じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 岡大構内のアオギリの花。この季節を代表する花。なお、7月5日の朝、クマゼミの初鳴きを確認した。


2019年7月05日(金)



【連載】

行動分析学用語(第3期分)についての隠居人的独り言(6)「強化子」と「弱化子」(4)

 行動分析学用語(第3期分)の話題から少々脱線するが、昨日に続いて、強化子(好子)、弱化子(嫌子)について、これを機会に私なりの考えを述べておきたいと思う。

 今回のリストでは、「negative punisher除去型弱化子」、「negative reinforcer除去型強化子」、「positive punisher提示型弱化子」、「positive reinforcer提示型強化子」という4つの用語が挙げられているが、すでに指摘してきたように、この世界にはそのような4つの刺激事象が独立して存在しているわけではない。ある文脈において、ある刺激事象が、強化機能を持つか、もしくは弱化機能を持つかということを分類したに過ぎず、「提示型(出現型)」とか「除去型(消失型)」という形容詞は、刺激事象自体の性質ではなく、刺激事象が個体にどう関わるのかということについての文脈の特徴を言い表したものにすぎない点に留意する必要がある。

 それにしても、上記の呼称はわかりにくい。例えば「negative punisher除去型弱化子」というと、「negative」とか「punisher」という語感から、なんだかとっても恐ろしい虐待の道具があるように思えてしまうが、実際は、子どもからお菓子やオモチャを取り上げてしまうような弱化の一手段を意味している。つまり、この文脈において、お菓子やオモチャを除去する(消失させる)ことは弱化の機能を有するということであり、言い換えれば、お菓子やオモチャは「negative punisher除去型弱化子」として機能しているということである。

 ここでまた脱線するが、行動分析学の入門書には次の4つのタイプの基本随伴性が解説されている。
  1. 強化子(好子)出現の随伴性による強化
  2. 弱化子(嫌子)出現の随伴性による弱化
  3. 強化子(好子)消失の随伴性による弱化
  4. 弱化子(嫌子)消失の随伴性による強化
しかし、強化子(好子)や弱化子(嫌子)を「定義する」というのであれば、上記の1.と2.だけ、もしくは、上記の1.と4.だけで充分のはずである。

 例えば1.と2.による定義は、7月3日に記した通りであり、
  • ある文脈において、オペラント行動の直後に何らかの刺激事象が出現することがその行動の増加をもたらした場合、その行動変容は「強化」と呼ばれ、その刺激事象は「強化機能」を有すると見なされる。その場合、その刺激事象は、同一または類似の文脈において「強化子(好子)」と呼ばれる。
  • ある文脈において、オペラント行動の直後に何らかの刺激事象が出現することがその行動の減少をもたらした場合、その行動変容は「弱化」と呼ばれ、その刺激事象は「弱化機能」を有すると見なされる。その場合、その刺激事象は、同一または類似の文脈において「弱化子(嫌子)」と呼ばれる。
となるし、1.と4.で定義するのであれば、下線部のように書き換えて、
  • ある文脈において、オペラント行動の直後に何らかの刺激事象が出現することがその行動の増加をもたらした場合、その行動変容は「強化」と呼ばれ、その刺激事象の出現は「強化機能」を有すると見なされる。その場合、その刺激事象は、同一または類似の文脈において「強化子(好子)」と呼ばれる。
  • ある文脈において、オペラント行動の直後に何らかの刺激事象が消失することがその行動の増加をもたらした場合、その行動変容は「強化」と呼ばれ、その刺激事象の消失は「強化機能」を有すると見なされる。その場合、その刺激事象は、同一または類似の文脈において「弱化子(嫌子)」と呼ばれる。
とすることもできる。但しこの後者の場合、「弱化」自体は別に定義しなければならないので、但し書きを付けるぶん煩雑になる。

 いずれにせよ、4つの基本随伴性というのは、そのうちの2つが定義、残り2つは経験法則(公理から演繹されたのではなく、実際の実験・観察を通して得られた知識)と言うことができる。ということで、もう一度整理してみると、
  1. 【定義】ある文脈において、オペラント行動の直後に何らかの刺激事象が出現することがその行動の増加をもたらした場合、その行動変容は「強化」と呼ばれ、その刺激事象は「強化機能」を有すると見なされる。その場合、その刺激事象は、同一または類似の文脈において「強化子(好子)」と呼ばれる。
  2. 【定義】ある文脈において、オペラント行動の直後に何らかの刺激事象が出現することがその行動の減少をもたらした場合、その行動変容は「弱化」と呼ばれ、その刺激事象は「弱化機能」を有すると見なされる。その場合、その刺激事象は、同一または類似の文脈において「弱化子(嫌子)」と呼ばれる。
  3. 【経験法則】同様の文脈において、オペラント行動の直後に上記1.で定義された強化子(好子)が消失した場合、その行動は弱化されることが経験的に知られている。
  4. 【経験法則】同様の文脈において、オペラント行動の直後に上記2.で定義された弱化子(嫌子)が消失した場合、その行動は強化されることが経験的に知られている。

 上記の2つの定義部分と経験法則部分は恣意的に入れ替えることができる。けっきょくのところ、4つの基本随伴性は、
「行動が有利(有益)な結果を招いた時にはその行動を増やし、行動が不利な結果(有害な結果)を招いた時にはその行動を減らす」という行動変容は適応的である。
という適応の原理に整合する。上記の【経験法則】部分に従おうと従うまいと、そのこと自体は動物の勝手ではあるが、結果的に従ったほうが適応的であり、地球上で生き残るチャンスを増やしてきたという意味である。

 次回に続く。