じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 時計台前の「落ちないアメリカフウ」。推薦入試の受験生のお守りになりそう。


2017年12月02日(土)


【思ったこと】
171202(土)理論心理学会「生涯発達理論の構築に向けて」(6)病いとともにある人生に接近する

 昨日に続いて、日本理論心理学会第63回大会のシンポジウム

●生涯発達理論の構築に向けて―“オルタナティブ”におけるアイデンティティを中心に―

の感想。3番目の、

●病いとともにある人生に接近する―難病患者のindividual Quality of Lifeの変容から―

というタイトルの話題提供は、私のよく知っているFさんによるものであった。

 Fさんはまず、いろいろなQOLがあるという話題を紹介された。このうち、WHOが提唱したQOLは健康関連指標によるもので、「HQOL(Health-related QOL)」と呼ばれる。HQOLは、何らかのケアやセラピーの効果検証や予算の効率的な配分には有用であるが(平均値的に見て、QOLの増加が実証されたようなケアやセラピーにより多くの税金を投入する)、患者個人の価値観やニーズを反映するものではなかった。特に、難病で寝たきりの患者の場合などは、HQOLの値がすべてゼロとか、マイナス値(「死よりも悪いQOL値」)を示す場合さえあるという。
 それに対して、患者本位のQOL、すなわち、患者の個別性や主体性を重視したQOL評価法が開発されている。その1つに、Fさんが取り組んで来られたSEIQOL(Schedule for the Evaluation of lndividual Quality of Life)がある。そのなかの、SEIQOL-DWという手順では、
  1. 対象者に「現時点であなたの生活にとって重要な領域は何ですか。5つ挙げてください。(5つ挙がらない時は、あらかじめ用意された領域から選んでもらう。)
  2. 割合を手動で変えられるような円グラフ状のカラーディスクを用いて、各Cue(各領域につけられたラベル)を重み付けしてもらう。
  3. 各Cueの相対的重要度を評価する。
というような手順で、主観的従属度の変遷を記録し、さら半構造化インタビューも行い、個人の体験や認識を重視したiQOL(Individual Quality of Life)を把握するというものであった。 具体的事例として、進行性筋ジストロフィー患者の例が紹介された。iQoLによる評価は、当事者をとりまく環境を直接的に反映しており,その人の認識の変容だけでなく生活空間の変化もまた影響している、と論じられていた。健康関連指標に基づくHQOLでは把握できない、個人本位のQOLを把握することによって、より質の高いケアを提供できるという結論であった。

 SEIQOLの手法は要介護の高齢者にも適用できると思われる。「現時点であなたの生活にとって重要な領域は何ですか?」という問いは、ACTにおける「価値」を複数把握し、全体のバランスも調整できるという点で有用であるとは思う。ただし、認知症が進んだ高齢者の場合は、半構造化インタビューが難しい場合もあり、むしろ、頻繁に起こる行動が何に由来しているのかを推測し、どういう文脈で生じているのかを明確にしていくことが求められるだろう。