じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 12月7日(金)は日中はよく晴れていたが夕刻になって雲が多くなり、夜に入ってから合計4.5ミリの雨を記録した。写真は、雲の隙間から奇跡的に現れた夕日。太陽本体の輪郭は円形であるが、周りの薄雲がぼんやり光っていることと、中心部を細い雲が横切っているせいで、2つに分断されてゆがんでいる。どこぞの政党のロゴマークのような形にも見える。


12月7日(金)

【思ったこと】
_c1207(金)TEDで学ぶ心理学(20)Daniel Kahneman: The riddle of experience vs. memory.(1)

 今回からは、

Daniel Kahneman (2010). The riddle of experience vs. memory.

を取り上げることにしたい。

 ウィキペディアのリンク先にも記されているように、ダニエル・カーネマンは、経済学と認知科学を統合した行動ファイナンス理論及びプロスペクト理論で有名なアメリカ合衆国の心理学者、行動経済学者である。2002年には、ノーベル経済学賞を受賞している。

 少々脱線するが、1975年頃だったと思うが、Edmund Fantino先生が京大で2回ほど特別講義をされたことがあった。その際に、特に注目を浴びている研究として紹介された2つの研究のうちの1つが、カーネマンとトベルスキー(←確か、Fantio先生は「トゥヴァースキー」というように発音していた)の一連の研究であり、そんなこともあって、私は、かなり早い時期から、 Tversky & Kahnemanの論文を拝読する機会に恵まれていた。ちなみに、ウィキペディアのリンク先によれば、トベルスキーが生きていれば当然、カーネマンと同時にノーベル経済学受賞することになったはずであるが、残念ながら1996年に59歳の若さで亡くなった。

 元の話題に戻るが、とにかく、カーネマンと言えば、私のような凡人には思いつかないような優れたアイデアを提供している人という印象が強い。そのカーネマンがHappinessについて語るというのであるから聞き逃すわけにはいくまい。
 もっとも、カーネマンは、幸福とはこういうものだということを語ったわけではない。むしろ、「Happiness」という1つの言葉でいろいろなことを語りすぎることに警鐘をならしているとも言える。【以下、スクリプトからの転載。一部、長谷川の補足】
Everybody would like to make people happier. But in spite of all this flood of work, there are several cognitive traps that sort of make it almost impossible to think straight about happiness.
皆に幸福になってもらいたいことがわかります しかし そのような努力があるにも関わらず 幸福について 明瞭に考えること【幸福を直接取り上げて論じること】を ほぼ不可能にしてしまう認知の罠が 幾つかあります

...The first of these traps is a reluctance to admit complexity. It turns out that the word "happiness" is just not a useful word anymore, because we apply it to too many different things. I think there is one particular meaning to which we might restrict it, but by and large, this is something that we'll have to give up and we'll have to adopt the more complicated view of what well-being is. The second trap is a confusion between experience and memory; basically, it's between being happy in your life, and being happy about your life or happy with your life. And those are two very different concepts, and they're both lumped in the notion of happiness. And the third is the focusing illusion, and it's the unfortunate fact that we can't think about any circumstance that affects well-being without distorting its importance. I mean, this is a real cognitive trap. There's just no way of getting it right.
...罠の一つは 複雑さを認めることへの抵抗感にあります 幸福という言葉は もはや役立つ言葉ではない― という事が明らかになりました この言葉を様々な事に あてはめすぎるからです この言葉には 特定の意味合いがありますが 概して 狭い意味に 限定することは諦めて 幸福な状態とは何か もっと複雑な見方を しなくてはいけないのです 二つめの罠は 体験と記憶を混同してしまうことです 生活の中で見いだす幸福と 自分の人生の幸福度合い この違いです【いま幸福に過ごしているかどうかということと、幸福に過ごしたかどうかを評価することとの違いです】、 この二つは非常に異なる概念ですが どちらも幸福という一つの観念にまとめられがちです 三つめは錯覚に焦点を置くこと 幸福の状態を左右する状況を ゆがめて考えてしまうのは 残念なことです これは まさに認知の罠です 正確に理解する方法が無いのです
上掲の後半部分「...basically, it's between being happy in your life, and being happy about your life or happy with your life. 」という部分での「in」と「about」の使い分けは、簡潔な名表現であると思う。

次回に続く。