じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 農学部農場の田んぼで、気づかぬうちに稲刈りが行われていた(写真右のエリアが一部残っているだけ)。10月7日にはまだ稲穂が見えていたので、10月8日から9日の間、台風の雨が降る前に大急ぎで刈り取られたのかもしれない。


2013年10月09日(水)

【思ったこと】
131009(水)高齢者における選択のパラドックス〜「選択の技術」は高齢者にも通用するか?(29)選択とうつ(1)

 10月7日の続き。

 シュワルツの本の第十章では、選択と失望、うつとの関係が解説されている。章の2番目の段落では、アメリカ人の幸福感指数(happiness auotient)が一世代前から一貫して下降傾向を続けており、「very happy」と回答した人の比率は30年前より5%、人数にして約1400万人も減ったことが私的されている。この期間にGDPが倍以上に増えているのとは対照的と言える。

 なお、幸福に関する議論では、ノーベル賞受賞者のカーネマンが、TEDのプレゼンで、「経験の自己より記憶の自己」ということを語っておられる。いま幸福に過ごしているかどうかということと、幸福に過ごしたかどうかを評価することと違い(being happy in your life, and being happy about your life or happy with your life)を見極める必要がある【2012年12月7日の日記参照】。

 いずれにせよ、「あなたは幸福ですか?」というような質問が、自分と他人との比較を基準にしてなされるのであれば、GDPが倍になっても、他者との相対的評価は変わらないし、格差が広がれば、評価が下がることは十分に考えられる。いっぽう、過去の自分の状態と比較するのであれば、GDPや平和、治安、政治的安定などは、その人個人内での相対比較を上げることにつながる。じっさい、日本の高齢者では、戦争中や戦後の混乱期と比較して、「あのころに比べれば今はずっと幸せ」と評価する傾向があるようだ。

 評定値の比率変動だけであれば、それほど問題にすることは無かろうとは思うが、「臨床的うつ(clinical depression)」の急増があるとしたら看過できない。シュワルツは「臨床的うつ」を幸福感指数の反対側の極と見なしているようであるが、「臨床的うつ」は、単に、連続的なスケールの値で決まるものではなく、さまざまな質的特徴をもたらし、日常生活を困難にしていく。高齢者でも似たような症状が起こりがちであるが、その原因は、若者や現役世代で生じる「うつ」とは異なるタイプが多いはずだ。また、精神科病棟に入院している高齢者の場合、暴言や暴力などの問題行動があると抗精神病薬(antipsychotics)が投与されることがある。薬が効いてくれば当然、不活発になり、昼間でもソファでぼんやりしているだけの状態になってしまう。これについては、実質的に抑制や拘束と同じことをしているのではないか、という批判がある。問題行動発生には必ず何らかの原因があるはずで、発生原因を取り除いたり、問題行動を競合する適応的行動を強化するような努力が求められる。

 次回に続く。