じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 11月20日早朝の月。月齢は16.4で、20日02時15分に赤緯最北となった。写真上は、本部棟の国旗掲揚塔と重ね合わせた写真。月は毎日どこかの位置に現れるが、周辺の樹木の関係で、月の方位が北に偏っていないとこのような写真は撮りにくい。また、この日は、時々、薄い雲越しに月暈が見えていた【写真下】。

 なお、この日も、野鳥観察用望遠鏡でおとめ座スピカから水星右側方向を念入りにチェックしたが、アイソン彗星らしき光のモヤモヤを見つけることはできなかった。とはいえ、11月29日の太陽最接近まであと9日となり、突発的な増光の可能性が高まっており目を離せない。





2013年11月19日(火)

【思ったこと】
131119(火)第6回日本園芸療法学会広島大会(20)浅野理事長の教育講演(14)園芸療法の効果の評価(7)2006年岡山大会での長谷川の企画趣旨説明

 昨日の続き。今回の浅野理事長の基調講演では、「待つこと」や質的研究による評価の重要性が指摘された。そこで、私自身が2006年の人間・植物歓迎学会岡山大会で公開シンポジウムを企画させていただいた時の企画趣旨説明の内容【口頭による説明のテープ起こし】をここに再掲させていただく。今回の基調講演を聴かれた方への追加資料として活用していただければ幸いである。

 公開シンポジウム『人間・植物関係における質的研究の意義と可能性』の企画趣旨について
                            長谷川芳典(岡山大学文学部)

 2003年の時にも,一度パネリストとして「園芸療法の効果」や実験的方法の問題点というようなことをお話しさせていただきました。今回はその話題提供ではありませんので,いくつかの事例を簡単に申し上げ,本シンポの意義づけに代えさせていただきたいと存じます。
 まず「実験的方法により分かることと分からないこと」として幾つか事例を挙げてみましょう。
 ある部屋に柱時計があって,それがその部屋の人に癒しの効果を与えているかどうか。これを実験的に確かめようとするならどうしたらいいか。普通は柱時計を取り付けた条件と柱時計を取り外した条件で比較するという,実験群と統制群を設けて,一定の時間その状態を維持します。 それからその後の反応を見る。その後,群間比較によって,効果があるかないかを見る。一般的に西洋医学の薬の効果と言うのはこういう形で,薬を与えるグループと与えないグループで効果があるかということで調整する。そういうことはいちばん典型的な実験の方法だと思うわけですけれども,少しその内容を変えて,柱時計ではなくて柱の癒し効果を調べるようなことが必要になったらどうするか。もし伝統的な方法でやるとすると,柱がある条件とないという条件を比較すればいいんです。当然その,部屋から柱を取ってしまえば,家が壊れてしまう。ここで何を言いたいかというと,柱というのは部屋の1つの要因ではありますが,全体にも関与している。その要因を独立させてしまうと全体が壊れちゃう。その要因を取り除いちゃったら,全体が壊れてしまう。そういう相互に連関したものということは,単純な実験効果では検証しにくい。
 次に,面接場面で,相手に微笑みかけることがどのような効果をもたらすか,実験的に検討する事例を挙げたいと思います。伝統的な方法であれば,微笑むか,全然微笑まないで無表情であるか。この2つを比較すればよいことになります。では。文脈上,何の必然性もないのにニタニタ笑っていれば実験条件を満たしたことになるのか。相手の人は「変な人だなぁ」と思うだけでしょう,つまり微笑みの効果というのは,会話の文脈に依存して始めて効果がある。
 3番目は少し観点を変えて,「一泊の温泉旅行の効果」について考えてみたいと思います。ここで言いたいことは,温泉旅行といっても,単にお湯に浸るか浸らないか,ある効能のある温泉に30分間浸るか浸らないか,それによって効果があるかということだけではなくて,多分その温泉に行くにはその前に楽しみにしているという時期がずーっとありまして,そうすると「今度温泉に行くから,今頑張ろう」というように,かなり先のイベントに対してもう少し前のところで行動に関わることがある。それから温泉に行けば,当然そこにいる人たち,あるいは一緒に行った人たちとの関わりがありますので,それもまたいろんな影響を及ぼすことがあります。さらには,温泉に行ってきて戻ってから,それを日記に書いてみるとか体験を整理してみることも楽しみです。つまり,一泊温泉旅行の効果というのは一つの要因ではなくて,いろいろな要因がパッケージのようなものとして影響している。そういうときには,単純に一つの要因だけを取り出して,実験統制なんて出来ないと思います。
 実験的方法は,単一または少数の独立要因の効果を検証する場合には,非常にクリアに結果が得られるわけですけども,以上三つの例のように,現実には,種々の要因が相互に連関しあっていたり,文脈に依存したり,パッケージとして作用するケースが多々あります。園芸療法,あるいは,広く,植物との関わりの効果を検討する場合も,このことを考慮する必要があります。

