じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 半田山植物園で見かけた、下半身だけの怪人。正体は未消化の藻を含んだ糞か嘔吐物のように見えた。なぜ直立しているのかは不明。

2019年12月08日(日)



【連載】関係反応と #関係フレーム をどう説明するか(44)専門書、入門書で取り上げられている事例(1)

 昨日も述べたように、「相互的内包」と「複合的相互的内包を分かりやすく説明する例としては、
  1. ある事物に名前をつける事例
  2. あるグループの成員の1つを、別のグループの成員に対応づける事例
  3. ある事象と別の事象を比較する。特に、恣意的に確立された大きさや長さというように、一次元上の配列できる事象(順序尺度的な構造)を相互比較するような事例
などが考えられるが、いずれも一長一短がある。

 非恣意的な関係反応を含めて、実際にどのような例が挙げられているのか、代表的な専門書・入門書に目を通してみよう。

 まずRFTのパープルブック(Hayes, Barnes-Holmes, & Roche, 2001)では、まず18ページのところで、シドマンの刺激等価性研究から紹介されていた。
Sidman’s 1971 study involved a learning disabled subject who had learned to match spoken words to pictures and spoken words to printed words, and then spontaneously matched printed words to pictures and spoken words to printed words, without specific experimental training. Such “untrained” relations are generally termed derived stimulus relations, as opposed to those that have been explicitly trained.
これは上記の1.と2.に該当するもので、「絵→しゃべり言葉」、「しゃべり言葉→書かれた言葉」という対応づけを学習した子どもが、特別の追加訓練をしなくても「絵→書かれた言葉」や「しゃべり言葉→絵」という対応づけが派生されることを示したものであった。なお、上記で1.と2.を敢えて区別したのは、ガバガイ問題への対応を想定したためである。

 関係反応についての本格的な紹介は次の2章からであった(24ページから)。まず挙げられているのは、2本の線分のうちの、相対的により高い(=長い)ほうを選ぶというアカゲザルの実験であった(Harmon, Strong, and Pasnak, 1982)。アカゲザルは、特定の長さの線分に反応しているのではなく、他の線分との相対的関係に基づいて反応することができる。このような現象は移調(transposition)と呼ばれており、人間のほか、さまざまな哺乳類、鳥類、魚類で確認されている、と紹介されていた。

 パープルブックの29ページからは相互的内包(mutual entailment)の紹介がある。ここでは、
  • 子どもの前でボールを取り上げて、「これはボールだよ」と言う。
  • のちに、「ボールはどこ?」、「ボールは?」という声を聞いた時に、その子どもはボールのほうに目を向けたり、ボールを探そうとしたりする。
というように、上記1.や2.に該当する事例が挙げられていた。

 ここからは私見になるが、相互的内包の事例として3.の比較反応の事例を挙げるのはなかなか難しい。というのは、例えば大きさの比較の場合、「A>B」から派生されるのは「B>A」ではなく「A<B」という非対称の関係反応になるからである。訓練時に「より大きい」という関係反応が何回強化されても「より小さい」という言葉は出てこない。どこかで「より小さい」の学習をしておかなければ派生のしようが無いという見方が出てくる。あるいは見方を変えると、「より大きい」という訓練をするには、「より大きい」に相当する反応をした時には強化、間違えた時には無強化(もしくは弱化)というように異なる結果を与える必要があるが、間違えた時に結果を与えること自体が「より小さい」という反応の訓練になっていると考えれば、「A<B」という反応は「A>B」の派生ではなくて、「A>B」の訓練の中にすでに含まれていた(同時に訓練されていた)結果として生じていると考えられる可能性がある。

 次回に続く。