じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 2月25日は前期・個別学力試験が行われ、朝7時台から多くの受験生が大学構内に来ておられた。 ちなみに、この日は、私の定年退職まであと400日の節目の日にあたっていた。(2017年度が365日、2017年3月が31日なので合計396日。よって、2月が残り4日となる2月25日がその日を含んであと400日となる。)
 こうした風景に接するのもあと1回となる。

2017年2月25日(土)



【思ったこと】170225(土)オドノヒュー&ファーガソン『スキナーの心理学』(10)第3章スキナーの背景(4)マッハ(1)

 昨日の続き。

 第3章では、フランシス・ベーコンに続いて、エルンスト・マッハが取り上げられている。

 本書によれば、スキナーがベーコンの影響を受けることになったのはマッハによるところが大きいという。昨日も述べたように、ベーコンはシェークスピアと同世代(もしくは同一人物?)、これに対してマッハは1838年2月18日生まれ、1916年2月19日没となっていて、1904年3月20日に生まれたスキナーが11歳11ヶ月となるまで生きておられた。ちなみに、ウィキペディアには、マッハが影響を与えた人物の一人として、プラグマティズム、機能心理学、根本的経験論の学派にゆかりのあるウィリアム・ジェームズ(1842年1月11日-1910年8月26日)が挙げられている。スキナーへの影響を考慮するにあたっては、厳密には、ベーコンからの影響、マッハからの影響、さらにW.ジェームズの影響を区別する必要があるようにも思う。

 本書によれば、マッハが影響を与えた論点は以下のような主張であった。【長谷川による要約】
  1. 科学の目的は、諸現象の簡潔にして無駄のない記述である。すなわち、事実に対してもっとも合理的な記述を提供するのが科学の目的である。
  2. 科学者が追求する因果関係というのは事物間の関数関係の追求にすぎないとするヒュームと同一の見解に立っている。
  3. 原因という概念は隠喩的で表層的なものでしかない。科学の枠組みの中では原因ということばは否定されるべきだ。原因と結果ということばを純粋に表現するならば、2組の現象の中に存在する相互の関連的変化、もっと簡単に言えば、2つの変数間に存在する関数式ということになる。
  4. マッハは、仮説検証としての科学に反対している。彼は、事実そのものからではなく、仮説から理解を得ようとするのは、間違いのもとだ。
  5. 生活体は進化の過程で、環境内の事物を知覚し、知り、学ぶように作られている、したがって純哲学的な分析よりも、過去の環境の影響を知る方が、認識論上の疑問に対して、より合理的な答えが得られるはずだ。
 なお上記の4.に関して、マッハは認識論的現象主義の立場をとっていたが、スキナーは、マッハの認識論に対しては強く反論し、認識論に対して行動論の範鴫で再構築を試みていると指摘されている。

 上記と一部重複するが、第3章ではマッハの主要な影響が次の4点にまとめられていた。
  1. 科学は因果関係の追求をすべきであるが、その関係は変数間の関数関係としてとらえるのがベストである。
  2. 事実の説明に際し、いかなる場合でも徹底的にむだの排除を求めた。生理学や認知論を引き合いに出すのは、むだの排除という原則に反する。
  3. スキナーは、徹底して哲学的認識論を心理学に取り入れることに反対し、行動それ自身に基づく認識論の構築を試みた。【この部分は、マッハの影響というより、マッハに反対する立場を鮮明にしたという意味での影響と言うべきだろう。】
  4. ダーウィンの進化論を拠り所にすれば、ヒトの行動あるいはヒトそのものを知ろうとする時に、主要な疑問に答えるのに、いかに有用かを明らかにした。【ダーウィンの影響については、本章の終わりのほうで詳しく論じられている。】


 最後に昨日のベーコン同様、スキナーの著書の中でマッハがどの程度引用されているのかを手元の資料で調べてみた。
  • Skinner(1953).Science and human behavior. New York: Macmillan.
    原書13〜14頁に
    ... As Ernst Mach showed in tracing the history of the science of mechanics, the earliest laws of science were probably the rules used by craftsmen and artisans in training apprentices. The rules saved time because the experienced craftsman could teach an apprentice a variety of details in a single formula. By learning a rule the apprentice could deal with particular cases as they arose....
  • Skinner(1969).Contingencies of reinforcement: A theoretical analysis. New York: Appleton-Century-Crofts.
    304頁の1箇所。
  • Skinner(1971).Beyond freedom and dignity. New York: Knopf.
    引用見当たらず。
  • Skinner(1974).About behaviorism. New York; Knopf.
    引用見当たらず。
などとなっていた。

 次回に続く。