じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 農学部農場の田んぼに映った建物が異次元世界が出現しているように見える「水田のパラレルワールド」現象が今年も始まった。右の写真(2009年6月6日撮影)のように、水面が滑らかで、朝日があたった直後が最も顕著に見えるのだが、最近は早朝の散歩を午後の散歩に切り替えたため、眺めることができない。


2019年6月09日(日)



【連載】

引きこもりと孤独力(1)調査結果の信頼性

 5月28日に川崎市多摩区登戸で起こった通り魔殺傷事件の犯人(51歳)が長期ひきこもり状態であったことから、その後、マスコミで中高年の引きこもり問題が大きく取り上げられるようになった。「引きこもり」は犯行の原因ではなく、1つもしくは複数の原因が別にあって、それらが「引きこもり」や殺傷事件という「結果」を引き起こしたと考えるべきであろうとは思うが、事件自体については専門家による検証を待たない限りは何とも言えない。

 しかし、事件は別の問題であるとしても、国内の中高年(40〜64歳)引きこもり者が61万3000人にも達しているというのは驚きである。ちなみにこのデータは2019年3月29日に内閣府発表として殺傷事件の2カ月前に報道されたものであったが、少なくとも私の目にとまることはなかった。

 引きこもり61万3000人というのは、日本の都市別人口で言えば、鹿児島市(59万9814人)、八王子市(57万7513人)を超える人数である。こうした中核市の住人が全員家の中に閉じこもってしまったら大変な事態になるはず。全国に散らばっており、また引きこもりという性質上、世間の目に触れにくい現象であるため、世間の関心事にはなりにくいのかもしれない。

 しかし、もとの調査結果に目を通してみると、ちょっと待てよ、というところがいくつかあった。まずはサンプル調査であったという点。リンク先によれば、この調査は、「2018年12月、全国で無作為抽出した40〜64歳の男女5千人に訪問で実施。3248人から回答を得た。人口データを掛け合わせて全体の人数を推計した。」とされており、全数調査ではない。5000人中1752人を占めた未回答者がどういう状況にあったのか(引きこもりであることを知られたくないという人が多ければ、全体の引きこもり比率は変わる)、また、厳正に無作為抽出法したとしても、引きこもり該当者は回答者3248人の1.45%、つまり47人に過ぎない。このような少数のサンプルから、全国の引きこもり人数や、引きこもりになったきっかけを推定するというのは早計ではないかという気がしないでもない。

 リンク先によれば、「Q19 ふだんどのくらい外出しますか。」の問いに対して、「5.趣味の用事のときだけ外出する」、「6.近所のコンビニなどには出かける」、「7.自室からは出るが、家からは出ない」、「8.自室からほとんど出ない」という選択肢が用意されており、
  • 6、7又は8に該当する者を「狭義のひきこもり」
  • 5に該当する者を「準ひきこもり」
  • 「狭義のひきこもり」と「準ひきこもり」の合計を「広義のひきこもり」とする。
と分類されていた。

 ざっと目を通しただけなので、病気で寝たきりの人をどう区別しているのかははっきりとは分からない。また、「広義のひきこもりの出現率の標本誤差は±0.58%(信頼度95%)であった。」と記されているが、うーむ、いくら厳密なサンプル調査であったとしても、「自室からほとんど出ない」と回答したわずか2人という人数から日本国全体の中高年引きこもり数を推定できるとは考えにくい。さらに、広義のひきこもり群に該当する者で、「現在の状態になったきっかけは何ですか。」というQ23の質問に対して統合失調症と回答した者はいなかった、と記されているが、回答者がたまたまゼロであったというだけで、統合失調症がきっかけで引きこもりになった日本国民は一人もいない、と推計してしまう恐れは無いのか、もよく分からない。

 私の理解する限りでは、上掲の内閣府調査は、中高年層を対象にした初めての公的調査であったため、事件後、テレビや新聞で大きく取り上げられていたが、サンプル調査の推計値が一人歩きしてしまい、評論家諸氏がそれを鵜呑みにした上で主張を展開しているようにも思える。そもそも、質問紙調査の意味内容だけで引きこもりの実態が分類できるとは思えないし、また、本人が考えている「引きこもりのきっかけ」や原因が真の原因と言えるのか、それとも本人の思いこみによるだけなのかもはっきり分からない。

 次回に続く。