じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 工学部前の防火用貯水池に咲く睡蓮。カモが泳いでいるのを見かけることもある。

2016年06月22日(水)


【思ったこと】
160622(水)トールネケ『関係フレーム理論(RFT)をまなぶ』(53)派生的関係反応(25)刺激間のさまざまな関係(4)

 昨日に続いて、

Dougher, M. J., Hamilton, D., Fink, B., & Harrington, J. (2007). Transformation of the discriminative and eliciting functions of generalized relational stimuli. Journal of the Experimental Analysis of Behavior, 88, 179-197.

の内容を紹介していきたい。

 トールネケの本では、上記の論文の実験1のみが紹介されていたが、せっかくの機会なので、続く実験2と実験3についても簡単に触れておくことにしたい。

 実験2の実験参加者は関係づけ訓練が早くできた順に6人の学生が選ばれた(女性4、男性2)。実験時間は1.5時間から2時間程度であった。この実験は3段階から構成されていた。

 まずPhase 1では、実験1同様に関係づけ訓練が行われた。すなわち、見本刺激がAであった場合には一番小さい図形、Bの時は中くらいの図形、Cの時は一番大きい図形を選ぶと正解となる。なお、実際の刺激A、B、Cは、「三」、左右逆の「Z」、上下逆の「L」のような形のシンボルであった。

 次のPhase 2は訓練とテストから構成されていた。訓練時は、見本刺激A、B、Cのいずれかが提示され、比較刺激としては4種類の色(緑、紫、紺、赤)のついた円が2個ずつランダムに選ばれて提示された。見本刺激がAであった時に、比較刺激が
  • 緑と紫であれば緑を選ぶと正解
  • 紫と紺であれば紺を選ぶと正解
  • 紺と赤であれば紺を選ぶと正解
のフィードバックが行われた。言い換えると、見本刺激Aが提示された時、
  • 緑を選べば常に正解
  • 紫を選ぶことは、もう1つの色が紺または赤の時は正解。
  • 紺を選ぶことは、もう1つの色が赤であった時だけ正解。
  • 赤を選ぶことは常に不正解
というように正解の基準が設けられていた。これにより、結果的に

緑<紫<紺<赤

という恣意的な序列の関係づけがなされたことになる。なお、この段階では見本刺激は刺激Aのみであり、BやCは一度も提示されなかった。

 Pahse 2のテストでは、今度は、見本刺激としてA、B、Cのいずれかが提示され、緑、紫、紺、赤の4種のうちの3つが比較刺激として提示された。もしPhase 1で、刺激A、刺激B、刺激Cがそれぞれ比較刺激のサイズ「小」、「中」、「大」を選ぶように条件づけられており、かつ、Phase 2の訓練段階で、「緑<紫<紺<赤」という恣意的な序列の関係づけがなされていたとするならば、このテストでAが提示された時には、より低い序列の色が選ばれ、Bであれば真ん中、Cの時は高い序列が選ばれるものと期待された。

 実際の結果はFig.5に示された通りであり、6人の参加者中4人は、A、B、Cのいずれが提示された時にも100%の正答率(色刺激の疲労序列に対応した選択)を示した。残り2人もまずまずの正答率であった。

 最後のPhase 3は、実験1と同様のバー押しテストが行われた。但し、画面に提示されたのは刺激A、B、Cではなく、緑、紫、紺の円であった。ちなみに、赤は、バー押しが高頻度に起こると予想され、それに伴う疲労も懸念されたため提示されなかった。結果として、参加者6人のうち5人のバー押し頻度は、緑<紫<紺という順になった。残り1人はそのような傾向を示さなかった。その1人は他の5人に比べるとどの色に対してもきわめて高い頻度で反応しており、差が出にくかったのではないかと解釈されている。




 以上が実験2の内容であった。私が当初疑問に思ったのは、Phase 2の訓練は、

緑<紫<紺<赤

という大小の関係ではなく、単なる序列に過ぎないのではないかということ。例えば、色刺激は大きさではなくもともと以下のような位置関係にあると想定されていたとする。
  • 緑:いちばん左
  • 紫:やや左
  • 紺:やや右
  • 赤:いちばん右
 この場合、Phase 2の訓練で、刺激Aは「より小さい、に対応した色を選びなさい」ではなく「オリジナルの配置で左側のほうに置かれていた色を選びなさい」という手がかりとして機能していた可能性がある。但し、もしそのように学習されていたとすると、Phase 3の2種類のテストの結果は説明できない。やはり、Phase 1の大小関係の訓練によって形成された関係づけがPhase 2以降に影響を及ぼしており、機能の変換があったものと考えるのが妥当であろう。とはいえ、より確実に検証するためには、Phase 1を実施しない統制群を設定するべきであった。

 次回に続く。