 ところで最近,心理学の1つの流れの中で,実験的な方法に対する痛烈な批判が起こりつつあります。例えば,『心理学の新しいかたち』(誠信書房)というシリーズが刊行されていますけれども,その第1巻『心理学論の新しいかたち』(ISBN4-414-30152-1,2005年)第1章の部分では,科学としての心理学の問題点がさまざまな点から再考されています。特に,この本の第4章では杉万俊夫先生が社会構成主義について紹介されています。
 社会構成主義と言えば,最近日本でもいろいろな本が刊行されています。そのうち,ガーゲンの『あなたへの社会構成主義』(ISBN4-88848-915-7,1999年)では,自然科学的・実験的な方法の問題点がいろいろと述べられています。ちなみにガーゲンという人は,かつては非常に注目されていた実験社会心理学者のお一人でした。しかし今では批判者の立場にまわっています。とにかくガーゲンの考え方は,それに賛同するか否定するかは別として,とにかく一度は知っておくべきだと思います。
 さらに大きな注目点は,質的心理学の台頭ということですね。今,いろいろなところで質的心理学のセミナーなども行われています。日本でも質的心理学会という学会が設立されて,2006年には第3回大会が開かれます。ちなみに,今回お話をいただく松本先生は,今度の大会が開かれるところ(=当番校)ともかなり関係が深い。後で自己紹介をしていただけると思いますけども。質的心理学会ができて,学会誌が公刊されるようになったことで,日本の心理学界にもかなり影響が出ていると思います。
 質的方法にはいろいろな流れがあります。心理学ではありませんが,川喜田二郎先生のKJ法も,主要な質的研究法の一つとして活用されてきました。本日の配布資料の中に,私のところの大学院生の福島和俊の論文を入れさせていただきました。これはKJ法と因子分析に関連するものです。因子分析そのものの手法というのは非常に客観的で数量的に扱っていますけれども,最後に「何とか因子」って名前をつけるんですね。その名前の付け方などは,その研究者がかなり直感的に判断する。このあたりはKJ法と関連づけられるのではないかと思う部分があるかと思います。このほか,私の公式ページからは,グラウンデッド・セオリーアプローチについてのリビューなどもリンクしてありますので,ご覧いただければ幸いです。
 質的心理学にはほかにもいろいろな流れがありますが,一般的に,かなり長期的な視点で個々人の行動を捉えています。
 人間と植物の関係を考える際にも,短期間の実験・調査ばかりでなく,もっと長期的な視点で,1人の人間に対して,さらには広く何世代かの人間と植物の関係を捉えていくことが求められていると思います。じつは,この学会でも随分長期的な視点ということについては話題にされておりまして,特に昨年度の鶴岡大会の初日には,人が森を作る,屋敷林のフォークロア,焼畑農業など,非常に長期的な視点で,それも個人だけじゃなく世代を超えた関わりについて貴重なお話しをいただき,たいへん感銘したところであります。なお,このことについての感想を,小生のホームページ
http://www.okayama-u.ac.jp/user/hasep/journal/psy-rec/_50602/index.html
に掲載しており,また,長期的な視点の重要性ということに関しては,
http://www.okayama-u.ac.jp/user/hasep/articles/2006/_607Hasegawa/_607Hasegawa.pdf
に関連論文を公表しておりますので,ご高覧いただければ幸いです。

 最後にもう一つ,5月31日にたまたまNHKの『クローズアップ現代』で,パチンコ依存症という話題が取り上げられました。このことと,園芸活動についてちょっとだけ申し上げておきたいと思います。番組によりますと,パチンコ依存症の人は100万人くらいいて,離婚したり借金したり。で,それをどうやって治すかって言ったときにまずは病気であるということを認めさせる。その上でパチンコに行かない,そういう所に近づかないっていうようにしたり,パチンコから遠ざかるように環境を利用したり,あと認知行動療法をやる。それは1つのやり方としては重要なんですけども,パチンコやらないって言って,パチンコに近づかない,パチンコに行くのは悪いこと,パチンコばっかりやっているとこういう悪い結果になりますよっていうことを認知行動療法でいっぱい言ってもですね,それは何もポジティブな生き方につながらない。もし,その人が園芸活動をしたならばどうなるかというと,それはかなりポジティブな生き方になっていますね。
 では,今度は園芸依存にならないかということなんですけども,これは園芸療法を考える重要なポイントになるかと思います。配付資料にもお示ししましたが,パチンコと園芸のいちばんの違いは,パチンコっていうのはその日のうちにいっぱいお金をつぎ込んで,玉がいっぱい出るような結果を直後に,それがまた時たますごく大きな結果が得られるから,深みにはまってしまう。いっぽう園芸の場合は,同じように努力しても,すぐに結果は出てこない。長い時間をかけて初めて花が咲く,実が実る。じっくり待つ必要がある。それと一体となって結果が伴う。そういう中では自分を見つめる期間っていうのがありますし,ゆとりも生まれますので,パチンコ依存の人が園芸依存になりすぎて,園芸で身を滅ぼすことはまず考えにくい。そうするとパチンコ依存を治すための園芸療法というのがあってもいい。そういうときには園芸療法そのものの受容的な効果というよりも,いかにパチンコ依存の人におもしろく園芸をさせるか,どういうステップで園芸活動を楽しいものに変えていくかっていう,そういうトレーニング,トレーニングのプロセスの開発があってもいいんじゃないかと思います。
 ということで,今日の夕方と明日発表がいろいろありますが,ぜひこのような視点からも取り組みが増えて,人間と植物との関係をめぐる研究がより実りある豊かなものになることを期待いたします。

※ 本稿は, 2006年6月3日(土)に行われた本学会2007年大会公開シンポジウムの内容を,出演者の了解をとったうえで録音して書き起こし,本稿のみを閲覧しても内容が伝わるよう,関係者に加筆修正をお願いして作成したものである。なお,テキストの書き起こしは,岡山大学大学院・社会文化科学研究科・大学院生の福田茉莉,福島和俊が担当した。


 次回に続く。