じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 モーサテで毎週火曜日、ビジネス書ランキングが公開されている。2月〜3月に1位、2位を独占していた『嫌われる勇気』と『幸せになる勇気』(いずれも、岸見一郎・古賀史健著、右に再掲)は、4月に入っていったん2位以下にダウンしたが、直近の4月26日発表(4/18〜4/24、紀伊國屋書店調べ)で再び1位、2位を独占した。浮き沈みの激しいビジネス書ランキング界にあって、一昨年以来これほど長期にわたり上位を独占しているというのはスゴイ。

※このランキングは「リーダーの栞」の最後のところで紹介されており、過去の動画はこちらから閲覧可能。

2016年04月26日(火)


【思ったこと】
160426(火)トールネケ『関係フレーム理論(RFT)をまなぶ』(10)オペラントとレスポンデント(3)好子、嫌子の呼称問題

 昨日の続き。

 原書22頁(翻訳書32頁)では、強化子に関して次のような記述があった。
Another way in which respondent and operant learning interact is in how reinforcers and punishers are established. Stimuli that have not previously functioned as reinforcers can acquire this function by being associated with things that already function as reinforcers.
【中略】
Reinforcers that have their function without being learned - such as interpersonal attention, food when you are hungry, and warmth when you are cold - are called unconditioned or primary reinforcers. Reinforcers that have acquired their function by way of learning are called conditioned or secondary reinforcers. The corresponding terminology also applies to punishers: They can be unconditioned or primary punishers, or they can acquire their functions through association with other punishers and therefore be called conditioned or secondary punishers.【原書22頁】

 レスポンデント学習とオペラント学習が作用し合う場合はほかにもある。それは,どのように強化子(好了;reinforcer)と弱化子(嫌子; punisher) が確立されるか,というプロセスである。以前は強化子として機能していなかった刺激も,すでに強化子として機能しているものと関連づけられることで,この機能を獲得できる。
【中略】
強化子で,学習されることなくその機能を持っているものは,無条件性強化子(unconditioned reinforcers) またはー次性強化子(primary reinforsers)と呼ばれる - たとえば,対人的な注目,空腹時における食べ物,そして寒いときの暖かさ,などである。強化子のうちで,学習されることによって,その機能を獲得したものは,条件性強化子(conditioned reinforcers) またはニ次性強化子(secdndary reinforcers)と呼ばれる。これに対応する用語は,弱化子にも適用される。それらも,無条件性弱化子または一次性弱化子と呼ばれ,またはその機能をほかの弱化子との関連づけられることによっでその機能を獲得し,条件性弱化子またはニ次性弱化子と呼ぱれるのである。【翻訳書33頁。ゴシック体は斜体に改変。】
 なお、本書で「強化子」あるいは「弱化子」という言葉が登場するのはこの部分が最初であり、行動分析学に馴染みの無い方が初めてこの記述に接したときは少々面食らうのではないかと思われる。

 ちなみの本書の入門編にあたる、

ランメロ・トールネケ(著),松見淳子(監修),武藤崇・米山直樹(監訳)(2009). 臨床行動分析のABC. 日本評論社.

では、第5章129頁のところで「強化子」という言葉が突然?出現しているいっぽう、「弱化子」という言葉は一度も出てこないようである。146頁では「罰刺激(punisher) 」という言葉が登場しており、訳注には
[訳注10]日本では,このような混乱を避けるために「罰」を「弱化」,「罰刺激」を「嫌子」という名称で使用するようになっています。詳細を知りたい人は以下の文献に当たることをお勧めします。杉山尚子,佐藤方哉,マリア・E・マロット,島宗理,リチャード.W・マロット『行動分析学入門』.産業図書, 1998年 (TM)
と記されていた。

 このWeb日記で何度も取り上げているように、「好子」、「嫌子」という言葉は、上掲の杉山ほか(1998)が提唱している呼称であり、その経緯については、以下のような記述がある。
「好子」「嫌子」「弱化」の3語は、我々が作った専門用語である。ふつうは、それぞれ、「正の強化子」「負の強化子」「罰」とよばれている。また、出現とか消失という環境の変化を記述するために、ふつうは、それぞれ、「正の○○」「負の○○」という用語が使われている。たとえば、この章で扱った「好子消失の弱化」は、他の本では「強化子を除去して、!!!」などといわれている。何と煩雑なことだろう。また、「負の強化」とは、嫌子消失による強化のことだが、“負”を【と?】いう字のイメージから、「罰」と混同するケースが後を絶たない。英語圏でも同じように、学生たちが混乱してしまうという。本書が従来の慣行を捨てたのは、このような煩雑な用語が、学習の妨害になると考えたためである。この試みは、1993年ll月に発行された本書の暫定私家版以来、読者にはおおむね好評のようである。なお、「弱化」という用語の考案に際しては、Halzem & Miles(1978)にヒントを得た。【杉山ほか(1998)、66〜68頁】

 私自身もこの杉山ほか(1998)の主張に賛同しており、「好子」、「嫌子」の普及につとめてきた。

 この件に関する私の考えをまとめると以下のようになる。
  • 「正の」、「負の」はあくまで「正の」=「何かをプラスする」、「負の」=「何かをマイナスする」 という意味のみで使用すべき。よって、「正の強化子」、「負の強化子」という紛らわしい表現は使うべきではない。【4月19日の日記参照】
  • 「強化」というのは当該の行動の生起確率が増えること、弱化というのは逆に減ることを意味しており、行動変容の現象記述の範囲で使うべきである。よって、行動変容に影響を与える刺激・出来事を「強化子」とか「弱化子」といった類似の言葉で呼ぶことは望ましくない。
  • ということで、「強化」「弱化」「正の」「負の」と全く違った呼称として、「好子」や「嫌子」を使用することには賛成する。但し、「好」と「嫌」にはそれぞれ漢字として独自の意味が含まれており最善の呼称であるかどうかはなんとも言えない。これに代わる二文字の呼称が提案されれば将来的には賛同するかもしれない。
 要するに、例えば、
  1. 好子出現による強化:時間給1000円でアルバイト
  2. 好子消失による弱化:スピード違反で罰金をとられたことにより、スピードの出し過ぎが弱化される。
  3. 嫌子出現による弱化:バラの枝に触ったら棘に刺された。以後、素手で触らないようになる。
  4. 嫌子消失による強化:暑い日に団扇で扇ぐ。
というのを、「正の強化」、「負の強化」、「正の強化子」、「負の強化子」、「罰」で表現しようとすると、それぞれ、
  1. 正の強化子(時間給)の出現による正の強化
  2. 正の強化子(サイフの中のお金)の消失による罰
  3. 負の強化子(棘による怪我)の出現による罰
  4. 負の強化子(暑い温度)が消失する随伴性によって強化される負の強化
というようになるが、文字数が増えるうえに、強化子の名称としての「正負」と、「プラスする、マイナスする」という意味の「正負」が混在していてわかりにくくなるのは否めない。

 次回に続く。