じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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このところ『行動主義を理解する』の連載を続けているが、私が基にしている本は、森山先生の翻訳書【写真左】、昔、私費で購入したボームの英語初版本【写真中央】、2017年春に公刊されたボームの英語第3版【写真右】の3点セットとなっている。翻訳書のもとになっている英語第2版は、残念ながら購入していなかった。


2017年6月13日(火)


【思ったこと】
170613(火)ボーム『行動主義を理解する』(29)進化と強化(2)「誘発」ではなく「誘導」

 6月12日に続いて、

ボーム(著)森山哲美(訳)(2016).『行動主義を理解する―行動・文化・進化―』 二瓶社.

の話題。

 昨日も述べたように、ボームの本では、行動分析学における強化の原理と自然選択のアナロジーではなく、進化論そのものが心理学にとって必要であることが強調されている。「自然選択で生き残る」というだけでは生物は進化しない。ボームによれば、遺伝子型の適応度が高ければ高いほど、その遺伝子型は世代を重ねるにつれてますます優勢となる。そして、ある個体の平均的な遺伝子型が最大の適応度になると、その個体群におけるその遺伝子型の分布は安定する。

 上記のプロセスは、生物の形だけでなく、系統発生的な行動の進化にも見られる。まずは反射と定型化運動パターンである。外界の有害な刺激から身を守るような反射が起こりやすい個体は、反射の起こりにくい個体よりも生き残る確率が高い。このほか、適度に繁殖させる傾向も、重要である。

 この本では、行動生物学で取り上げられるFAP(定型化運動パターン、fixed action pattern)にも触れられている。これらが世代から世代へと受け継がれるプロセスは、形や体色と同様である。

 翻訳書90頁以降では、レスポンデント条件づけが取り上げられている。行動分析学の入門書では、レスポンデント行動は、刺激(無条件刺激または条件刺激)によって誘発される(elicited)反応として定義されているが、この本では代わりに「誘導する(induce)」という用語が妥当であるとしている。この場合、一種類の反応がどのようにして生じるのか(すなわち「誘発される」)という視点ではなく、ある文脈において、適応的な行動がセットとして誘導されるという見方をとっている。例えば何かを食べる時には、食べ物に関連した一連の行動が誘導されるのである。パブロフの条件反射では、通常、唾液分泌のみが反射の研究対象となるが、実際には、吠えたり、シッポを振ったりといった様々な行動が同時に誘導されているというのである。

 レスポンデント行動を、進化の中で形成された行動のセットとして捉える視点は確かに重要であると思う。レスポンデント行動は、局所的な反射として起こっている場合もないわけではないが、上記の「食べる」関連行動のほか、暑さ対策、恐怖反応といった、その生活体にとって重要な場面においては、全身的に起こっている点に目を向ける必要がある。唾液分泌、発汗、鳥肌といった1つの反応だけに注目してその誘発刺激を同定するというだけでは、行動の原因を解明したことにはならない。上記の、パブロフの犬について言えば、音刺激に対する唾液分泌という一対一の関係だけでなく、唾液分泌とセットで、吠えたり尻尾を振ったりといった行動がどのように「誘導」されるのかをも説明しなければなるまい。

次回に続く。