じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 行動分析学会年次大会の会場となった岐阜大学は、2005年度から敷地内禁煙となっており、こちらの資料によれば、国立大学の中では最も先進的な禁煙対策を実施している大学の1つであると言える。そんなこともあり、岡大敷地内喫煙ゼロをめざす安全衛生委員活動日誌を執筆している私としては、敷地内の吸い殻ポイ捨ての有無には大きな関心を寄せていたが、バス停と会場の間で見つけた唯一の吸い殻は写真左の1本のみであった。もちろん、喫煙行為は全く見られなかった。なお、この日(日曜日)は、当該学会のほかに学外団体による講習会も開かれており、このポイ捨てが岐阜大関係者によるものかどうかは定かでは無い。

 写真右は、バス停にあった「岐阜大学禁煙宣言」のポスター。詳細情報がこちらにある。いくつか引用させていただくと、
  • この6年間で入学年次の喫煙率(男子)も約10%から数%に減少していますが,卒業年次の喫煙率(男子)は33%から13%にと確実に減っています。
  • キャンパス内での喫煙者には,学生・教職員・外来者を問わず,「イエローカード」を出します。このカードをもらってしまった方は,保健管理センターや病院の禁煙外来を訪ねるなどして,タバコを止めるきっかけとしてください。
  • 岐阜大学がキャンパスを全面禁煙にしたのは,学生の人たちがタバコを覚えないようにするためです。
  • 全くやめる気がない人は,本人の責任ですので無理は言いません。ただ,大学では吸わないで下さい。勤務時間中にお酒を飲まないのと同じことです。
  • もし,少しでもやめようと思っているのであれば,大学病院の禁煙外来に相談して下さい。専門家がお手伝いします。保険もきくようになりました。
  • 学生の人は,保健管理センターが無料で相談に応じます。
  • 学生の方には禁煙補助薬(ニコチンパッチ)を禁煙成功まで無料で提供し,禁煙に成功した学生には学長から表彰状を渡しています。
  • 教職員の方には,大学病院の禁煙外来の紹介などを行っています。禁煙外来での診察や禁煙補助薬が健康保険の適用となっていますので,是非ご利用ください。
 ということで、強度のニコチン依存者に対しても、ケアが充実しているようである。後進の岡山大学としても大いに参考にする必要がある。



2013年07月31日(水)

【思ったこと】
130731(水)日本行動分析学会第31回大会(5)健康行動への行動経済学からのアプローチ(3)依存症の定義と新たな手立て

 昨日に続いて、7月27日(土)午前に行われた、

27日午前の学会企画シンポ:「健康行動への行動経済学からのアプローチ」

のメモ・感想の連載3回目。

 3番目の話題提供では、薬物依存症と病的ギャンブリング(パチンコやパチスロなど)に関して、行動経済学の視点、他行動強化や代替性、補完性などによる介入法についてきめ細かく論じられた。

 まず、私たちは、普段、なにげなく、「アル中」とか「依存」といった言葉を使っているが、「中毒」と「乱用」と「依存」はそれぞれ厳密に区別されている。例えばお酒に関して言えば、
  • お酒を飲んだあとに気分が悪くなり、嘔吐したりするのは「中毒」
  • アルコール摂取が禁止されているイスラム圏で飲酒すれば、「乱用」
  • 薬物の血中濃度が低下することで離脱症状(禁断症状)が出てくるのが依存。依存になると、その摂取のための行動が他の日常行動より優先されるようになる。
というように区別できる。WHO(世界保健機関)が作成したICD-10では「依存」は、
ある物質あるいはある種の物質使用が、その人にとって以前にはより大きな価値をもっていた他の行動より、はるかに優先するようになる一群の生理的、行動的、認知的現象。
というように特徴づけられるという。

 今回の話題提供では、薬物依存と併せて「病的賭博」の問題が紹介された。この場合、生理的な意味での禁断症状はなさそうにも見えるが、
社会的、職業的、物質的および家庭的な価値と義務遂行を損なうまでに患者の生活を支配する、頻回で反復する...
というように特徴づけられている。

 さて、統計によると、日本人では成人男性の9.6%、女性1.6%が病的ギャンブリングに罹患しているという(樋口,2009)。その80%はパチンコ、パチスロであるという。これは、欧米の罹患率0.8%〜2.5%に比べるときわめて高い。原因の1つは、行動コストが低いこと(すぐ近所にパチンコ屋があることなど)によるものと考えられているという。かくいう私も学部学生時代、特に卒論の実験期間中は、ほぼ毎日、百万遍角のパチンコ屋に足を運んでいた。ちなみに、私がパチンコを止めた原因は、数回ほど、長時間時間を費やして「打ち止め」を出したことによる疲労と飽和化によるものと推定している。(その後もパチンコ屋に入らなくなったのは、私が楽しんでいた頃のような、ダイヤルのようなもので自動的に玉を打ち出す仕掛けになってしまったために、親指でバネをはじくというオペラント行動機会が奪われたためであろうと考えている。) あと、スロットマシンは、米国グランドサークルツアーの最終日に、本場ラスベガスで数百円ほどチャレンジしてみたことがあるが、能動的な行動機会のないシンプルな運試しのようなものにどうしてはまるのかは分からずじまいであった。

 さて、今回の行動経済学の観点からは、上にも述べた「行動コスト」の問題、需要の価格弾力性(薬物使用の代替性など)、遅延報酬割引に関する諸考察などがある。遅延価値割引の理論を適用するには、長期的利益がいったい何であるのか?(健康的な生活?、あるいは、身体的障害や精神障害、借金、自殺などの長期的な不利益?)を確定しなければならない。形式的には、「二度とやりません」が「つい、やってしまいました」に逆転してしまうのは、小さな好子(刹那的快楽)が遅延する大きな好子(健康?)を上回るという「選好逆転」として図解できる(Hursh et al., 2013)。他の話題提供とも共通するが、遅延価値割引の高い人のほうが、タバコや飲酒やギャンブルの習慣があると言えないことはない。

 とにもかくにも、嗜癖や依存症を薬物で治療することは困難であり、実際には、自助グループや認知行動療法などが有効とされてきた。近年、行動経済学の発展により、オープン・エコノミーの視点(入院や服役中と、退院・出所後の環境の違い)、他行動強化を重視した回復プログラム、正の強化の重視、選好逆転を防ぐ手立てなどについて、新たな進展があるというように理解できた。

次回に続く。