じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 きょうの岡山は朝の4時台から8時台にかけて雪が降り、最大で3cmほどの積雪となった。岡大構内では、楽天版(翌日も掲載予定)に掲載したような光景のほか、いくつかの場所で雪だるまが出現した。なお、5年前の大雪の時の雪景色と雪だるまの写真がこちらにあり。


2019年2月12日(火)



【連載】

「ボルトとダシャ マンホールチルドレン20年の軌跡」(2)いくつかの疑問/何が問題なのか

 昨日に続いて、2月9日にNHKで放送された、

BS1スペシャル「ボルトとダシャ マンホールチルドレン20年の軌跡」

の感想。

 昨日も述べたように、このドキュメンタリーは、1998年、2004年、2008年、そして今回の2018年というように、私の知る限りでは、20年間に4回の放送が行われている。

 BS20周年ベストセレクションとして放送された1998年と2004年の再放送企画の途中で、高橋太郎ディレクターが語っておられたが、この番組はもともと1990年にモンゴルで資本主義経済が導入された後、新しい実業家たちを取材に行ったのがきっかけであったという。取材は夏に行われたが、その際に、貧富の差の拡大によりストリートチルドレンの存在も明らかになった。そのストリートチルドレンは、極寒の冬にどこで過ごしているのかということからマンホールチルドレンの取材が始まった。
 1998年当時では、ボルト、ダシャ、オユナの他にも何人かの子どもたちや一家でマンホール暮らしをしている人たちなども取り上げられており、貧困がもたらした歪みがテーマであった。しかし、2004年、2008年というように、結果的に20年間にわたって特定の個人を取材対象とするようになり、貧困問題告発というより個人や家族の生きざまを長期間にわたって追うというようにテーマが変わってきたように思われた。映画の世界では、1969年に誕生した諏訪満男が、回を重ねるごとに成長し、最終作のあたりでは、就職して恋をするようになるまでが結果として描かれた「男はつらいよ」があるが、有名人ではない普通の人をこれほど長期間にわたって取材したドキュメンタリー番組というのはあまり見当たらないように思われる。

 昨日も述べたように、この番組では、取材スタッフが関与したと思われる不自然な展開がいくつかある。また、今回の番組を視ても、オユナが最初の結婚の時に生まれた子と引き離されたあと、どういう経緯でボルトと結婚したのか、ボルトとの間に生まれたナッサンを叔母の家に残してなぜウランバートルに戻ってきて孤独死したのかという点はよく分からないままであった。またダシャがどういう経緯で別の女性と結婚して4人の子どもをもうけたのかも分からない。ま、現実に生きている人たちなので個人情報の障壁があることは確かだが、何か別のドラマが潜んでいるような気がした。

 さて、このドキュメンタリーは、1998年の第一回放送以降、「マンホール」という衝撃的な言葉に引きずられて、貧困問題が原因であるように考えられてきたふしがあるが、本質的な原因は別のところあるのではないかという気もする。

 まず、1998年放送の冒頭では、マンホールチルドレンたちがゴミあさりをしながら食料や金目のものを調達している映像が出てきたが、後半のほうでも紹介されていたように、不完全ながらもそういう子どもたちが入居できる施設も作られていた。また、マンホールで暮らしているわりには真新しい服を着ている子どもが多いように見えたが、これも、慈善団体から定期的に提供されているように見えた。

 にもかかわらず、なぜ一部の子どもたちはマンホール暮らしを余儀なくされたのかという疑問が出てくる。番組内容から推測される原因としては、
  1. 親の離婚と再婚。
  2. 親の再婚後、義父から受ける家庭内暴力。
  3. 多産による貧困。
  4. アルコール依存(←番組では取り上げられていなかったが、喫煙シーンから推測するとニコチン依存も相当ひどいようだ)
などが考えられる。もちろん、貧困層における長時間の重労働、一家の大黒柱が病気になったり怪我をした時の社会保障の不備などの問題がその背景にあることは確かではある。

 2009年5月26日の日記にも書いたことがあるが、モンゴルの離婚率は統計上は日本より遙かに低いという。もっとも、ネットで調べてみると、離婚に関する家庭裁判所での審理件数は、2004年の約3000件から2008年の約3600件に増えているというデータもあるし、そもそも、法律上の手続にのっとって結婚や離婚をしているのかどうかもよく分からない。

 離婚の多い原因としては、モンゴル人の気質として、夫婦間の問題がいったんこじれると妻も夫もなかなか妥協しないという説もあるようだがよく分からない。モンゴル出身力士どうしで起こった暴力問題などからの類推で家庭内暴力も日本よりひどいのかと思ってしまうが、これまたモンゴル人への偏見を助長する恐れがあり慎重に判断すべきであろう。

 これはあくまで私の想像だが、モンゴルの人たちはもともと遊牧の際の移動に適したゲルに住んでいたことから、都会に出てからも小さな家やゲルの中で家族全員が一緒に寝起きすることが多いようだ。大草原の中のゲルならともかく、都会の衛生状態が悪く密集した貧困地区での生活は相当のストレスになるのではないかという考えも出てくる。

 多産による貧困は乳幼児死亡率の高さとも関係している。同じ現象はチベットでも起こっているはずだが、チベットでは自分の家で養えない子どもをお寺に預けたり、巡礼者を手厚く支援する習慣があり、少なくともマンホールチルドレンは存在しないようである。モンゴルもかつてはチベット仏教が盛んであったが、社会主義時代に弾圧され、多くの僧侶が殺されたという話も聞く。今回の番組ではボルトのアルコール依存の克服を支援した団体や、親が子育てを放棄した乳幼児を保護する施設などが紹介されていたがいずれもキリスト教系の団体であったように見えた。チベット仏教というのは、いっけん非生産的のように見えるが、こうして考えると、貧困者への支援、人口調節(男の子が僧侶になることで独身者が増える)、寄進といった形で、ローカルな自給自足システムをうまく構築してきたところがあるとも言えよう。

 元の話に戻るが、ボルトやダシャは、少なくともこの番組を視聴した日本人にとっては、大相撲力士に次ぐ有名なモンゴル人となったといっても過言ではあるまい。しかし2人とも日々過酷な労働に追われており、病気や怪我に見舞われるとたちまち今の生活が困窮するというリスクを背負っているようにも見えた。また、このお二人以外にも同様の境遇にある人たちは何万人にものぼっているはずであり、今後の末永い幸福と発展を願わずにはいられない。