じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 クスノキの隙間から射し込む夕日。3月に入って太陽の沈む方位が真西に近づいている。日没時刻が退勤時刻と重なってきたため、夕日を眺める機会が増えてきた。

2018年3月8日(木)


【思ったこと】
180308(木)徹底的行動主義をめぐるBaumとMooreの論争(9)

 3月7日の続き。

 Baumはさらに、Mooreの本は行動分析学の発展を正しく記述していないと主張している。Mooreの本ではすでに古い言葉となったtaxonomy (tropism, taxis, kinesis,fixed-action pattern, respondent, and operant)について分類記述されているいっぽう、「autoshaping」、「polydipsia」、「adjunctive behavior」の記述は見当たらず、Staddonの論文については引用されておらず、著者索引にBrelandの名前が含まれていないなど、最近の発展が網羅されていない。もちろん、Mooreの本は、行動分析学の教科書として書かれたものではなく、行動分析学の基本原理を論じたものであるから、それに必要な文献だけ紹介すればよいという考えも成り立つが、それを目ざすならそれなりに再構成する必要があると論じている。じっさい、Mooreの本の大部分は、1960年までの行動分析学についてしか描かれていない。

 そんななか、Mooreは関係フレーム理論については好意的に取り上げており、あたかも、行動分析学の1957年以降の唯一の発展は、「多くの行動分析学者が心理主義への後退であると見なしている」関係フレーム理論であり、スキナー以降の行動分析学は発展していないように見て取れる。

 なお、いま述べた通り、Baum自身は、関係フレーム理論は心理主義への後退であると批判しているが、Baum自身が関係フレーム理論派に直接論争をふっかけたことがあるのかどうかは確認していない。基本的には巨視的視点に立つという点では、関係フレーム理論もBaumの巨視的行動主義も共通している。決定的な違いは私的事象の扱いにあると思われるのだが、私的事象だけに限るならMooreを相手にしたほうが議論しやすいと判断されたのかもしれない。

 ちなみに、Moore自身は、関係フレーム理論について、以下の論文で論評している。

Jay Moore (2009) Some thoughts on the relation between derived relational responding and verbal behavior. European Journal of Behavior Analysis, 10, 31-47.

 その要約部分では、
We conclude that despite the value of RFT, the nature and causes of derived relational responding, as well as the relation between derived relational responding and verbal behavior more generally, remain an important area of investigation.
と述べており、多くの点でさらに検証が必要であるという立場をとっている。このことは、Baumに対するMooreの反論の中でも述べられている。Moore(2011)は次のように切り返している。
Perhaps Baum is interested in the reservations about Relational Frame Theory in Moore (2009), which he could have consulted prior to his review if he believed it was at all useful to accurately report my position for readers.


次回に続く。