じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 アテネの街角で見かけた落書き。見苦しいものばかりだが、さすがに遺跡の壁への落書きは見当たらなかった。落書き自体はギリシャばかりでなく、シャモニーやベルンでも見かけた。



2014年8月28日(木)

【思ったこと】
140828(木)2014年版・高齢者の心と行動(10)

 この講義は、行動分析学入門ではなくて「高齢者の心と行動」というタイトルになっており時間も限られていますので、ここからは、高齢者をテーマにお話を進めたいと思います。さて、少し前のところで、「好子(コウシ)」「嫌子(ケンシ)」について、
  • 好子:あなた自身が欲しがっているモノ、あったら嬉しいような出来事、条件などを思い浮かべてください。美味しいお菓子、食べ物、お金、家、車、旅行、他者からの感謝、花、健康状態など何でも結構です。
  • 嫌子:あなたにとって嫌なモノや出来事、条件などを思い浮かべてください。苦痛、暑さ、寒さ、嫌いな動物、騒音、など何でも結構です。
を思い浮かべてください。
とお願いしました。
 好子や嫌子には、万人共通の生得性好子・嫌子と、文化の影響や個々人の経験のもとで創られる習得性好子・嫌子があります。
  • 生得性好子:食べ物、水、適温、性的興奮をもたらす刺激など
  • 習得性好子:好みの食べ物、特定宗教の崇拝対象、芸術作品、音楽、趣味対象、社会的刺激など
  • 生得性嫌子:個体の生存や子孫の繁殖に有害となるモノ一般。痛み、痒みの発生源
  • 習得性嫌子:個人体験によって恐怖や嫌悪の対象となるモノ(動物や昆虫類)、社会的刺激など。特定宗教の忌避対象。
 では、高齢者の場合、好子や嫌子、あるいはそれらの出現や消失にはどのような特徴があるでしょうか?
  • 好子出現
     年金生活に入った人たちの場合は、とりあえず、「働かないと生活できない」という「好子消失阻止の随伴性」からは解放されます。健康に不安が無ければ、「行動すれば好子出現」、「行動しなくても平穏」という安定した暮らしができるようになるでしょう。

    【平穏】→行動する→【平穏なもとで好子出現】|【平穏】→行動しない→【平穏】

     しかし、だからといって、理想的なHappinessが実現するわけではありません。それを妨げる要因としては、まず、加齢に伴う体力・知力の衰えが考えられます。若い頃と同じような水準では好子が獲得できまぜん。山登りが生きがいの人であれば、若い時と同じレベルの登山はできなくなります。旅行が趣味の人は移動が困難となり、園芸が趣味の人も今までと同じようには作業ができなくなります。
     さらに、好子の種類が減ったり、行動を強化する力が減衰していく傾向が見られます。「あれほど好きだったのに、最近は興味を示さなくなった」などと言われます。その原因としては、まずは、生理的要因(生得性好子の強化力の減衰)がありますが、上記の登山や旅行や園芸の例にもあるように、「能動的に関われなくなった」こと自体が関心の低下をもたらしている可能性もあります。
     これらを対処するためには、能動的に関わること自体へのサポートと、高齢者に適した習得性好子を形成・維持するためのサポートが求められます。これらはいずれも高齢者ケアの根幹になるかと思います。
  • 嫌子消失
     高齢者にとっての嫌子は、自身の病気がもたらす苦痛、配偶者・近親者・親友などとの死別があります。これらの嫌子を消失させるためには、通院、リハビリ、心理的ケア、宗教的ケアなどが有効と思われます。
  • 好子消失
     少し前に、
    私たちが働いて賃金を得るのは、形式的には「働く→賃金(好子)」という好子出現の随伴性のように見えますが、じっさいは、働かないと解雇されて月々の収入(好子)が手に入らなくなるという「好子消失阻止の随伴性」で強化されている部分があります。
    と述べましたが、年金生活が安定している高齢者の場合は、若者に課せられているような「好子消失阻止の随伴性による労働の義務」からは解放されています。
     反面、人は誰でも死ぬ以上、どのように頑張って好子を獲得しても、最後は死によってすべてを失わざるを得ません。自分自身の死によってもたらさせる「好子消失」を阻止する方略としては、大きく分けて次の2つがあります。
    • 次世代への譲渡や社会貢献:自分自身が死んでも、好子自体は他者や自分の生きた社会において存在し続けるので何も消失しない。
    • 好子の中性刺激化:好子としての対象への執着を捨て、悟りを開く。
  • 嫌子出現
     上記の「嫌子消失」と関連しますが、病気の苦痛や他者との死別などは重大な嫌子であるため、その出現を何とかして阻止する必要が出てきます。その方略としては、以下が考えられます。
    • アンチエイジング:健康保持のために努力することで、嫌子の出現の時期をできる限り先延ばしする
    • 離脱理論的人生観:病気や死、あるいは他者との死別は人間にとって当然のプロセスであるとして受け入れ、それに見合った生活をする。
    • 人は死ねば天国に行かれると信じることで、死を嫌子ではなく、習得性好子となるように信仰を強める。



次回に続く。