じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 生協マスカットユニオン2階の北側にあるアメリカフウの黄葉【写真上】。この場所は建物の陰になっていて殆ど日が当たらないため、真っ赤にはならない。写真下は北西角にあるアメリカフウ【11月2日撮影】。こちらは南側に建物がないため日当たりがよく、1ヶ月早く紅葉しすでに葉を落としている。


2017年12月01日(金)


【思ったこと】
171201(金)理論心理学会「生涯発達理論の構築に向けて」(4)可逆操作の高次化における階層一段階理論

 昨日に続いて、日本理論心理学会第63回大会のシンポジウム

●生涯発達理論の構築に向けて―“オルタナティブ”におけるアイデンティティを中心に―

の感想。2番目の、

●「可逆操作の高次化における階層一段階理論」に基づく知的障害のある人の成人期以降の発達的検討

という話題提供ではまず、
...人間発達はその後に用意された外界(環境)との相互交渉における主体的変化として捉えることができる。この際、変化は時間との相関で示される傾向にあるが、社会的刺激からも大きな影響を及ばされ、かつ複雑系統合組織体として機能する人間においては物理的時間軸への単純な原因帰属はできず、故にすべてを「発生」的変化に還元する企ては消滅する。
という視点が示された【抄録からの抜粋】。

 上記の考えにたつと、発達障がいにかかわる診断名は、人間発達のごく一部を評価したものにすぎないと言える。

 話題提供では続いて、滋賀県立近江学園の初代園長の糸賀先生の功績や、当時指導係長、後に京大教授となった田中昌人先生の「可逆操作の高次化における階層一段仮理論」が紹介された。「可逆性操作」というのはPiagetの漸進的構造化としての基本概念とは異なり、
必要な質的規定性と量的規定性をもった基本単位にもとづく操作変数をみずからのものとし、その段階にふさわしい安定した各種の逆操作ができるまでの操作の発生、発展、消滅の基本過程のすべて
をさす。このことから、
発達障害は可逆操作の高次化障害であり、可逆操作力と可逆操作関係の矛盾の自己運動障害
とみなすことができるという話であった。【いずれも、抄録からの引用】

 じつは、私が犬山のR研究所でお世話になっていた頃、ちょうど田中昌人先生も共同利用研究員として、サルや乳幼児の発達研究に来ておられたが、あの頃はもっぱら実験的行動分析の論文ばかり読んでいたため、人間発達の理論に関心を向ける余裕が無かった。といって、いま、上掲のような引用をしても、なかなかその意味を把握することは困難。但し、今回のシンポの趣旨にもあるように、人間発達について別の視点を提供している意義深い視点であることは分かる。

 話題提供では、単なる理論の紹介だけでなく、知的障がいのある成人における労働の意義について、過去12年間にわたる作業記録に基づく分析が紹介されていた。知的障がいのある人たちの労働は、遊戯的な行為に陥りがちであるが、経済的概念から離れた生産活動として捉え直すことで意義づけができる、といった内容であった【←長谷川の理解した範囲】。抄録のまとめでは、
...人間発達は個体的・能力的・行動的・標準的・評価的側面ばかりではなく、関係的・存在的・内面的・個別的・現象的側面の変化にも着目しながら「人間的価値の実現過程」として論じられなければならない時代が到来してきたのではあるまいか。
と記されていた。

 上記のお考えは、出発点となる原理があまりにも違うため私自身にとってはきわめて難解であり、行動分析学における随伴性に基づく生きがい観の構築、あるいはACTで重視されている価値とのつながりとの共通点を見つけるのはなかなか難しいが、作業記録自体を行動分析学的に捉え直しても同じような結論が導き出されるような気もした。

次回に続く。