じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 6月18日夕刻、6月の満月、ストロベリー・ムーンを眺めることができた岡山であったが、翌19日は南東の空に薄雲がかかり、月の出は確認できたものの、皆既月食の最中の赤黒い月のようにボンヤリとしか見えなかった。


2019年6月18日(火)



【連載】

又吉直樹のヘウレーカ!「“かわいい”ってどういうこと?」 (5)系統発生的にみた「かわいい」

 昨日に続いて、又吉直樹のヘウレーカ!の「“かわいい”ってどういうこと?」 に関する話題。

 昨日までのところで、「かわいい」とされている刺激事象の強化機能や反応誘発機能を「かっこいい」、「美しい」、「性的刺激」と比較しながら考察した。この部分で留意していただきたいのは、「かわいい」というのは、不確定のひとまとまりの事象に対して仮に名づけられたものであり、研究のテーマのようなものだという点である。当初から「かわいい」に相当する刺激事象もしくは反応クラスのようなものが存在していることは前提としていない。これは科学的な「UFOの研究」と同じようなアプローチである。UFOを研究するといっても別段、円盤形の物体や宇宙人の存在を前提としているわけではない。あくまで、未確認の飛行物体についてその正体を確認していこうというアプローチに過ぎない。UFOの研究が進めば、最終的には、「空飛ぶ円盤」も「高速で動き回る交点」もすべて、既知の物理現象の一環として説明されるかもしれない。要するに「UFO」というのは、研究対象を大ざっぱな形で絞り込む上での研究のテーマのようなものである。「かわいい」研究も同様であり、研究が進めば、刺激事象や反応クラスは別の呼称で再構成される可能性がある。

 「かわいい」とされる刺激事象を強化機能や反応誘発機能の観点から研究する際には、言葉を使う質問紙調査や評定は不要である。それゆえ、言葉が理解できない動物たちを対象とし、進化生物学的な分析を行うことも可能である。

 そう言えば、今回の番組でもコンラート・ローレンツの「ベビースキーマ」が紹介されていた。【詳しくはこちらの論文参照】。番組では、「かわいい」と「幼さ」が同一ではないという方向で説明が行われていたが、いずれにせよ、哺乳類や鳥類では自分の子どもをかわいがる行動は広く知られており、系統発生的観点から分析することは大いに意義深いと思われる。このことはまた、昨今報道されている乳幼児への虐待を防止する研究にも繋がるはずだ。

 なお、今回は「かっこいい」、「美しい」、「性的刺激」と比較したが、これ以外にも、「面白い」、「おかしい」、「優しい」というように、様々な刺激対象、もしくは反応クラスがあり、同じようなアプローチが可能である。もっとも、「かっこいい」、「美しい」、「性的刺激」は静止画像として操作可能であるが、「面白い」、「おかしい」、「優しい」の場合は、特定の文脈の中の一連の動作として特徴づけられる面があり、実験操作や一般化はより複雑になる可能性がある。

 次回に続く。