じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 朝日を浴びて輝く岡大・時計台。朝日はガラス窓から直接反射するほか、いったん反射した光が別のガラス面に当たって再反射することにより、いろいろな方向から輝いているように見える。

2019年1月31日(木)



【連載】

関係反応と関係フレームをどう説明するか(30)「関係フレーム」とは何か?(18) いろいろな関係フレーム(13)Distinction(2)

 昨日も述べたように、「distinction」には、特定の文脈のもとで、ある基準を満たさないものを積極的に除外する行動が含まれている。

 例えば、工場から出荷する前に製品を検査し、不良品を廃棄するとしよう。こうした作業を行うことは企業の信頼性を高め、クレームを起こしにくくするという点でメリットがある(強化される)と言える。この場合、どういう理由で不良品に分類されたのかは考慮されない。これは、パープルブックで、
...but unlike opposition, the nature of an appropriate response is typically not specified. If I am told only “this is not warm water,” I do not know if the water is ice cold or boiling. 【「これは温水ではない」と言われたとしても、その水が氷温なのか沸騰しているのかは分からない】
という事例にも合致する。

 「区別する」という行動は、好き嫌いを示す行動として、発達的にはかなり早い時期から生じるようである。以前、2歳の孫娘が、「これ、ない」という発話をしているのを確認した。テーブル上の少し離れたお皿からハムを取ってもらおうとした時に、大人が「これっ?」といって順番に指差していくと、自分が欲しくない時には「これ、ない」と言い、欲しいものを指さされた時には「これ」と答えるのであった。どれを食べても同じはずなのだが、孫娘は自分なりの基準で、欲しいモノと欲しくないモノを区別しており、「ない」という言葉でそれを除外しようとしていたようであった。




 「区別する」ということには、適応上さまざまなメリットがある反面、対立や闘争といったデメリットも生み出す。

 以前、NHK「又吉直樹のヘウレーカ!で、

●「“ヒアリ”のホントの怖さって?」 (初回放送2018年8月29日。こちらに詳細記録あり。) )

という番組の中で、ヨーロッパに進出したアルゼンチンアリが、地中海沿岸のポルトガルからスペイン、フランス、イタリア西部にまでに広がる長さ6000キロにも及ぶスーパーコロニーを作っているという話題が取り上げられていた。多くの動物がそうであるように、アリも普通は、1匹の女王アリを中心としたコロニーごとに独立しており、血縁の違う蟻どうしは縄張り争いをする。ところが、この蟻たちは血縁がなくても仲間として受け入れてしまうのだという。これは原産地の南アメリカにはなかった特徴だという。なぜ、血縁の違いを区別しないのか(区別できないのか?)という議論は別として、とにかく、「区別しない」ことが外来種として新天地に定着していく上で大きなメリットになっていることは確かである。

 2018年11月24日に取り上げた、Star Trek Continuesの第9話「"What Ships Are For"」(放射線の影響で色が見えない世界に住んでいる人たちが、色が見えるようになってどうなったかという話)の最後のところで、

There is no "them" any more, my dear. Only "us." 【もう「彼ら」という呼び方はないのよ、あなた。「私たち」だけよ。】

と述べていたことも、区別する「them」と、区別しない「us」を考える上でまことに意義深い内容であると言える。もし「them」という言葉を無くしてしまったら、差別は起こりにくくなるかもしれない。

次回に続く。