって興味深い議論が行われたようである。これを機会に、隠居人なりに私の考えを述べてみたいと思う。

 まず、中心概念の1つである「刺激」であるが、これについては私のかつての講義録の中の、

1.6. 刺激を暫定的にどう定義するか

で詳しく論じたことがある。そのポイントは、
  1. 刺激は、それを提示する側から操作的に定義される。
  2. 実験者が自分で勝手に決めた基準で刺激を分類して提示しても、提示された側は必ずしもその分類をそっくり受け止めてはいないという可能性。
 このうち1.は、分析の再現性を担保するという点で極めて重要である。「刺激Aを提示した」という時の「刺激A」の定義が人によって食い違っていたのでは、追試も反証もできないので科学として議論が成り立たなくなる。
 しかし、同じ刺激提示操作を行ったとしても、提示された側がその刺激をそっくりそのまま受け止めるかどうかは定かではない。1.6. 刺激を暫定的にどう定義するかの所にも例示したが、ネズミが「一」と「十」を区別できたとしても、それらの刺激のどの部分が手がかりになっていたのかは、分からない。同様に、ネズミに、「▲」と「▼」が区別できたとしても、その結果だけから「ネズミは三角形の向きを弁別できた」とは結論できない。もしかするとネズミは、図形の底辺部分だけを見ていて、その黒白の比率を弁別していただけなのかもしれない(「▲」のほうが「▼」より底辺部分は黒っぽい)。

 ということで、刺激を操作的に定義することでとりあえず再現性は保証されるが、

●刺激のどういう特徴が手がかりになっていたのか?

あるいは後述する「機能」という言葉を使った場合、

●その刺激がどう機能していたのか?

ということは後になってから分かることである。なので、分析開始時点での刺激の定義はあくまで暫定的なものと位置づけなければならない。

 そもそも、我々をとりまく環境というのは連続的なものであって、一義的に定まる刺激単位というのが存在しているわけではない。我々が刺激を定義するのは、環境の一部を操作可能な範囲で(あるいは、観察可能な範囲で)恣意的に切り取って、それを提示したり除去したり(あるいはそれが出現している状況とそうでない状況を比較したり)して、分析や応用に役立てることが有用であるからそうしているにすぎない。なお、いま「恣意的に切り取って」と述べたが、何でもかんでも好き勝手に分割したり結合できるというわけではない。目的に照らした上で、有用な切取り方と、役に立たない切取り方というのがある。
 例えば、「日」や「本」は、漢字の書き取りの文脈ではそれぞれ1文字の刺激として学習される。いっぽう熟語学習の文脈では「日本」とか「本日」というように2文字を1つの刺激として学習される。英語の場合も同様で「s」や「t」はアルファベットの1文字の刺激にもなるし、「stimulus」という1つの単語刺激として提示される場合もある。

 しばしば指摘されていることだが、この世界には、「強化刺激」とか「弁別刺激」といった固有かつ絶対的な刺激は存在しない。(環境から恣意的に切り取られた)刺激は、ある文脈では強化刺激にもなるし弁別刺激にもなる。なので、厳密に言えば、
  • 強化刺激→ある文脈において、ある刺激が強化機能を持っていること
  • 弁別刺激→ある文脈において、ある刺激が弁別機能を持っていること
としなければならない。また、
  • ×「ハトが10回キーをつつくたびに、強化刺激として餌箱を5秒間提示した」
    →○「ハトが10回キーをつつくたびに、餌箱を5秒間提示した。なおこの実験文脈では、餌箱の提示は強化刺激として機能した」
  • ×「イヌに、条件刺激としてブザー、無条件刺激として餌を対提示した」
    →○「イヌに、ブザーと餌を対提示した。この実験文脈においては、餌は、ヨダレを流す反応を誘発する無条件刺激として機能した。なおブザーは、対提示の結果として、ヨダレを誘発する条件刺激として機能した」
とするべきであろう。

不定期ながら、次回に続く。